3.巡礼者
ギドは愛嬌のある男だった。
場を賑やかにするのが得意だった。
話を振り、相槌をうつ。たったそれだけのことなのだが、なぜかギドがそれをするだけで、場が賑やかになった。
話し上手故に、小男ながら女にもモテた。
相手の懐に潜り込むことに長けた才能を持ってた。
そんなギドだからこそ、ルドアは街へと向かわせた。
ギドは町をぶらつきながら、獲物を物色する。
ひと月ほど前に捕まえた女は、弄んだあとに仲間の一人が首を斬って殺してしまった。殺すつもりはなかったが、隙をみて逃げ出した女を誤って殺してしまったのだ。
そのことを知ったルドアの形相は、今思い出しても震え上がらんばかりに恐ろしい。切り殺した仲間は半殺しにされたのは記憶に新しい。折れた鼻が未だに戻らずにいる。
ギドは身震いをする。今回はその失点を挽回しなければならない。
いくつかある宿屋や飲み屋を覗き込み、獲物を物色する。幾人か目星を付けることができたが、失点を挽回できるほどでもない。
(東国の僧侶らしい男に、この辺りでは見ない冒険者の男か、他には――。どうにもいけねぇ。金を持っているかどうかも怪しい連中ばかりだ)
巡礼者であれば、身内や近所の連中が金を工面するため、かなりの金額を持ち歩くことが多い。
聖都に巡礼するというのは、それだけで一大イベントであったし、謝礼を払って祈祷巡礼を巡礼者に託すことも珍しくはなかった。
(さてどうするかねぇ。今日はもう帰って、別の日にでも見繕うとするか)
ギドは大きく伸びをして踵を返し、街を出てアジトへと向かった。
道中で出会うのは顔見知り。連中はギドが人攫いなどをやってるとは知らないため、愛想よく挨拶をしていく。ギドもいつもの愛想のよい笑顔で挨拶を返していく。
人の往来が途絶えた。昼を少し過ぎたばかりだというのに珍しいこともあるもんだ。
いつもならもう少し人の往来が多い時間帯だ。けれど今日は人の往来が少ない。
空を見上げれば分厚い雲が空を覆い始めていた。
(なるほど、一雨来るか)
雨に降られてはかなわんと、ギドの足取りも少し早くなる。
ようやくアジトのある山へと辿り着いたとき、道の端で蹲る人影が見えた。
ギドはその人影に声をかけた。
「あのう、どうかしやしたか?」
「その、足を挫いてしまいまして……」
声色から年若い女だと判った。
ギドは心の中で舌なめずりをする。
「それはいけねぇ。ちょいと見せてみな」
「い、いえ、大丈夫です。なんとか歩けると思いますので……」
そう言って女は立ち上がろうとするが、痛みが酷いのか再び蹲る。
「ほら言わんこっちゃない。どれ、近くに知り合いの家があるんだが、よければそこまで肩を貸すぜ?」
「よ、宜しいのですか?」
女が顔をあげた。
ギドはこの時女の顔を始めて見た。目鼻立ちの整った美しい女性だった。
こいつぁ売れる。いや、売る前に楽しませてもらう。
ギドは邪な心をひた隠す。
「そいつぁ、この山で狩りをしているからなぁ。独自の薬やら痛み止めなんかもあるかもしれねぇ。ちょいと山を登るが、なぁに、この山は勝手知ったるってやつでね、庭みたいなもんでさぁ。女性を一人抱えてでもなんてこたぁねぇ」
「重いですよ?」
「いやいやこのギド、見ての通り冴えない小男ですが、それなりに力があるんですわ」
ニカッと笑うと、女性もクスクスと笑う。
「でも荷物もありますし、そうですね、それでは肩を貸してもらえますか?」
「荷物?」
「はい。聖都への巡礼の旅の途中でして、郷里の皆さんから預かったお金などもありまして……」
「巡礼の方ですかい?」
女性はこくりと頷いた。
年若い美しい女で巡礼者、しかも金も持っていやがる。
ギドは小躍りしたい気分だった。
最後まで読んでいただき、大変ありがとうございました。