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聖女の功罪  作者: 乙3
山賊編
4/24

4.姦計

基本的に悪党目線で話が進んでいきます。

 ルドアは扉を開けた。

 そこには見知った手下のギドが女を連れて立っていた。


「どうしたギド? そっちの方は?」


「ルドアの旦那、そのぉ――」


 この山にはルドアの情報網が敷かれている。山道入り口での出来事は、ギドを通して別の手下に伝えられ、ルドアのもとへ届いている。多少の危険はあるものの、近道というものはいくらでも存在する。


 ギドは手短に事のあらましを説明するが、後ろにいる女に対するフリでしかない。


 一応の説明を聞き終わり、ルドアは女をみる。

 なるほど、こいつぁ高く売れそうだ。などと頭の隅で考えるが、表情にはおくびにも出さない。精々、愛想よくして警戒されないよう努める。


「なるほど、そいつぁお困りでしょう。一応ここはそういったことも考えて、宿屋なんて立派なもんじゃねぇが、それらしいこともしとります。よければ一晩の宿と、薬なんぞを出ししますが、いかがでしょう?」


 生まれの育ちの悪さは隠せないが、それでも警戒を持たれない程度に、自分なりの丁寧さで話を振る。

 女は少し考えるそぶりを見せた。


「痛む脚では遠くまで歩くこともできません。暗くなった夜道も危険です。それに一人この山で、しかも雨も降りだし雨風をしのげる場所に心当たりもありません。ご迷惑でなければ一晩の宿をお願いできますでしょうか?」


 ルドアとギドは互いに目配せをする。


 互いにこの後のことは了承済みである。ギドは「じゃあ、あっしはこれで」と雨の降る夜の山道を小走りに駆けていった。あとの手配をするためにアジトへと向かったことは、ルドアにはすでに承知のことであった。


 女はその背中に向かって「ありがとうございました」と頭を下げた。


「じゃあ、中にお入りなせぇ。雨が降り出したから、外は少々寒いでしょう。すぐにでも薬をお持ちしやす」


「いろいろとすみません」


「えーっとぉ……」


 女はそこで自分の名を告げていないことに気づく。


「あっ、ティアリスと申します。貴族ではありませんので姓はございません」


「こいつぁどうも。俺――いや、あっしはルドアといいやす。まぁこの山を根城にしてるモンですわ」


「ルドア様ですね」


 女は貴族ではないといいつつも育ちの良さを感じさせる所作に、どこか不思議な感じを受ける。

 

 もしやどこかの商家のご令嬢だろうか。ならば身代金という手もある。だがそういった身分の者が、何の共も付けず、一人でこのような巡礼の旅に出るものだろうか。


 ルドアは僅かに芽生えた違和感に蓋をして、ティアリスを暖炉の部屋へと案内した。


「先ほどもいいやしたが、一応宿屋みたいなこともしとりますんで、申し訳ありやせんが、代金のほう宜しいでしょうか? 一応一晩銀貨5枚となりやす」


「まぁ、そうですね。泊まらせていただくのですから、対価を支払わねばなりませんね」


 ティアリスはそう言うと、慌てたように荷物袋から巾着を取り出し、中から数枚の銀貨を取り出した。

 ルドアは目敏く巾着の中身を覗く。――思った以上の収穫になりそうだ。

 

「こいつぁ少しばかり多いと思いやすが?」


「ほんの心ばかりのお礼ですので、お気になさらずに」


 ルドアの手の中には、提示した倍以上の銀貨が握られていた。


「こいつぁ晩飯も気合を入れんとな」


 おどけて言うルドアに、ティアリスは微笑む。


 ここにあるものは、あと少しすれば全てルドアのものであったが、それでもこういった気前のいい支払いには気分が良くなるのは当然といえた。


 ルドアは悪党だ。それは自他ともに認めることだ。しかしそれでも支払いのいい獲物とそうでない獲物では、支払いのいい獲物のほうが良いに決まっている。ので、支払われた対価以上の仕事をしても罰は当たるまい、といったルドアの奇妙な思考があった。


 普段の獲物では使用させない風呂を準備し、晩飯もそれなりのものを用意する。支払われた対価に対する返礼という意味合いもあったかもしれないが、ルドアからすれば「どうせ売られていく身だ。せいぜい綺麗にしてやるよ」と思ってのことかもしれない。


 とにかくルドアとしては、売られるまでの僅かな時間を楽しませてやった。という程度の想いでしかなかった。


 それからルドアはティアリスと他愛のない話をしつつ、夕食を共にした。


 食事を終えるとティアリスはひとつ欠伸をする。お腹が満たされたからか疲れからか、それとも夕食に仕込んだ薬が効き始めてきたか。


 ウトウトと舟をこぎ始めたティアリスを見て、ルドアは言った。


「お疲れでしょう。こんな場所では風邪をひいちまいやす。布団を敷いておきやしたんで、そちらへどうぞ」


「ありがとう……ございま……す……」


 呂律も怪しくなったティアリスは、覚束ない足取りで布団へと向かうと、そのまま布団へ倒れこんだ。

 数瞬もしないうちにスゥスゥと寝息を立てる。ややあってルドアはティアリスの頬を軽く叩いてみるが、眠ったままだ。


 おもむろに立ち上がり家の戸口を開けヒュイと口笛を鳴らす。

 

 闇の中でいくつかの影が蠢いた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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