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第16話 アウラの趣味

 早速私とアウラは彼女が持っていた整理券で城郭都市プレーノルドに入った。入場審査を経て正門をくぐると、プレーノルドの美しい街並みが目に飛び込んできた。

 私たちがまずやることは宿探しだった。住人に尋ねると親切に教えてくれたのは、広くて清潔でサービスがいいと評判の宿だった。私たちは早速その宿へ向かった。


「よかった〜。最後のひと部屋が空いていて」


 何とか一室取ることができた。評判通りの綺麗な部屋だった。私は部屋に入り荷物をテーブルに置くと、窓を開け外の景色を眺めた。オレンジ色をした三角屋根の街並みが遠くまで続いていた。


「でも一人部屋になっちゃったね」


 アウラの言うとおり部屋は一人用でベッドがひとつだけ。でも私にはそのほうが都合がよかった。アウラが荷物を降ろし帽子を脱ぐのを見計らって、私は彼女をベッドに押し倒した。


「ひいっ!」


 と、小さく悲鳴を上げたアウラを、私は羽交い締めにした。


「はあ〜、これでやっとぐっすり眠れるよ」


「ど、どういう意味なの?」


「私は何かにしがみ付いていないと眠れないの。いつもは抱き枕を使うんだけど、この世界にはそんなものないし。だからアウラには私の安眠を約束する抱き枕になってもらうんだ」


「これじゃあ私が眠れないじゃない……」


 アウラは不満をこぼしていたけど、私は構わず彼女を抱き締めた。アウラの長い髪はいい匂いがして、そのやわらかい体は私の心を癒してくれた。今にも寝落ちしそうなくらい抱き心地は最高だった。


「ねえ、ニーナはどうしてプレーノルドに来たの?」


「ん? ああ……、私は買い物に来たんだよ。キャンプに使える道具を揃えたくてね」


 これからの旅先でいつも宿を取れるとは限らない。そうなると野宿ということになるのだが、私にはまだその準備ができていなかった。だからプレーノルドにあるお店で役に立ちそうなものを探すつもりでいた。


「アウラはどうしてここに来たの?」


「私はねえ、開運グッズを買おうと思って来たの!」


「開運グッズ!?」


 私は声を裏返した。


「そうなの。それに占いにもハマっているんだ。ニーナは占い信じる? 開運グッズとか興味ある?」


「んー……、あんまり……」


 眠気のせいもあって私は興味を示さず適当に流したけど、逆にアウラのテンションを上げてしまったようだ。彼女はひょいっとベッドから起き上がると、一目散に自分のカバンに飛びついた。


「私は旅先で見つけた面白いものを集めてるんだよ。カバンの中にたくさんあるの。最近手にいれたお気に入りのグッズが面白いんだよ。ニーナもちょっと見てみてよ」


 アウラは大きな革のトランクを開け、ごぞごそと漁りはじめた。すると彼女はうれしそうに自分のコレクションを見せびらかしてきた。


「これなんてどう? イワシの頭が入った除災招福(じょさいしょうふく)のスノードームだよ。見ているだけで癒されるし、家に飾っておくと厄除けになる縁起物だよ」


「き、気持ち悪っ。何でイワシの頭が入ってるんだよ……」


 ガラス玉の中にはドロドロとした液体で満たされていて、明らかに腐っているのがわかった。ふわりと浮かぶイワシの目玉が大きくて怖かった。


「じゃあ、これは? 人生に転機をもたらし、強力な眼力で気合いを入れてくれるメデューサのトーテムポールだよ」


「何それ怖い。しかも動いてるじゃん……」


 それは生のメデューサの頭が縦に3つ並んだトーテムポールだった。髪の毛が蛇になっていてうにうにと動いていた。何が気に入らないのかずっと怒り顏で、目が会うとシャーシャーと威嚇してきてうるさかった。


「じゃあ、これなんてどう? いつもやさしい笑顔で私を癒してくれる、おばあちゃんの総入れ歯……、って何でここに入ってるんだろう」


 アウラは不思議そうに首をかしげた。


「知らんがな。それは間違ってカバンに入ってただけでしょ。きっと今頃おばあちゃん困ってるぞ」


「ん〜もう! ニーナぜんぜん食いついてくれないんですけど!!」


「そんなこと言われても……」


 私は占いとかスピリチュアルにはまったく興味はなかった。正直に言ってそういう類のものは胡散臭く感じて受け入れ難かった。

 暇つぶしに占ってもらうとかそれくらいなら許せるけど、お金つぎ込んでまではちょっと……。


「もう少し実用的なものはないの? 便利で役に立つものとか……」


 アウラはふんっと鼻息を荒くして、再びカバンの中を漁りはじめた。しばらくしてトランクの底の方からあるものを取り出した。


「ニーナにぴったりなものがあったよ。これは自分の知らない過去をほじくり返して教えてくれる、悦びと憂いをもたらす剔抉(てっけつ)の黒水晶だよ」


「自分の知らない過去……?」


 黒くて丸いものであること以外は何の変哲もない水晶玉に見えた。ソフトボールより一回り大きく、ちょうど手のひらに乗るくらいだった。


「どう、試してみない? 過去を清算するにはいいアイテムだよ。私も知らなかったことがたくさんあってためになったもん。私はこの水晶玉をクロちゃんて呼んでるの」


「クロちゃん……」


 私はふと考えた。このゲームの世界に転生したばかりの私には過去は存在しないだろうと。あるとすれば転生前の王女様の記憶になるはずだ。

 もしこの水晶玉で王女の過去が知れるのなら、彼女がどんな人生を歩んできたのか気になるところではあった。


「これは面白そう。試してみようかな」


 私はアウラからクロちゃんを受け取った。するとすぐに私の手の中で反応を示した。両手の指で支えるように持つと、クロちゃんはゆらゆらと水晶玉の中に像を浮かび上がらせた。


 そこに映し出されたのは幼い女の子。彼女は在りし日の王女ニーナ・メイ・オルテフラーナだった。

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