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第17話 王女様の過去

 場面はロンテディア城の中だった。朝だというのに騒動が起きていた。何があったのだろうと見つめていると、パジャマ姿で走り回る王女ニーナを、侍女たちが着替えを持って追いかけていた。


 彼女は素早い動きでフェイントをかけると、ピボットターンで追っ手から逃れていた。してやったりと侍女たちを笑う無邪気なニーナの声が響いていた。


「そんな動きでは私は捕まえられないぞ!」


 クロちゃんが映し出したものは幼き王女のおてんばエピソードの数々だった。大人たちをからかったりイタズラばかりして、とても貴族の子どもとは思えなかった。

 ニーナは小さな体にもかかわらず、溢れんばかりのエネルギーを爆発させていた。その日の外遊びでも木に登ってドリスや侍女たちを困らせていた。


「ニーナ様、危ないので降りてください!」


「大丈夫だよ。私は木登りが得意なんだから」


「わたくしはもう、心臓が止まりそうでございます……」


 ドリスが止めるのも聞かず、王女ニーナはまるで猿のように枝伝いに上へ上へと登っていった。その木は20メートルはあろうかという巨木だったけど、王女ニーナはあっという間に木のてっぺんまで辿り着いた。


「ここから見る景色は最高だよ。全部街並みが見下ろせるんだから。ドリスも登って来なよ。住人たちがアリんこみたいに、ちまちま生きているぞ」


 ちまちまで悪かったな、と一市民の私は胸の内で毒づいたけど、彼女の型破りな性格はその愛らしさと相まって憎めるものではなかった。


「ドリス、私はいつか世界に飛び出していくからね。城の中で一生暮らすなんて絶対いやなんだからね」


「はぁ……」


 王女ニーナの表情は真剣だった。遠くを見つめる瞳には固い決意か漲っていた。彼女はこの頃からすでに外の世界に憧れを抱いていたようだった。そして魔法についても。


 クロちゃんはぶるっと体を震わせると新たな映像を映し出した。時は移り舞台は城の中へ変わっていった。

 そこは地下深くにある薄暗い場所で、部屋に通じる扉の前にふたりの衛兵が立っていた。その場所に王女ニーナが現れた。


「もしかして、これって……」


 私ははっとして気がついた。このシーンは結界破壊事件のいきさつだった。クロちゃんはその真相を教えてくれるようだ。


「ニーナ様、ここはお通しできません」


「いいじゃないちょっとくらい。結界魔法のことが知りたいの。私今魔法にハマってて、自分の見識を深めるためにも、クリスタルをひと目見ておきたいの。だからお願い、そこを通して」


「ここは王国内で最重要施設となっております。如何にニーナ様のお願いであっても通すことはなりません」


「私はのちにロンテディアの王位を継ぐ者だよ。言うことを聞きなさい」


「こういう時に限って権威を振りかざされても困ります。普段は王位など歯牙にも掛けないではありませんか」


「ううっ……」


 普段の言動のせいで衛兵たちにも見透かされているようだ。彼らは王女のワガママを慣れた感じでたしなめていた。それでも王女ニーナは諦めなかった。彼女は奥の手を出してきた。


「んっ、もうっ、衛兵さんたら〜。そんな固いこと言わずに、ちょっとぐらいいいじゃな〜い」


 王女ニーナは衛兵に擦り寄っていた。その豊かな胸を見せびらかし、彼の耳元に甘ったるい声で迫っていた。彼女はその美貌を武器に衛兵たちを翻弄するつもりのようだ。


 まさかこの歳で色仕掛けとは……。私はそうやすやすとはいかないと思って見ていたけど、予想に反して衛兵たちは色仕掛けに負け、勢いよく扉を開けて、王女ニーナを部屋の中に入れてしまった。


「すごーい。これが結界魔法のクリスタルなんだね!」


 王女ニーナは感嘆の声を上げると、台座に載せられたクリスタルに駆け寄った。500年前に作られた国宝をしげしげと見つめていた。


 だがそのまま大人しくしている王女ニーナではなかった。彼女は何を思ったのか突然台座からクリスタルを取り上げてしまった。


「結構軽いんだね」


「ニーナ様、お手に触れてはなりません!」


 衛兵が止めるのも聞かず王女ニーナはクリスタルの持ち心地を確かめていた。そしてあろうことか彼女はクリスタルをひょいっと衛兵に投げてよこした。


「はい!」


「うわぁああああああああああ!!」


 パニックになりながらも衛兵は必死でクリスタルをキャッチした。それを見て王女ニーナは大笑いだった。すると今度は彼女が衛兵に要求した。


「ヘイヘイ! パス、パス!」


 何故か3人の間でクリスタルが飛び交っていた。肝を冷やす衛兵たちが王女のお遊びに付き合わされていた。

 私は半ば呆れて見ていた。こんな馬鹿なことをしているからクリスタルを割ってしまったのではないのかと。


 彼らは何度かキャッチボールを繰り返し、クリスタルが王女ニーナの元に来た時だった。案の定、彼女が手を滑らせた。


「はぎゃぁああああああああああ!!!!」


 衛兵が断末魔の声を上げた。壊れる、と、そこにいた誰もが肝を冷やした。けど地面に落ちるすんでのところで王女ニーナはクリスタルを掴んだ。


「あははは、今のは危なかったね。壊したら大変だし、もうこれくらいにしておきますか」


 彼女はそう言ってクリスタルを台座に戻した。ふたりの衛兵はそれを見届けると、その場にぐったりとへたり込んでしまった。


「あれ? 割ってないじゃん」


 私はその意外な結末に驚いていた。結界のクリスタルは確かに台座に戻されていた。王女ニーナがクリスタルを割っていないとすれば、これまでの経緯は何だったのか。


 その疑問に答えるようにクロちゃんは新たなシーンを映し出した。そこは城の中のとある一室だった。明らかに悪役風情な男ふたりが何やら話し込んでいて、その身なりから彼らが貴族だとわかった。


 ふたりの名は国王の弟ルードヴィクとその息子レイナード。クロちゃんがご丁寧に字幕を表示してくれた。


「やっとニーナを追い出すことができましたね。父上」


「そうだなレイナード。お前が機転を利かせたおかげで、こちらの栄光の日が近づいた。これで王位継承権は我が元に来る」


 彼らは次の国王の座を狙っていた。順当に行けば国王の娘である王女ニーナに王位が渡ることになるが、結界破壊事件はそれを良しとしないふたりが計画した謀略だったというわけだ。私が国外追放となった裏にはロンテディア王国の権力闘争があったのだ。


「しかしニーナはあまり抵抗もせずに出て行ってしまったな。あれはどういうことだ」


「彼女は魔法に熱を上げていて王位には関心が無かったのですよ。幼い頃からよく言ってました。私は外の世界で生きて行くと」


「愚かな娘よ。今頃はもう魔物の餌になっているだろうな」


「ですが父上、ひとつ疑問があります。いったい誰が結界を破壊したのでしょうか」


「そんなことはワシにもわからん。だが結界が破られたくらいで国の安寧が揺るがされることはない。大魔法使いが張った結界とやらもこの程度だ。仮に魔物が現れようとも我が王国騎士団が退治してくれようぞ」


 ほくそ笑むふたりの顔が揺らぎはじめると、そこで映像は途切れた。すると真っ黒にった画面に文字が浮かび上がった。


『初回無料特典はここまでです』


「えっ、ここで終わり? しかも課金しないとダメなの? まだ知りたいことがあったのに」


 私は不満をぶつけたけど、クロちゃんはすんと澄ましていた。


「クロちゃんは気まぐれなの。でもまだ知るべきことがあったら教えてくれるから、って、そんなことよりニーナってロンテディア王国の王女様だったの!?」


 私よりもアウラが受けた衝撃の方が大きかったようだ。それは私が身分を明かさずにいたせいでもあった。


「隠していてごめんね。でも今はただの一般人だから。私はこの事件のせいで国外追放処分を受けたんだ」


「でもニーナは濡れ衣を着せられたんでしょ。ニーナは結界を壊してない。こんなこと許しておけないよ」


「別にもういいんだよ」


「何で!?」


 アウラといっしょにクロちゃんまで驚いた。


「私は権力や王位なんかに興味がないから。そんなことより冒険をすることを望んでいるの。アウラやヴォルフといっしょに旅をする方が絶対楽しいもん」


 奇しくも私の願いは王女ニーナと同じだった。彼女が生きていたら私の考えに共感してくれるはずだ。


「悲しくなったりしない? 身近な人に裏切られたんだよ」


「うん。大丈夫だよ。たしかに追い出されるなんて酷い仕打ちだと思うけど、これで私は自由を手に入れられたんだ。だから全然平気。心配いらないから」


 私は笑顔を作って応えた。王国の陰謀についてはまだ何か残されていそうだけど、今は旅を楽しむ時だ。それでも不安げな表情のアウラに私は言った。


「ねえアウラ。せっかく街に来たんだし、気分転換に買い物に行こうよ」 

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