第21話 ひとりカタストロフ
「まったく何なんだよあのインチキ占い師は! アウラに変なことばかり吹き込んでさ! 歯クソ占とか意味わかんないし、本当やんなっちゃう!」
私は激怒していた。アウラを怖がらせた上に、開運グッズまで売りつけようとしたマダム・ミルディアンスのことが許せなかった。何が大災厄だと悪態をついていた。
「ごめんねニーナ。私のワガママに巻き込んじゃって……」
「アウラは悪くないよ。悪いのはあの占い師だよ」
「でも、私もいけないところがあるの。占ってもらうとすぐに興奮して舞い上がっちゃうんだ。今回は悪い事言われたからなおさら思い詰めちゃった……」
「全然気にしなくていいからね。ただの占いなんだし、悪いことなんて起きるわけないんだから。たまにいるんだよ、人を騙して金儲けする輩が。ああいう悪い占い師には気をつけないとね」
「うん、そうだね……」
アウラは自信なさげに短く答えた。
「そうだ。気分転換にカフェに行こうよ。私、雰囲気のいいお店知ってるんだ」
私はアウラに元気になってもらいたくて、彼女を誘い再び中心街へ足を運んだ。お目当のカフェは、私が初回プレイで行きつけのお店だった。
けど、カフェの前まで来て私たちの足は止まった。店の前に臨時休業の看板が立っていた。
「あれれ、閉まってる……。ツイてないなあもう……。こんな時に間が悪いっての」
いきなり出鼻をくじかれて私はげんなりしていたけど、私以上にアウラの落ち込みようは酷かった。
「やっぱり今の私は大災厄だったんだ……。大先生が言ってたこと当たってる。きっと私はこれから何もかも上手くいかなくなっちゃうんだ……」
「い、いや、違うよアウラ。たまたまだよ、たまたま。大袈裟だなんだよアウラは。代わりのお店なんて他にたくさんあるんだから元気出して」
私はアウラを連れて別の店を探した。プレーノルドにはたくさんの飲食店があるのだ。だが驚くべきことに私たちが訪れたお店はすべて臨時休業になっていた。
「そ、そんな馬鹿な……。どうして全部閉まってるの……?」
「星々の囀りだ……」
アウラがポツリとこぼした。
「欲しい物は手に入らず、美しきものは汚され、大切なものは奪われる。それから先、汝の魂は深い闇の中に落ちるであろう……。これ全部私に振りかってくるんだよ……」
アウラは悲壮感たっぷりで体から黒い霧のようなものが立ち上っていた。
「アウラは風属性の魔法使いでしょ。闇属性じゃないんだからそんな負のオーラ出さないで。ここは一旦宿に戻ろう。ちょっと休んだほうがいいと思うし」
私はそう言ってアウラを連れて帰ろうとした、その時だった。突然荷馬車が猛スピードで私たちの横を通り過ぎたかと思うと、道端にできていた水たまりを盛大に跳ね上げた。運悪く近くにいたアウラに向かって泥水が降り注いだ。
「はぎゃぁああああああああああ!!!!」
私はあまりに凄惨な光景に悲鳴を上げた。そして遠ざかる荷馬車に向かって文句を言った。
「ちょっと、アウラが汚れちゃったじゃない! 気をつけて運転してよね!」
最悪の事態に私も動揺を隠せなかった。アウラが帽子を脱ぐと、溜まった泥水が頭から滴り落ちてきた。
「ああ、アウラかわいそうに。今すぐ浄化魔法をかけてあげるからね、って私まだ習得してなかったわ。今から覚えるからちょっと待ってて……」
「別にいいよ……。私は泥水をすするような悲惨な人生の方がお似合いだから……」
「そんなこと言わないで。すぐに綺麗にしてあげるから」
私は買ったばかりのリュックから魔導書を取り出そうとした。けど、さっき買ったばかりのキャンプ道具が邪魔をしてなかなか出てこなかった。そうする間にもアウラの闇属性が強くなっていった。
「ああ、アウラが真っ黒けに……」
しかしこうも不運が続くと、さすがの私も占いのことが頭から離れなかった。マダム・ミルディアンスの予言がそのままアウラの身に降りかかっているように思えた。もし彼女の占いが当たるとすれば次は……。
「大切なものは奪われる……」
アウラがそう呟いた時だった。物陰から勢いよく飛び出してきた野良犬に彼女が手にしていた帽子を奪われてしまった。
「あっ私の帽子! その中にお財布入ってるのに!」
「ええ、そうなの!? それは大変だ!」
お尻を向け私たちをあざ笑うかのようにしっぽを振った野良犬は、アウラのお財布兼帽子をくわえたまま、その場を走り去ってしまった。アウラは必死になって野良犬を追いかけた。
「ワンちゃん私の帽子持っていかないで! お願いだから返して!!」
「ちょっと、アウラ待って!」
私は荷物を片付けすぐにアウラのあとを追ったけど、あっという間に差をつけられ彼女の姿を見失ってしまった。ひとり取り残された私はもしかしてと、ふと思い至った。
「この展開、あまりにも出来過ぎな気がしないでもない……」
私がそんな風に怪しんでいると突然、防犯魔法が発動した。私の頭の上からパトランプが生えてきて、けたたましく警告音を轟かせていた。
「これは調べる必要があるな」
私は決心してマダム・ミルディアンスの館に戻ることにした。




