第18話 実は小金持ちです
私はアウラを連れて街へ繰り出した。これがこの世界に来てはじめての買い物だった。私はもうワクワクが止まらなかった。これはこの世界にしかない魔導具を手に入れるチャンスなのだ。私の足取りも自然と軽くなっていた。
向かうのは街の中心地にある商店街だった。私たちはその一角にある雑貨屋へ足を運んだ。
「いらっしゃい魔法使いさん。何をお探しかな。用件なら何なりと言っておくれ」
カウンター越しにヒゲを蓄えた老店主が声を掛けてきた。店内も年季が入っていて雰囲気は良かった。たくさんの商品が所狭しと並んでいて、この店ならお目当の魔導具も手に入るはず。
「重量軽減魔法と空間拡張魔法がついたリュックはある?」
「ああ、それなら奥の棚にいくつかあるよ」
店主の指差す方へ向かうと、店の壁に数種類のリュックがいくつか掛けられていた。
「たくさんあるね。どれがいいかな……」
「ねえニーナ、これなんてどう? ポケットが外についていて使いやすそうだよ」
「そうだね、いいかも」
私は試しにそのリュックを背負ってみた。すぐに姿見の前でチェックする。大きさも程よく、重力軽減魔法のおかげで羽のように重さを感じなかった。それに空間拡張魔法がある分、見た目よりたくさん荷物が入るのだ。
こういった魔導具はあらかじめ魔法効果がかけられていて、使用者のMPを消費することがなくて便利だった。ちなみにアウラが使うトランクにも同じ魔法効果がついていた。
「よし、これに決めた。あとはこのリュックに入る分のキャンプ道具を買おう」
「でもニーナこれ、結構するよ」
アウラがリュックについていた値札を気にしていた。その札には税込み14万8000ゴールドと書かれていた。これは通常のリュックの10倍の値段。高額商品であることは間違いない。でも今の私はこれくらいの金額ならポンと出せるくらいの小金持ちだった。
「心配はいらないよ。軍資金はたんまりあるんだから」
私は丸々と膨らんだお金の袋をアウラに見せて言った。アウラは目を丸くして驚いていた。
「ニーナってお金持ちなんだね」
「えへへへ。実はそうなの。ここに来るまでに2つのサブクエストをこなしたんだよ。それに私には獲得報酬アップのスキルがついているからお金には苦労しないんだ。だからアウラも欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」
するとアウラはギラついた目で私に顔を近づけた。
「私、開運グッズが欲しい!!!!」
アウラにまったくブレはなかった。彼女は自分の欲望には忠実なようだ。ひとまず開運グッズのことは置いておいておくとして、私たちはキャンプ用品を買い漁った。そのあとも店を数軒ハシゴしてリュックの中はパンパンになっていた。
そのお買い物総額なんと20万8000ゴールド。結構な出費だったけど私は大満足で買い物を終えた。
「お腹すいたね何か食べようか」
「うん」
私たちは雑貨店をあとにして昼食をとることにした。街の大広場に続く目抜通りに立ち寄ると、たくさんの飲食店が軒を連ねていた。その中でひと際目立つお店を見つけた。その前に長蛇の列ができていた。
私たちは何のお店だろうと眺めていると、見覚えのある大男が声をかけてきた。
「おおっ、そこにいるのはニーナじゃねーか!」
その男はタパル村で出会ったオーガの親分ハロルドだった。私は驚いて彼に尋ねた。
「あんた、どうやってこの街に入ったのよ!」
「どうやってって街の正門からだよ」
「入場審査は?」
「ちゃんと審査を受けて入ったさ。だからまったく問題ないぜ。まあこう言っちゃ悪いがこの国の警備はザルだからな」
平然と言ってのけるハロルドに私は不審感を拭えなかった。同時に見るからに人離れした体格の男を見逃すなんて、この街の警備体制は大丈夫なのかと心配になった。
「君はニーナの仲間かい?」
「そうです、どうも……。アウラと申します……」
アウラは軽く会釈を返した。けどその目は完全に魔物だと疑っていた。
「それで、このお店の件はどう理解すればいいの?」
「どうって、ニーナの命令通りさ。小麦を育ててパン屋さんになれって言ってたじゃねえか」
「たしかに言ったけど、こんな街中に店を出すなんて思いもしないよ」
「ああ確かにそうだな。まあこれに関しては運も味方したってとこなんだよ。実はニーナがタパル村を出た後、たまたま商人が近くを通りがかってさ。話を持ちかけたらすぐにOKをもらえたんだ。それでこの場所で店を出すことができたんだ」
「そりゃよかったね……」
私はそっけなく答えた。
「何だよもっと喜んでくれよ。この店構え、いい感じになってるだろ」
確かに店の雰囲気はよかったし、この行列を見れば評判がいいこともわかった。だが彼は魔物だ。私はそんな簡単には信用できなかった。それでも自信を見せるハロルドは今度は店の商品を私たちに見せた。
「ニーナ見てくれよ、これがこの店の名物だ。題して『オーガおじさんのチーズケーキ』だぜ」
ハロルドは自慢のチーズケーキをお皿の上でプルプルと動かして見せた。
「どうだいこの柔らかさ。すげえ美味そうだろ」
「こ、これは……」
私はそのチーズケーキにどこか見覚えがあった。丸くてふんわりとした焼き目のついたケーキの真ん中に、にっこりした顔のオーガの焼き印がついていた。私はピンと来て声を上げた。
「これ完全に○くろーおじさんのパクリじゃん。あんたのやってることコンプラ違反なんだけど」
「えっ、そうなの?」
悪びれる様子もなくハロルドは首をかしげていた。




