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第22話 許されざる行為

 私は防犯魔法の警告を受け、ひとりでマダム・ミルディアンスの占いの館に戻っていた。どこかしら怪しい雰囲気を漂わせているその建物はひっそりと静まり返っていた。


「ひとまず探りを入れてみるか」


 私は正面から行かずあえて館の周辺から調べてみることにした。私は背を低くし建物の裏側へ回った。

 すると占いの館にはいくつか窓があって、そこから中の様子が伺えた。私は気づかれないようにゆっくりと頭を出して中を覗いた。


「いた。マダム・ミルディアンスだ」


 その窓から彼女のうしろ姿が見えていた。最初会った時と同じ円卓に着き、何やら呪文のような言葉を発していた。

 彼女がせわしく両手をかざしていたのはあの宇宙儀だった。そこに映像が浮かび上がっていて、アウラの姿が映っていた。


「やっぱり思った通りだ……」


 どうやら私の勘は当たったようだ。これまでの騒動がマダム・ミルディアンスによるものであることは間違いなさそうだ。私はしっぽを掴んでやろうと行動に出た。


 さらに奥に進むと館の裏に小さな勝手口があるのを見つけた。私はその扉のノブに手をかけゆっくりと引いてみた。けど、内側からかんぬきがかけられていて開けることはできなかった。


「こんな時に使える魔法があれば……」


 私は魔導書を取り出して調べてみることにした。ふわりと浮かんだ魔導書は私の意思を読み取ってパラパラとページをめくっていった。

 目についたのは解錠魔法や壁をすり抜ける魔法だったけど、どれも冒険者レベル5以上が必要でレベル1の私では習得できなかった。


 私にできる魔法はないのかと諦めかけていると、魔導書はあるページを開いて見せた。


「つまみ食い魔法? どういうこと?」


 私は不思議に思いながらそのページを読んでみた。『つまみ食い魔法』はその名の通り、親の目を盗んでお目当てのお菓子をつまみ食いするいたずらレベルの魔法だった。ご丁寧に対象年齢10歳以下と書かれていたが、これも一種の生活魔法だった。


 何だか魔導書にバカにされてる気もするけど、レベル1の私が使える魔法はこれだけだった。私は魔導書が推すこの生活魔法に賭けるしかないようだ。


「仕方がない。これで何とかするか」


 私は魔導書に手をかざしつまみ食い魔法を習得した。さっそく試してみることにする。裏口のかんぬきが見える窓から狙いを定め、小声でつまみ食い魔法を発動した。


「いっけー!! つまみ食い魔法!!!!」


 すると目の前にマジックハンドのようなおもちゃの手が現れた。それがビヨーンと伸びて壁をすり抜けていくと、扉のかんぬきに手が届いた。

 

「よし。これで何とかなりそう……」


 でも、これはあくまでつまみ食いするというだけの魔法で精度は高くなかった。ぷらぷらと揺れていて上手く操作できない。私は慣れない魔法に手こずっていた。


「ぬぐぐぐ、これは難しいな……」


 かんぬきは木製で、扉と壁をまたぐように横木がかけられていた。扉を開けるためには取っ手を掴んで横にずらさなければならないのだが、マジックハンドの握力は弱くて掴むことさえ難しかった。


 何度も失敗を繰り返したけど、私はめげずに解錠を試みた。するとようやく、がちゃりと音を立ててかんぬきが外れた。


「やった! 上手くいった!」


 私は興奮を抑えつつ、そろりと勝手口から中に入った。そして物音を立てないように近づいてマダム・ミルディアンスの背後を取った。それでも彼女はまだ私の存在に気づいていなかった。


「じゃあ次の呪いは何にしょうかアウラ。お前が早く戻ってこないと、どんどん悪いことが続くよ。迷ってる暇なんてないんだから、早くひょうたんの髪飾りを買うんだよ」


 マダム・ミルディアンスのスカートの裾から、うろこで覆われたしっぽがはみ出ていた。彼女は人間ではなく魔物だった。とても楽しそうにくねくねとしっぽを振っていた。


「次は犬のうんこを踏んづける呪いをかけてやろう。それでもダメなら、交通事故に遭ってもらうしかないね」


 今までのアウラの不遇はこのインチキ占い師がかけた呪いだったのだ。それもひょうたんの髪飾りを高額で売りつけるためのマッチポンプだった。私はふつふつと湧き上がる怒りを抑えきれず、彼女のしっぽをぎゅっと掴んだ。


「ぎゃっ!」


 マダム・ミルディアンスが悲鳴を上げた。そして私の方に向き直った。


「あっ、あんたはアウラのお友達だねえ。い、いつの間に?」


「さっきからずっとだよ。後ろでお前の悪事を全部見ていたんだ。何かおかしいと思ったらお前がアウラに呪いをかけていたんだな」


 私は掴んだしっぽをさらに締め上げた。


「痛たたたたっ!」


「まさか魔物だったとはね。本当にしっぽを掴めると思ってなかったよ」


 すると突然バタンと勢いよく正面の扉が開いた。駆け込むようにして館に入ってきたのはアウラだった。


「大先生! うんこ踏んずけて大変なので、ひょうたんの髪飾り買います! って、あれ? どうしてニーナがいるの?」


「マダム・ミルディアンスはアウラに呪いをかけて開運グッズを買わせようとしていたんだ。アウラが大変な目にあったのも全部呪いのせいなんだよ。その証拠にこいつは……」


 私は勢いよくマダム・ミルディアンスが被っていたベールを剥ぎ取った。すると現れたのはトカゲの顔をしたリザードマンだった。マダム・ミルディアンスは慌てて顔を隠した。


「もう無駄だよ。あんたにはちゃんと罪を償ってもらうからね」


「ちょっと話を聞いてくれんか」


「もう遅い!」


 私の怒りに反応して、ヴォルフが館の屋根を突き破って飛び込んできた。その衝撃にマダム・ミルディアンスは悲鳴を上げた。


「ひぇええええええええええ!!!! ヴォルフ様ではないですか! どうしてここに!?」


「グルルルゥウウウウ」


「処刑ですか、そうですか……、はあ……」


 愕然とするマダム・ミルディアンスに有無も言わさずヴォルフが攻撃態勢を取った。口を開けると火の玉が次第に大きく膨らんでいった。


「私は大切な仲間を傷つけるヤツが絶対に許せないんだ!! マダム・ミルディアンスよ、観念しろ!!」


「はぎゃぁああああああああああ!!!!」


 私の怒鳴り声を合図にヴォルフが火の玉を放った。それがマダム・ミルディアンスに直撃すると、ギャグみたいな巨大な火柱が上がり占いの館ごと彼女を吹き飛ばした。 

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