第13話 入場審査
翌朝、私はナハペリに別れを告げ、ヴォルフに乗って次の目的地へ飛び立った。その途中ナハペリの住人たちが私たちに手を振り見送ってくれた。私も彼らに手を振って応えた。
こんな清々しい朝を迎えるのははじめてだった。毎朝時間に追われる現実世界からは想像もできないひと時だった。私はのんびりと雲の上で気持ちよく朝日を浴びていた。
「いやあ、ブレナおばあちゃんの料理おいしかったなあ」
宿に泊まったことで体力、MPともに全回復していた。おいしい料理もたくさん食べて大満足。昨日はヴォルフを怒らせちゃったけど今はちゃんと仲直りして、私は心身ともにリフレッシュしていた。
「ごめんねヴォルフ。もう無理強いなんてさせないからね」
私は猫なで声でヴォルフの体に抱きついた。
しばらくして次の目的地が見えてきた。そこは堅牢な防壁で囲まれた城郭都市プレーノルドだった。
「上から見ると結構大きな街なんだね」
防壁の中にひしめき合うように三角屋根の建物が並んでいた。ひと気も多く街全体に活気があった。
私はこの街に少しばかり長居したいと考えていた。魔物に出くわすこともない安全な街で、二、三日のんびりと過ごしたい気分だった。
「ゴールドも結構貯まっているし、グルメとお買い物を楽しみたいんだよねえ」
私がワクワクしながら街を眺めていると、街の正門に人集りができているのが見えた。入場審査を待つ旅人たちが長い列を作っていた。私もさっそく並ぶことにした。
「じゃあ、また後でね、ヴォルフ」
私はヴォルフに別れを告げ彼の背中から飛び降りた。前傾姿勢で風を切り地上を目指す。列の最後尾が見えてきて、そこを目標地点に据えた。ずどーんと大きな音を立てて私は地上に着地した。
「よし。今回は上手くいった」
着地が綺麗に決まって私は思わずにんまりとした。体に痛みも出ずまさに思い描いた通りの着地だった。そんな私に目を丸くして驚いていたのは、ひとつ前に並んでいたおじさんだった。
「いやはや……、誰かが後ろに並んだかと思ったら、空から降って来るとは。君は魔法使いかい?」
「うん、そうだよ。おじさんは?」
「私は交易商人だよ。トライユガンドで商談があった帰りなんだよ」
トライユガンドは海を越えた向こう、ノートニブリア大陸にある都市だった。そこには冒険者たちが集まるギルドがあって、魔物たちと戦う前線基地になっていた。
彼らの目的はもちろん魔物から世界を救うこと。そのためには3体のドラゴンを倒し、無辺界の扉を開け、ラスボスであるヴォルフを討ち倒さなければならない。冒険者たちは日夜、命がけで戦っているのだが……。
討ち倒すべきラスボスのヴォルフが私の仲間になっていて、このロワルデ大陸でいっしょに旅をしているなんて、冒険者たちは知りもしないだろう。
ちなみに、3体いる大陸竜を挙げておくと、ノートニブリア大陸は『炎髪の破壊者ファルケ』、ミューロス大陸は『冥獄へ誘う語り部ヴェルス』、クロナザリム大陸は『万障の化身シュランゲ』がそれぞれの大陸を支配していた。
「最近はファルケが勢いづいていてね。戦況はあまり芳しくないんだ」
炎髪の破壊者ファルケは動きがランダムですばしっこいのが特長だ。攻撃力も高くて口から火炎放射を吐いてくる強面のドラゴンだった。
ファルケに勝つにはこっちの素早さを上げて、クールタイムが短い攻撃を仕掛けるのが攻略方法だった。
「遠いところまで大変だね」
「いや、移動は転移魔法を使えるテレポーターを雇っているから苦労はないさ。ここで入場手続きを待っている方が時間がかかっているくらいだよ。そうだ、君は魔法使いだろ。転移魔法は使えるかい? もしできるんならうちで働いてもらえるとうれしいんだが。給料は奮発するよ」
転移魔法は異界を経由して目的地にテレポートする魔法だ。何かに飛ばされたり引っ張られたりする感覚はなく、その場から微動だにせずに長距離を瞬間移動できてしまうという便利な魔法だった。
「私はまだ転移魔法は覚えてないんだよ。それに私は冒険してるほうが向いているしね」
「そうかい、わかったよ。もし気が向いたら気軽に声をかけておくれ。おっと、どうやら整理券を配りはじめたようだな」
門番が前列から順に入場整理券を配っていた。私もその様子を大人しく眺めながら待っていた。
ちょうど門番が交易商人のおじさんまで来たところだった。次は私の番だと思って「はいっ」と手を出したけど、門番は何もせず仏頂面で告げた。
「整理券はもうない。お前はまた明日並べ」
「ええっ! ちょっと、そりゃないよ。私も並んでたんだよ」
「入場は1日100人と決まっている」
振り返ると私の後ろには誰も並んでいなかった。整理券をもらえないのは私ひとりだけということになる。こんなツイてないことがあるだろうかと、私は門番に食い下がった。
「ねえ、私ひとりくらいいいどうにかならないの? 他には誰もいないんだし」
「ならん。今は特別警戒態勢をとっているからな」
その言葉通り、門番は物々しく重装備を身につけていた。
「どうしてそんなことになってるの?」
「ここ数日魔物がいつもより活発になっているのだ。ずる賢く人間に化けて紛れ込んで来るやつもいる。一匹たりとも街に入れるわけにはいかないのだ。だからこうして厳しく取り締まっている。それもこれも王都ロンデティアで結界魔法が壊されてしまったのが原因だ」
「はうっ」
と、私は息を詰まらせた。その結界を破壊したのは私が転生する前に王女が仕出かしていたことだった。
「まったく人騒がせな王女だ。国外追放なんて生ぬるい。見つけたらとっちめてやるところだ」
何だか私は急に身の置きどころがなくなってしまった。ここはバレる前に退散した方がよさそうだ。私は顔を伏せて逃げるようにその場をあとにした。
「そ、そうですか……。それじゃあ私は失礼します……」
今回の一件で私が役人に目の敵にされていることが如実になった。結界破壊事件の余波が続く間はしばらく大人しくしておく方がいいだろう。
「私のせいじゃないのに……」
私はがっくり肩を落として城壁に沿って歩いた。ひとまずヴォルフを呼ぶために、ひと気のない場所へ回った。
今日は朝からツイてないなあと、私がしょぼくれていると、突然背後から声をかけられた。
「どうやら整理券をもらいそこねちゃったみたいだね」
どこかしら鼻にかけるような言い草に私が警戒して振り返ると、そこにいたのは、まだあどけない顔立ちをした私好みの美少女キャラクターだった。




