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第19話 占いの館

 私たちは食事を済ませたあと、アウラのお目当ての店へ向かった。そこはプレーノルドで最も人気のある占いの館だという。

 アウラはそれがいかにすごいことかと、ずっと力説していた。もう待ちきれないとばかりに期待に胸を膨らませていた。


 到着すると大きくて古いお屋敷のような佇まいの館があった。周りの建物とは明らかに違う怪しげな雰囲気を放っていた。


「ここがプレーノルドで今一番アツい激推しスポット、占い師マダム・ミルディアンスの館だよ。予約は半年待ちでやっと順番が回ってきたんだから」


 アウラは飛び上がらんばかりに喜んでいた。私はそんな彼女をたしなめた。


「アウラは魔法使いなんだから、他人に占ってもらうより自分で占えばいいのに」


「それだと雰囲気出ないし味気ないでしょ。それに他の人に占ってもらう方が客観的なアドバイスをもらえるんだから。ちゃんとした専門家の意見を貰えるチャンスなんてそうないんだもん」


「確かにそうかもしれないけど……」


 ちょっとした気分転換や遊びの一環くらいなら別に構わないと思う。だけど大金を注ぎ込んでまで占いにハマるアウラの感覚に、私は違和感を憶えるのだ。


「ねえ、早速入ってみようよ」


 鼻息を荒くするアウラに手を引かれ、私たちは屋敷の敷地内に入った。そしてふたりで館の重い扉を押して入った。

 中に一歩足を踏み入れると、部屋は薄暗く、窓からかろうじて差し込む光とロウソクの明かりだけが頼りだった。

 奥に円卓が置かれていて、そこに怪しげな占い師の姿があった。彼女は訪れた私たちに禍々(まがまが)しい声で話しかけてきた。


「ようこそアウラ。ずっと待っていたよ。この私こそがそなたの畢生(ひっせい)の司令塔となる占い師マダム・ミルディアンスだよ」


 マダム・ミルディアンスは全身黒ずくめの衣装をまとっていた。顔も黒いベールで覆っていて表情は伺えない。唯一見えている生身の部分は瞳だけで、その眼光だけが暗闇にぽっかりと浮かんでいるようだった。


「この度は私を占っていただけるなんて大変光栄です、大先生!」


「大先生!?」


 私はアウラの豹変に思わず声を裏返した。彼女はすでに取り憑かれたように占いの世界に入っていた。

 私は一抹の不安を抱きつつアウラとともに席に着いた。するとマダム・ミルディアンスは意味深な様子で語りはじめた。


「人の命運を分けるものは天空に数多ある星々の意思にあるのだ。それは何者も逆らうことができない大いなる定め。私の使命は迷える者たちへの救済、すはわちそれは星々の(さえず)りを伝えることにある」


「星々の囀り……」


 マダム・ミルディアンスはテーブルに置いてあった宇宙儀に視線を落とした。それは無数の歯車で動く精巧な機械仕掛けの魔導具だった。

 これを使って星々の囀りを聞くというのだろうか。マダム・ミルディアンスが宇宙儀に手をかざすと、それがゆっくりと動きはじめ淡い光を放った。


「おおっ……」


 私とアウラは息を呑んで見つめた。


「では、早速占ってしんぜよう。覚悟はよいか、アウラよ」


「はい」


 アウラが深く頷くと、マダム・ミルディアンスは懐からある物を取り出して見せた。それはごつごつとした棒状の形をしていた。


「占いに使うものはこのトウモロコシじゃ」


「トウモロコシ!?」


 私とアウラは思わぬ展開に呆気にとられた。いったいそれでどうやって占うというのか。


「不安に思う事はない。これに無心にかぶりつき、アウラの歯に詰まったトウモロコシの数で占うのだ。すなわちこれが歯クソ占いじゃ」


「きったねえ占い方! てか星々の囀りどこいったんだよ!!」


 急にアホ臭くなった私は思わずツッコミを入れてしまった。歯クソ占いって本気で言っているのだろうか。宇宙儀のくだりは何だったのか……。


 私はこの場にいることさえ苦痛だったけど、アウラはいまだ真剣だった。ミルディアンスからトウモロコシを受け取ると、彼女は鬼気迫る勢いで齧りついた。


「ちょっと、アウラ……」


 私の心配をよそに、アウラはまるでリスみたいなせわしなさで咀嚼音を響かせていた。トウモロコシを回しながら左右に首を振って齧りついていた。

 しばらくしてトウモロコシが芯だけになると、アウラはにっと口を開けてマダム・ミルディアンスに見せた。


「おお、見える。見えるぞアウラ。そなたの命運が手に取るように見える。みるみる見える、ミルディアンス!」


「うるせえよ!」


 鑑定が終わりマダム・ミルディアンスから爪楊枝を渡されると、アウラは手で口元を隠しながらシーシーした。


「大先生、一体何が見えたんですか」


「うむ。アウラよ、覚悟はいいか」


「はい……」


 一気に場の空気が変わり緊張感に包まれた。私もここまできたら付き合うしかない。

 静かに鑑定結果を待っていると、それまで目を瞑っていたマダム・ミルディアンスがカッと目を見開いた。そしてアウラに向かって飛んでもないことを言い放った。


「アウラよ。これよりそなたの命運は、大災厄(カタストロフ)を迎えるであろう!」

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