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第3話「海軍さんの町、呉」

大正13年の呉——そこはまさしく帝国海軍の心臓部だった。瀬戸内の静かな海に面し、山が迫る狭い平地にぎっしりと詰め込まれた住宅地と、巨大な海軍工廠と鎮守府。街には白い軍服をまとった軍人たちが闊歩し、港には軍艦が並ぶ。汽笛と金属のぶつかる音が、朝から晩までどこかしらで響いていた。

 相澤慎也——その六歳の少年の中に眠る記憶は、奇妙な違和感と郷愁を呼び起こしていた。前世の彼が零戦に乗り、マリアナの空で死んだのは、まさにこの街で育った人間たちの技術と魂の結晶に守られてのことだったからだ。

 「慎也、軍港の方には行くなよ。あそこは一般人立入禁止だからな」

 父・相澤義隆は、厳しくも優しい声でそう言い聞かせていた。現役の海軍大佐であり、呉鎮守府の参謀部に所属する彼は、軍人らしく口数は少ないが、その背中には威厳と品格があった。

 「はい、父様」

 慎也は素直にうなずく。だが、心の中では別の熱がくすぶっていた。

 (俺は知っている。この町の先に、どれほどの力が眠っているか。空母、戦艦、そして未来を変える何かが……)

 母・貴子は、伝統的な和装の割烹着姿で家事をこなしながら、時折、慎也を優しく見守っていた。典型的な軍人家庭——だが、この家にはどこか張り詰めた空気があった。戦争の影が、すでに背後に迫っていたのだ。

 慎也は、日々の暮らしの中で少しずつ身体を鍛え始めていた。特に、朝の起床と体操、短距離走、さらには書道と計算。前世の記憶を持つ彼は、「今」やるべきことを誰よりもわかっていた。

 (飛行機乗りになるには、まず体力。それに、基礎学力。子供だからって、のんびりしてたら間に合わない)

 目指すのは、海軍兵学校。その中でも、艦隊勤務ではなく、航空科ではないにせよ、将来航空隊への道へつながる進路だった。前世では航空隊出身だったが、零戦の乗員として命を落とした。だが今回は——違う。

 (今度こそ、もっと多くの仲間を救いたい。日本の空を、守りたい)

 そんな強い想いを胸に秘めながら、慎也は呉の町を歩いた。港からは戦艦「長門」の姿が見える。整備中の空母「加賀」の影がちらりと覗く。全てが、彼の心を震わせる風景だった。

 ある日、町の裏路地にある小さな神社で、慎也は一人祈っていた。

 「どうか、俺に……いや、僕に、もう一度、飛ぶ力をください」

 神社の老いた宮司は、そんな少年を静かに見つめていた。しばらくして、そっと声をかける。

 「おまえさん、兵学校に行く気か?」

 「……はい」

 「まだ小さいのに、覚悟がある目をしておる。……夢を、忘れるでないぞ」

 慎也は黙ってうなずいた。たとえ身体は子供でも、その心には空と死の記憶が焼きついている。もう逃げることなどできない。

 それが、彼の新たな運命の始まりだった。

この年、慎也は尋常小学校に入学した。尋常小学校での慎也は変人の扱いだった。同級生がベーゴマや鬼ごっこに夢中になってる間もただひたすらに学業に励み、鍛錬に励んだのだ。そんな慎也の心の中には、“空をもう一度”という強い意志を秘めていた。夢を叶えるためにはどんなことでも苦になることはなかった。このような生活を続けていく中で、慎也は成績をトップ以外をとったことは無かった。担任教師はその態度に驚き、校長室に推薦するほどだった。次第に教師の中でも、「神童」「一〇〇年に1人の天才」と言われるようになった。大正13年の春から秋へ。慎也の心は、すでに少年のそれを超え、かつて空を駆けた青年の決意に満ちていた。まだ幼い身体ではあったが、その瞳の奥に宿る光は、確かに空の向こうを見つめていた


年齢におかしいところがあったので、1話2話とも修正しました。

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