表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

第24話「空の盾、空の槍」

失踪しかけていたのは大変申し訳なく思います。

申し訳ありませんでした。

定期試験等がかぶりました。

昭和十五年五月。

漢口航空基地の空気は、日に日に殺気立っていた。敵の爆撃は一層激しくなり、迎撃の出撃命令は連日下される。

相澤慎也は、先月の空戦で同期の宮田を失って以降、無意識のうちに何かを探していた。

(俺は何のために飛ぶのか? 撃墜数か? 名誉か? それとも、復讐か?)

答えはまだ見つからなかった。だが一つ確かなことがある。

——あのままではいけない。

任務がある限り、彼は空へ上がらねばならなかった。

帰還後のブリーフィングにて「相澤、明日から第2小隊長をやってもらう」

整備棟の前でそう言ったのは、沢井中尉だった。慎也は驚いて顔を上げた。

「俺が……ですか?」

「お前ほど、戦況を冷静に見て動ける奴はそう多くない。それに、部下を守ろうとする気持ちもある。それは、指揮官の資質だ」

かつて宮田が語っていた「戦場のリーダーになりたい」という夢。それが、いま自分に託された気がした。

昭和十五年五月二十日。敵の爆撃隊が再び漢口へと迫るとの情報が入る。

慎也の率いる第2小隊は、4機で迎撃に向かうこととなった。

「高度は4000。敵の編隊上から回り込んで、先頭の指揮機を叩く。各員、僚機を見失うな!」

戦闘前の簡潔なブリーフィング。その中に慎也の緊張と覚悟が混じる。

敵はフィアットBR.20爆撃機の編隊、護衛にI-15戦闘機が10機以上。

(空戦では、瞬時の判断が生死を分ける)

慎也は編隊を巧みに率い、雲の中から一気に急降下を仕掛けた。

「照準よし——撃て!」

機銃の音が響く。爆撃機の右翼に火が走り、編隊が崩れる。

護衛戦闘機が迎撃に回るが、慎也はそれを冷静に観察し、部下に指示を飛ばす。

「三番機、左から回れ! 四番機、ついてくるな、散開!」

彼自身も、1機のI-15に追尾されたが、逆に誘導して同僚機に撃墜させる巧みな連携を見せた。

そして、無事帰還。敵爆撃機は半数以上を撃墜し、被害はゼロ。

作戦室で中隊長が呟いた。

「……完璧だ」

慎也は、初めて実感した。

——俺は、仲間を生かすために飛んでいる。

その夜、隊舎の明かりの中で、慎也は戦果報告書を書いていた。

窓の外では、星が静かに輝いていた。ふと、宮田の声が耳元によみがえる。

《空はな、ただ広いだけじゃねぇ。誰が生きて、誰が帰るか、決めるのは空だ。俺は、絶対に生きて帰す指揮官になる》

「——お前の夢、受け継ぐよ」

慎也は呟くと、静かにペンを置いた。

慎也の部隊は、その後も敵爆撃の迎撃任務を数回成功させ、「漢口の盾」と呼ばれるようになる。

彼の名は、徐々に司令部でも注目され始めていた。

昭和一六年二月——部隊にひとつの報が届く。

「赤城艦載戦闘機隊への選抜名簿が出た」

赤城——それは、帝国海軍航空隊の中でも花形の空母部隊。

慎也は、心が震えた。

名簿に自分の名前が載っているのを見たとき、彼は手が震えた。

だが、それは単なる喜びではなかった。

(ついに来たか……赤城。だが、ここで見たものを忘れてはならない)

彼は、漢口での任務の最後の日、空から地上を見つめた。

そこには焼けた家々、貧しさにあえぐ人々、そして、ふと空を見上げる子供の姿があった。

(この空を、もう二度と、無意味な死で濡らしたくない)

昭和十六年三月。

相澤慎也は、赤城航空隊へ異動となった。

だが彼の心の片隅には、いつまでも漢口の空が残り続けていた——戦場での覚悟と、迷いと、そして人としての祈りを伴って。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ