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聖女の功罪  作者: 乙3
山賊編
3/24

3.巡礼者

 ギドは愛嬌のある男だった。

 場を賑やかにするのが得意だった。

 話を振り、相槌をうつ。たったそれだけのことなのだが、なぜかギドがそれをするだけで、場が賑やかになった。

 話し上手故に、小男ながら女にもモテた。

 相手の懐に潜り込むことに長けた才能を持ってた。

 

 そんなギドだからこそ、ルドアは街へと向かわせた。


 ギドは町をぶらつきながら、獲物を物色する。

 ひと月ほど前に捕まえた女は、弄んだあとに仲間の一人が首を斬って殺してしまった。殺すつもりはなかったが、隙をみて逃げ出した女を誤って殺してしまったのだ。

 そのことを知ったルドアの形相は、今思い出しても震え上がらんばかりに恐ろしい。切り殺した仲間は半殺しにされたのは記憶に新しい。折れた鼻が未だに戻らずにいる。

 ギドは身震いをする。今回はその失点を挽回しなければならない。

 いくつかある宿屋や飲み屋を覗き込み、獲物を物色する。幾人か目星を付けることができたが、失点を挽回できるほどでもない。


(東国の僧侶らしい男に、この辺りでは見ない冒険者の男か、他には――。どうにもいけねぇ。金を持っているかどうかも怪しい連中ばかりだ)


 巡礼者であれば、身内や近所の連中が金を工面するため、かなりの金額を持ち歩くことが多い。

 聖都に巡礼するというのは、それだけで一大イベントであったし、謝礼を払って祈祷巡礼を巡礼者に託すことも珍しくはなかった。


(さてどうするかねぇ。今日はもう帰って、別の日にでも見繕うとするか)


 ギドは大きく伸びをして踵を返し、街を出てアジトへと向かった。

 道中で出会うのは顔見知り。連中はギドが人攫いなどをやってるとは知らないため、愛想よく挨拶をしていく。ギドもいつもの愛想のよい笑顔で挨拶を返していく。


 人の往来が途絶えた。昼を少し過ぎたばかりだというのに珍しいこともあるもんだ。


 いつもならもう少し人の往来が多い時間帯だ。けれど今日は人の往来が少ない。

 空を見上げれば分厚い雲が空を覆い始めていた。


(なるほど、一雨来るか)


 雨に降られてはかなわんと、ギドの足取りも少し早くなる。

 ようやくアジトのある山へと辿り着いたとき、道の端で蹲る人影が見えた。

 ギドはその人影に声をかけた。


「あのう、どうかしやしたか?」


「その、足を挫いてしまいまして……」


 声色から年若い女だと判った。

 ギドは心の中で舌なめずりをする。


「それはいけねぇ。ちょいと見せてみな」


「い、いえ、大丈夫です。なんとか歩けると思いますので……」


 そう言って女は立ち上がろうとするが、痛みが酷いのか再び蹲る。


「ほら言わんこっちゃない。どれ、近くに知り合いの家があるんだが、よければそこまで肩を貸すぜ?」


「よ、宜しいのですか?」


 女が顔をあげた。

 ギドはこの時女の顔を始めて見た。目鼻立ちの整った美しい女性だった。

 こいつぁ売れる。いや、売る前に楽しませてもらう。


 ギドは邪な心をひた隠す。

 

「そいつぁ、この山で狩りをしているからなぁ。独自の薬やら痛み止めなんかもあるかもしれねぇ。ちょいと山を登るが、なぁに、この山は勝手知ったるってやつでね、庭みたいなもんでさぁ。女性を一人抱えてでもなんてこたぁねぇ」


「重いですよ?」

 

「いやいやこのギド、見ての通り冴えない小男ですが、それなりに力があるんですわ」


 ニカッと笑うと、女性もクスクスと笑う。


「でも荷物もありますし、そうですね、それでは肩を貸してもらえますか?」


「荷物?」


「はい。聖都への巡礼の旅の途中でして、郷里の皆さんから預かったお金などもありまして……」


「巡礼の方ですかい?」


 女性はこくりと頷いた。

 年若い美しい女で巡礼者、しかも金も持っていやがる。

 

 ギドは小躍りしたい気分だった。






最後まで読んでいただき、大変ありがとうございました。

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