第14話 風属性魔法使いのアウラさん
少女は銀色の長い髪をそよ風になびかせていた。くりっとした大きな眼で悪戯っぽく私を見つめていた。その瞳は瑪瑙のように青く透き通っていて、まるで吸い込まれてしまいそうなくらい魅力的だった。
彼女は魔法使いだった。それがすぐにわかったのは、大きなつばの帽子を被り、魔法使いの杖を持っていたからだ。歳は私とさほど変わらない15、6歳くらい。真っ白い肌に華奢な体つきが、余計に幼く見えた。
「私の整理券の番号は27だよ。すごいでしょ〜」
彼女はこれ見よがしに整理券を私に見せた。
「ねえ、知ってる? パーティーならこれ一枚で全員入場できるんだよ〜」
妙にアッピールしてくると思ったら、ただのパーティーの勧誘だった。素直にそう言えばいいのに遠回しに誘ってくるのは、後ろめたいことでもあるのだろう。周りには誰もおらず、彼女がひとりでいるのも何だか切なかった。
「見た感じまだ駆け出しの魔法使いさんだね。知らないことばかりで大変でしょ」
一体誰に向かって言っているのかと私はムッとした。私はこのゲームをクリアし2周目に入ったプレーヤーだというのに。
私は彼女のステータスを確認した。相手が冒険者なら能力値を確認することができるのだ。
彼女の名前はアウラ。風属性の魔法使いだった。冒険者レベルは何と2。私よりいくらか数値が高いだけで実力はあんまり変わらなかった。
正直これでマウントを取ってくるなんて相当イタい子なのではと思えてならない。私は警戒心を抱かざるをえなかった。
「初心者さんて不安でしょ、怖いでしょ。何なら私とパーティを組んであげてもいいんだよ。いろいろ教えてあげられるし、ひとりじゃないって心強いでしょ。ほら、ほら〜」
アウラは整理券を手でひらひらと翻して言った。すでに彼女の底は知れているというのに、明らさまに駆け引きを仕掛けられ私はげんなりした。
正直あまりメリットは感じられなかった。私にはヴォルフがいるし一晩野宿なんて何でもなかった。
「別にいいよ。明日また並ぶから」
「えええっ! ちょっと待ってよ。どこに行くの? 今なら私とパーティーを組めてこの整理券で入場できるダブルチャンスなんだよ」
「別にいい」
「そ、そんなこと言わないで。ちょっとくらい考えてくれてもいいじゃない……」
「いいってば。私には仲間がいるから」
「そうなんだ……」
アウラの表情が一瞬で曇った。さっきまでの作り笑顔は消え、暗く沈んだ表情になった。そんな明らさまに凹まれたら、こっちの胸が痛むではないか。
正直このまま後ろをついてこられても困るし、こんな美少女を悲しませたままでは私も心苦しかった。そんなことならいっそのこと、ヴォルフを見てもらう方がいいのかもしれない……。私はアウラに尋ねた。
「ねえ、私の仲間と一度会ってみる?」
「えっ、いいの? 会わせてくれるならすごくうれしいよ。ついでに私も仲間に入れてほしいなあ……、なんて……、えへへへ。で、どんな人なの?」
「まあ、特徴をひとつ上げるなら寡黙なところかな。会話がなくても目を合わせればちゃんとお互いのことを理解し合える仲間なんだ」
「それってものすごく信頼し合ってるってことじゃない」
「彼は自分の世界を持っているの。それが揺るぎない自信に繋がっていると思うんだ。すごく強くて頼り甲斐があって、いつも私の窮地を救ってくれるんだよ。私を一番に考えてくれているんだ」
「それって仲間って言うより恋人同士じゃない。やだなあもう、余計に紹介して欲しくなっちゃうじゃん」
アウラは着ていたマントを体に巻きつけると、もじもじして体をクネらせていた。
「会ってみたい?」
「うん、会ってみたい」
「わかった。じゃあ、今からここに来てもらうね」
「ここに?」
きょろきょろと辺りを見回すアウラは、これから起こることをまったく理解していなかった。
ヴォルフを見たら彼女はどんな反応を示すのだろうか。そんなことを考えながら、私はいつもとは違うテンションでヴォルフを呼んだ。
「ヴォルフ、ちょっと来て〜」
いつものようにどかーんとド派手に舞い降りたヴォルフは、いつものように一瞬で世界を絶望の淵に突き落とすほどの威圧感を放っていた。
ヴォルフは呆然とするアウラに顔を近づけると、まるで品定めするかのようにその鋭い眼光で睨みつけていた。
「ドドドド、ドラゴンじゃない!!!! う、うそでしょ。ここここ、これが仲間だなんてぇええええ!?」
アウラは恐怖におののいていた。顔面蒼白で今にも泣き出しそうだった。
「さ、さっき、ヴォルフって言ったよね、ヴォルフって言ったら、魔物の頂点に立つ無辺の王のことじゃない……。ほ、本気で言ってるの?」
「そうだよ。その無辺の王が彼だよ」
「ひいぃいいいい……!!」
ヴォルフの気迫にアウラは体を仰け反らせた。ふんっと鼻息を吹きかけられ、アウラの帽子がどこかへ飛んでいった。
「どう? 私の仲間の印象は」
「ここここ、怖いです、おお、おしっこちびりそうです、ああああっ、だめだ! おおおお、おしっこちびりましたぁああああああああああ!!!!」
アウラは情けない悲鳴を上げて、そのまま地面にひっくり返ってしまった。




