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第10話 サブクエスト『ブレナおばあちゃんの引っ越しのお手伝い』

 早速私はお引っ越しクエストに取りかかった。まずは宿の中を見てみた。建物は二階建てになっていて1階はブレナおばあちゃんの生活スペースと調理場、2階には4部屋の客室があった。


 荷物はどの部屋も多くて、客室にあるベッドや棚、テーブルや椅子などの大きな家具から、ブレナおばあちゃんの日用品や小物まで。これらをすべて新しい宿に移さなければならなかった。


「ごめんなさいねえ、まだ何も手につけていなくて」


 ブレナおばあちゃんは申し訳なさそうに言った。


「大丈夫だよ。この方がやりやすいし、私には引っ越し魔法(模様替えも可)があるんだから」


 ここからはあらかじめ取得しておいた魔法の出番だ。まずはブレナおばあちゃんの持ち物からまとめていく。

 私は葉っぱがついた魔法のステッキを手に取ると、それをくるくると振り回しながら呪文を唱えた。


引っ越し魔法(スマートムービング)!」


 すると部屋にあった小物がふわりと浮き上がった。そしてそれが用意していた木の箱に綺麗に収まっていった。まるでパズルゲームのようで無駄な隙間もなかった。


「おお、すごい。効果抜群だね」


 木の箱がいっぱいになると、自動的に次の箱へ収まっていった。しかも、どの箱に何が入っているのかわかるようにきちんと仕分けされていた。

 あっという間に梱包が終わったのを見て、ブレナおばあちゃんは目を丸くして驚いた。


「本当に魔法って便利ねえ」


 続いて客室の荷物に取り掛かることにした。部屋の中には大きな家具が置かれていた。これらを運び出すのに狭い通路を使うのは無理があるように思えた。特に一番大きくて重いベッドは難しそう……。しばらく悩んだ私は思い切って窓から運び出すことにした。


「スマートムービング!」


 すると窓がひとりでに開いて、次々に家具が外へ飛び出していった。ふわりと浮かんだ家具が一階に用意していた荷台に積み込まれていった。

 それを4部屋分繰り返すと、荷台に乗せられた荷物が宿の屋根を超えるほどうず高くなっていた。


「あら、もう部屋の中が空っぽになっちゃったわ。あっという間に片付いたのね」


「あはは、私もびっくりだよ。生活魔法がこんなに便利なものだなんて」


 生活魔法は生活を豊かにする魔法だ。魔物があまりいない平和なロワルデ大陸だからこそ発展できた特殊魔法だった。

 ド派手な攻撃魔法も魅力的だけど、私はこの生活魔法も極めてみたいと考えていた。人を喜ばせる魔法だなんて本当に素敵なことだと思っていた。


「じゃあ早速、あっちに持っていくね」


 新しい宿は大きな風車の近くにあった。私はそれを目印に荷台を引いていった。場所は少し山手の方だったけど、魔法が効いているおかげで重さはまったく感じなかった。

 その丘へ上がる途中、3人の子どもたちが声をかけてきた。そそり立つ積荷を物珍しそうに眺めていた。


「ねえ、これお姉ちゃんひとりでやったの?」


「そうだよ」


「すごいね!」


 と、子どもたちは感心する。


「魔法使いが来てるって街中噂になってるんだよ」


「そっか。もう私の活躍ぶりが知れ渡ってしまったか」


「ねえ僕にも何か魔法をかけてよ」


「ん?」


「私もかけて!」


「僕も!」


 子どもたちが無邪気にせっついてきた。


「仕方がないなあ」


 と、私は引っ越し作業の手を止め、しばし子どもたちの相手をしてあげた。彼らに引っ越し魔法をかけると、3人をお手玉の要領で空中に放り投げた。


「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ!」


 私はお手玉が得意だった。子どもの頃によくこうして遊んでいた。まさか人間でお手玉する日が来るとは思わなかったけど、私はさながら大道芸人のように技を繰り出した。しばし子どもたちの楽しそうな笑い声が溢れていた。


 そのあと、引っ越し先に着いて荷物の搬入に取り掛かった。これも魔法のおかげで滞りなく進んだ。すべて自動で荷解きがはじまって、物があるべき位置に収まっていく。

 ベッドやテーブルの大きな家具を客室に運び込むと、模様替えの効果でレイアウトもバッチリに配置されていった。


「ああ素敵。私の想像以上の宿になったわ。おみごとと言うしかないわニーナさん。私一人じゃどうにもできなかったから助かったわ、ありがとう」


「私もお役に立ててうれしいよ」


「今日の夕食は奮発するわね」


「やったあ。これは楽しみ!」


 ブレナおばあちゃんが満足そうに顔をほころばせていた。私も肩の荷が下りてほっとした。

 すると私の目の前にメインメニューが浮かび上がった。私はてっきりサブクエストが終了したのだと思ったけど、そうではなかった。


「あれれ? おかしいなあ……」


 私は首をかしげながらメインメニューを覗き込んだ。するとそこには『ブレナおばあちゃんの引っ越しのお手伝い』(1/2)と表示されていた。

(1/2)と書いてあるということは、まだやり残していることがひとつあるということだ。私ははっとして思い出した。


「やっぱり、あの大岩をどうかしないといけないんだよなあ……」


 私は街の南側に目を移した。そしてそこにあった厄介な大岩を見据えていた。

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