殺された場所
朝起きたら赤ん坊だった。
異世界に転生したらしい。
何故そう思ったかと言うと、母親らしい女を始め俺の周りにいる奴等全員の姿がメチャクチャだからだ。
身体のパーツが多かったり少なかったり無い者もいる。
母親らしい女も胸や腹部や背中に乳が18もあった。
後で知った事だけど、多数の乳から出る母乳は集落の貴重な食料の1つなので、優先して食料や水が与えられている。
そのお陰で子供ができやすいらしい。
ただ、集落に生まれる子供のうち3人に2人は役立たずの身体で生まれる。
白痴であったり手足が無く芋虫のように移動するだけだったり、手や足が揃ってても骨が無く、軟体動物のような感じで這いずって動くような者たちだったりだ。
集落の構成員は30人ほどで、そのうちの10人がそういう役立たず。
数がおかしい理由は、そいつらが短命ってのもあるけど、役立たずが生かされているのは非常食料としてだからだ。
翻って俺、俺も集落の者たちに負けない化け物に生まれた。
違うのは、俺は集落の大人たち全員が認めるほどの有益な身体で生まれているって事。
大きさは赤ん坊なのに身体や腕や足が筋肉隆々としていて、大人と遜色が無いっていうよりそれ以上に逞しい。
だから俺は集落の中を自由に歩き走り回れるようになると、早々と食料調達に連れられて行くようになる。
獲物も化け物のような奴ばかり、頭が2つも3つもある奴や脚や目や耳の数がメチャクチャ多かったり無かったりする、ネズミや犬や猫みたいな奴。
それに幼稚園児ぐらいの大きさのゴキブリなどの虫みたいな奴等。
最初は獲物に翻弄され役に立たなかったけど慣れてきたある日、ケルベロスみたいな頭が3つあるデッカイ犬のような奴の真ん中の頭を足で抑えつけ、左右の頭を両手で1つずつ掴み捩じ切って殺すことができた。
それで俺は集落の者たちに1人前の大人と認められる。
因みに前世だったら5歳の幼稚園児なのにだぞ。
大人と認められた俺は集落の者たちに色々教えられる。
その中に食料調達に出かけても、朝明るくなる方向にある山を幾つか越えた先の谷に、絶対降りては駄目だってのがあった。
この世界は年がら年中空が雲に覆われてる。
だから生まれてこの方、太陽も月も星も見たことが無い、そのため集落の者が他の者に方向を伝える時は、朝明るくなる方とか明るくなる方を向いている時の此方側という言い方で表す。
それでだ、大人に駄目って言われると子供は逆に好奇心が湧くのは前世も今世も同じ。
最初は我慢してたけど数年経つと我慢できなくなってそこに行ってみる。
谷の底には沢山の白骨が転がっていた。
嫌、転がっているなんて生易しい物では無く、山積みになっている。
山積みになっている白骨を見ていて気がついた。
此処が異世界なんかでは無く、地球、それも日本だと言うことに。
山積みの白骨の先に見える洞窟、あの中には核シェルターがある筈だ。
21世紀の半ばの少し前から、日本政府は公共の核シェルターの建設を、東京都や政令指定都市を中心に始める。
だが建設された核シェルターの数はあまりにも少なかった。
あの日、スマホからJアラートの警報が鳴り響いたあの日。
あの洞窟の中にある核シェルターに、周辺住民や観光客など数千数万の人が逃げ込もうと押し寄せる。
定員500人の核シェルターに数千人の人が雪崩込む。
核シェルターを管理するAIはそれ以上の人の侵入を防ぐため、核シェルターの扉を閉めた。
核シェルターの前で、入れてくれるよう泣き叫び哀願する人たちを閉め出すようにして。
核シェルターの中も安全では無かった。
核シェルターの中に備蓄されていた食料は、500人の人が1日2食で2週間籠もれるだけの量しか無い。
当然食料の分配を巡って直ぐに殺し合いが逃げ場の無い中で始まる。
俺はその時あの中で殺されたんだ。
俺は何時の間にか跪き手を合わせ、山積みの白骨に向けて南無阿弥陀仏と唱えていた。




