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聖女の功罪  作者: 乙3
山賊編
5/24

5.白い死神

次で終わりです。

 山中にある拠点となる洞窟にティアリスをす巻きにして連れ帰ってきたギドたちは、彼女を牢へ放り込むとそのまま宴会へと突入した。


 ギドは途中で抜け出すと、報告や後処理のために一人自室へと戻っていった。


 ここの連中は放っておけばなにもせず飲んで寝るだけの役立たずだ。ギドはそんな風に彼らを見ていた。だから実質この組織のナンバー2であるこの俺様がしっかりしねぇとな、と小さな自己満足に浸るのだった。


 女から奪った巾着の中身を確認する。手にした感触は結構重かった。これは結構期待ができるじゃねぇか。ギドは机に巾着の中身をばら撒いた。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ――」


 机に散らばった貨幣を種類ごとに分別し、数えていく。予想通りそれなりの金額が巾着の中にあった。それにあの女、かなりの上物だ。あの女を売り払えばさらに利益は見込める。ルドアにはもしかしたら別の考えがあるかもしれない。まぁそれはあとでルドアの旦那と相談だな。


 ギドはニヤリと笑う。


 女も金もここにいりゃ困ることはねぇ。街で職もなく金もなく、女連中のヒモとして生活するのにも飽きてきたところを、ルドアに声をかけられた。それからは安定した金を手に入れることができた。街の女たちには怪しまれたが、それでも金払いが良くなったギドを拒む女はいなかった。


 やっと俺にも運が回ってきやがったぜ。


 ギドはほくそ笑む。


 いつか金を貯めて、別の街で商売をするのも悪くねぇかもな。まぁでも、まだこんな美味しい仕事を辞めるのは勿体ねぇ。それはもうちょい後の話ってもんだ。


 ――ガタン


 どこかで物音がした。


 ギドは不意に現実に引き戻される。


「ったく、連中は、もう少し大人しくできねぇのかよ」


 仲間の連中は荒くれモノばかりだ。だから品性や知性なんてものは期待できない。半分は獣みたいな連中ばかりだ。欲望のままに動くし、我慢もできない。


 ルドアの手下となる以前はもっと酷かった。ルドアの徹底した恐怖政治は、多少なりとも粗暴な連中に統制と秩序を与えるのに効果的だった。


 けれどルドアがいなければすぐに獣に戻ってしまう。

 酒が入り、仕事がうまくいったとあれば尚更だろう。


 おそらくちょっとした諍いから喧嘩でも起こったのだろう。こういう仲裁役もギドの仕事だ。


 ヤレヤレと溜息を吐きながら、ギドは椅子から立ち上がり部屋を出た。


 部屋を出てすぐに違和感に気づいた。


 騒いでいるにしてはやけに静かすぎる。あの連中がもう寝静まっているわけがない。なのにこの静けさはどうしたことだ?


 ギドは腰にある短剣を握りしめ、ゆっくりと慎重に、連中がいるであろう部屋へと向かう。


 いくつかの角を曲がり部屋へと辿り着く。

 部屋の明かりは点いている。

 しかし不気味なほどに静かだ。


 ギドの喉がゴクリと鳴る。

 ある種の緊張感がギドを包み込んだ。


 ゆっくりと部屋へ足を踏み入れた。


「――っ!!」


 そこは惨劇と評してよい状態だった。


 首があらぬ方向に向いている者。短刀を眼球に突き立てられたもの。手足が可動域の限界を超えてあらぬ方向に向いている者。


 おおよそ生きている者はそこに存在しないかのようだった。


 けれど、その死の惨劇の真ん中に、ポツンとひとり、白いローブに返り血を浴びた状態の何者かが立ち尽くしていた。


「て、てめぇは――!?」


 白いローブの何者かは、ゆっくりとギドに振り替える。

 その顔、いや顔に当たる部分には、銀色の仮面が被せられていた。

 おそらく女だろう、だが、一体?

 

 

 不意に女が近づいてきた。

 白いその肢体がゆらりと揺れる。

 「ひぃ!!」ギドにはその銀仮面の女が、白い死神のように見えた。


 音もなく、滑るように白い死神が近づいてくる。

 言い知れぬ圧迫感にギドは恐怖する。

 

 ルドアのような暴君の恐怖とは違う、原始的な恐怖。

 抗ってはいけない、抗うすべのない恐怖。

 死神からはそんな恐怖の圧迫感が滲み出ている。


 全身が恐怖に屈し、動くことができずにいる。

 その間に死神が眼前に近づいてきた。

 白い、奇妙に白く綺麗な手が、ギドの首へと伸びてくる。


「あがっ!!」


 その細腕からは考えられないような怪力が、ギドの喉を潰していく。

 喉を圧されて声にならない声が漏れるが、死神の力が緩まることはない。


 俺が何をしたっていうんだ? なんでこんな目に遭うんだ? 誰か、誰か答えろ!!

 死神の隣に、あの女の顔が浮かび上がる。


「あ……あぅ……」


 そうか、それで――。

 

 ギドは薄れゆく記憶の中で、自らの人生を後悔した。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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