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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

グリムリーパー「死へ誘(いざな)う呪いの大鎌」

作者: 生名 成

メイン小説は異世界ファンタジー連載中の「宇宙漂流した星軍下士官は魔法と魔物が存在する辺境惑星で建国を目指す!」です。たまに違うジャンルを書きたくなるのです。良かったらお読みください。評判が良かったら連載を検討したいと思います。ただし、現在は小説家になろう用の新連載の構成を作っているので、そちらが優先になります。


本来なら、この世に在るはずがない邪な物。

それ故に、迷宮の奥深くに封じられた禁忌の道具。

浄化する為に封じたはずの呪いの大鎌は、何百年ものあいだ浄化に抵抗していた。

 そして、光と闇の拮抗は崩れた。封印はいつしか弱まり、漏れでた呪いが迷宮を侵食し始める。

悪しき存在である魔物や闇に飲み込まれた者たちが、大鎌に引き寄せられて魂を吸い上げられた。そうして、大鎌は昔の力を取り戻しつつあった。





今、一人の少女が運命に導かれようとしていた。

少女は酷い怪我をしている。 右の肩口から背中に至る刀傷は深く、もはや数時間の命。


それでも少女は諦めなかった。ただひたすら前へと体を動かした。少女を動かすものは強い復讐心。

村を焼かれ、友を奪われ、そして、目の前で家族を殺された。


「エリス、必ず生き延びろ」

それは、少女を庇った兄の最後の言葉。口から血を吐きながらも兵士に抱きついた長兄の執念。

「必ず、こいつらに復讐を!」

 はみ出した腹わたを押さえもせずに、もう一人の兵士にしがみついた次兄の遺言。

「エリス、逃げて。そして、私たちの恨みをはらして」

 服を破られ乱暴されながらも兵士の顔を掻き毟る姉の呪詛。


姉の断末魔を聞きながらエリスは逃げた。振り返ることもせずに、ひたすら走る。長い金髪を振り乱し、細い手足を懸命に動かした。追手の声に怯えながらも森の中を走り続けた。


『生きるんだ。生きて必ず家族の恨みを晴らすんだ。帝国に、私の家族を奪った国に絶対に復讐してやる。それまでは、死んでも死に切れない』

『復讐するまでは死ねない』という強い想いが、少女の体を動かしていた。


青く輝く月のおかげで明るい森を抜けて、エリスは山に達した。最後の力を振り絞って山を登る。この山には洞窟が多い。そこに隠れるつもりだった。だが、体力が尽きてエリスは坂を転げ落ちた。


 転げ落ちる途中でエリスの姿が消えた。

洞窟に落ちたエリスには、もはや立ち上がる気力も体力も残っていない。

穴から差し込む青い光が、地面に俯せになったエリスを照らしていた。


おびただしい血が流れ、エリスの顔から色が失せる。だが、その目は強い感情で輝いていた。エリスは呻くように呟いた。

「このまま死んでたまるか」


うつ伏せになったエリスの十本の指が洞窟の土を掻きむしる。

「必ず復讐してやる」

もはや、声にならない声で呟く。


復讐に染まったエリスの想いが、血と共に洞窟に吸い込まれる。

そして、その血と想いが――。


 やがて、土を掴んでいたエリスの指が力なく開いた。血溜まりがエリスの指を濡らす。もはや、エリスの命の火は消えようとしていた。だが、その時。

 ――湧き上がってきた呪いの侵食と共鳴した。


エリスは声を聞いた。それは、頭に直接問いかける声だった。

「力が欲しいか?」

躊躇ためらいなくエリスは答えた。

「欲しい」

瀕死とは思えない力強い声だった。

「何を望む?」

エリスは答えた。

「復讐だ」

エリスの心は負の感情で満たされ、魔に染まっていた。

「類い希なる復讐心を持つ者よ。お前を我が所有者と認めよう」


――刹那。

エリスの体が薄紅色に輝き、眩しいほどの光で覆われた。全ての傷が一瞬で塞がり、死にかけた体が命を取り戻す。


立ち上がったエリスの髪は赤く変わっていたが、その肌は透き通るように白かった。

とつぜん、エリスを包んだ漆黒の革鎧からは、両肩と太腿が出ている。両手で持っているのは真っ黒な大鎌だった。鎌の刃先は長く、切っ先は地面に触れていた。


エリスの鼻は高く、口は小さい。そして、小顔の割には大きな目をしていた。だが、その瞳は緑からあかに変わっていた。

さっきの声は二度と聞こえなかったが、エリスは自分に起こった事を理解していた。

『闇堕ち』した自分を知る。それは、自分が人ではなくなった事を意味していた。

「……」

エリスが呟くと、大鎌が消えて代わりに黒いローブが現れた。


エリスは外に出た。地上はまだ青い光に覆われていた。

「魔の青い月」

エリスは呟いた。

この世界では『魔を呼ぶ青い月』と呼ばれている。月の魔力が最高潮に達した時だけ青く輝くと言われていた。


魔を呼ぶ青い月と呪いに侵された闇の迷宮。そして、エリスの怨念。この三つが重なったのは偶然なのか?

それは誰にも分からないことだ。そして、復讐に囚われたエリスには必要が無い事だった。


エリスは走りだした。自分が住んでいた場所へ。今も燃え盛っているはずの村へと。赤い髪を風に靡かせてエリスは山を駆け下りた。

 その途中でジャイアントスパイダーに遭遇する。しかし、昆虫系の魔物は気配に敏感だ。自分が殺される側だ、と瞬時に察知したスパイダーは即座に逃げ出した。


 エリスは真紅に光る瞳でそれを見ていたが、無駄な時間をかける気にはなれなかった。『早く殺せ』と心が叫ぶ。『全てを喰らえ』と大鎌の意思が伝わる。

「復讐してやる! 私から全てを奪った者を許さない」

 エリスの想いに大鎌が応える。

『殺しつくせ! そして、魂を全部、俺に寄越せ』


『グリム・リーパー』

「死へ誘う大鎌」の異名を持つ道具は、遥か昔にこの世界に災いをもたらした。かっては、暗黒世界に存在し、何者かに因って次元の穴に捨てられた呪いの大鎌。

 エリスを引き寄せたのか、エリスに引き寄せられたのか。それは不明である。ただ一つ判っているのは、大いなる厄災が再びこの世界を覆うということ。




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