第24話「空の盾、空の槍」
失踪しかけていたのは大変申し訳なく思います。
申し訳ありませんでした。
定期試験等がかぶりました。
昭和十五年五月。
漢口航空基地の空気は、日に日に殺気立っていた。敵の爆撃は一層激しくなり、迎撃の出撃命令は連日下される。
相澤慎也は、先月の空戦で同期の宮田を失って以降、無意識のうちに何かを探していた。
(俺は何のために飛ぶのか? 撃墜数か? 名誉か? それとも、復讐か?)
答えはまだ見つからなかった。だが一つ確かなことがある。
——あのままではいけない。
任務がある限り、彼は空へ上がらねばならなかった。
帰還後のブリーフィングにて「相澤、明日から第2小隊長をやってもらう」
整備棟の前でそう言ったのは、沢井中尉だった。慎也は驚いて顔を上げた。
「俺が……ですか?」
「お前ほど、戦況を冷静に見て動ける奴はそう多くない。それに、部下を守ろうとする気持ちもある。それは、指揮官の資質だ」
かつて宮田が語っていた「戦場のリーダーになりたい」という夢。それが、いま自分に託された気がした。
昭和十五年五月二十日。敵の爆撃隊が再び漢口へと迫るとの情報が入る。
慎也の率いる第2小隊は、4機で迎撃に向かうこととなった。
「高度は4000。敵の編隊上から回り込んで、先頭の指揮機を叩く。各員、僚機を見失うな!」
戦闘前の簡潔なブリーフィング。その中に慎也の緊張と覚悟が混じる。
敵はフィアットBR.20爆撃機の編隊、護衛にI-15戦闘機が10機以上。
(空戦では、瞬時の判断が生死を分ける)
慎也は編隊を巧みに率い、雲の中から一気に急降下を仕掛けた。
「照準よし——撃て!」
機銃の音が響く。爆撃機の右翼に火が走り、編隊が崩れる。
護衛戦闘機が迎撃に回るが、慎也はそれを冷静に観察し、部下に指示を飛ばす。
「三番機、左から回れ! 四番機、ついてくるな、散開!」
彼自身も、1機のI-15に追尾されたが、逆に誘導して同僚機に撃墜させる巧みな連携を見せた。
そして、無事帰還。敵爆撃機は半数以上を撃墜し、被害はゼロ。
作戦室で中隊長が呟いた。
「……完璧だ」
慎也は、初めて実感した。
——俺は、仲間を生かすために飛んでいる。
その夜、隊舎の明かりの中で、慎也は戦果報告書を書いていた。
窓の外では、星が静かに輝いていた。ふと、宮田の声が耳元によみがえる。
《空はな、ただ広いだけじゃねぇ。誰が生きて、誰が帰るか、決めるのは空だ。俺は、絶対に生きて帰す指揮官になる》
「——お前の夢、受け継ぐよ」
慎也は呟くと、静かにペンを置いた。
慎也の部隊は、その後も敵爆撃の迎撃任務を数回成功させ、「漢口の盾」と呼ばれるようになる。
彼の名は、徐々に司令部でも注目され始めていた。
昭和一六年二月——部隊にひとつの報が届く。
「赤城艦載戦闘機隊への選抜名簿が出た」
赤城——それは、帝国海軍航空隊の中でも花形の空母部隊。
慎也は、心が震えた。
名簿に自分の名前が載っているのを見たとき、彼は手が震えた。
だが、それは単なる喜びではなかった。
(ついに来たか……赤城。だが、ここで見たものを忘れてはならない)
彼は、漢口での任務の最後の日、空から地上を見つめた。
そこには焼けた家々、貧しさにあえぐ人々、そして、ふと空を見上げる子供の姿があった。
(この空を、もう二度と、無意味な死で濡らしたくない)
昭和十六年三月。
相澤慎也は、赤城航空隊へ異動となった。
だが彼の心の片隅には、いつまでも漢口の空が残り続けていた——戦場での覚悟と、迷いと、そして人としての祈りを伴って。




