7.聖女は笑う
短く拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。
朝日を浴びてティアリスは大きく伸びをした。
足元に転がる死体には目もくれず、山を登り始めた。
何かに導かれるように深い茂みをかき分け進んでいく。ティアリスは足場の悪さに辟易しながらも、ゆっくりと歩を進めた。
しばらく進むと大きな渓谷へ行きついた。
「あぁ、ここですかぁ……。これはやっぱり、酷いですねぇ」
ティアリスの目には谷底より瘴気のようなものが揺らめいているのが見えた。
「やっぱり放っておくわけにはいかないですよねぇ」
放っておけばこの場は穢れた場所へと変異し、それは魔物を呼び寄せいずれ山全体が魔物の巣窟へと変異していく。そうなれば近場の街や村々が襲われ、山賊以上の被害になるかもしれない。
聖女としては放っておけない。
「しょうがない、まったく面倒なことをしてくれたもんですよぉ。ほんとうに……」
ティアリスはその場に跪き、祈りを捧げ始める。
精霊へと祈りを捧げるその姿を、もし旅人が目撃をすることがあったなら、おそらくこの山の精霊にでもであったと噂しただろう。
ティアリスが祈りを捧げ始めると、彼女の身体がぼんやりと光だしそれが渓谷全体を包み込み始めた。
太陽が中天へと昇り始めたころ、ティアリスはようやく祈りを終えた。
ゆっくりと渓谷を覗き込む。瘴気はすでに見えることはなかった。
「大地の精霊、木々の精霊、光の精霊、清浄なる聖霊よ、この地の浄化に力を貸してくださりありがとうございました」
一陣の風が渓谷を吹き抜ける。
ティアリスは踵を返すともと来た道を戻っていった。
ティアリスは手にした荷物を確かめ、ニンマリと笑みを漏らした。
「いやぁ、やはり山賊さんたちですねぇ。結構な蓄えがあって私は嬉しいですよぉ」
袋の中に詰め込んだ金目の物を見つめるとニマニマが止まらない。
「死んでる人間にお金は必要ありませんがぁ、わたしには必要なんですよねぇ」
おおよそ聖人聖女らしくないことを言い放つ。
ティアリスはよいしょと荷物を抱えると、軽い足取りで山を下りて行った。
今後しばらくこの山で失踪する人はいなくなった。
この物語は日本の『六部殺し』を基に話を構成いたしました。
そこに必殺仕事人のような要素を付け加え、アレンジしたものですが、聖女の目線よりはむしろ成敗される側からの目線のほうが面白いだろうと思い、このような形に落ち着いた次第です。
しかし聖女に関しては当初、ここまで狂気じみた性格になる予定ではなく、もっと悩みながら人間らしい、それでも悪と戦うと心に誓ったどこかヒロイックで儚げな危うさを持った、そんな主人公を予定していたのですが、どこをどう間違ったのか、物欲バリバリのコスプレ大好き狂人という変人に落ち着いてしまいました。
作者の自己満足で作ったお話ですが、最後までお読みいただいた読者様に感謝いたします。