計画犯罪②
あるアパートの一室で、全身黒一色で統一した女が静かに部屋の中を漁っていた。
両手には指紋が残らないように、きちんと皮の手袋も身につけているようだ。
「・・・こんなもんかしら。」
女は一通り散らかすと、寝室の扉に手をかけた。
ゆっくり、ゆっくりと中の様子を窺いながら扉を開ける。
部屋の端にあるベッドは、暗闇でも膨らみを持っているのが分かる。
女は静かにベッドに近づいて、聞こえるか聞こえないかのようなか細い声で、ベッドの主に話しかける。
「喧嘩したままなんて嫌だけど、しょうがないわよね・・・」
女はそう囁くと、ふと少し上を見つめ、何かを思い出しているようだ。
……
…………
………………
『浮気したでしょ?!私見たんだから!!あなたが他の女と一緒にラブホから出て来る所を!!』
『・・・見られてたのか・・・あの時、お前が近くにいたなんてな。』
『前々から怪しいと思ってたのよ!!』
『・・・この前、お前が携帯見た時からか?』
『・・・その前からね。あの日あなたの携帯を見て確信したのよ!』
『・・・浮気をしたことはもちろん謝るけど、人の後をつけたりするのも良くないだろ!お前には幻滅した・・・別れてくれ』
『何よ?!逆ギレ?!私は絶対別れないんだから・・・!!』
………………
…………
……
「・・・あなたが悪いのよ。他の女になんか気を取られるから。・・・今日ためにいろいろ調べて計画したわ・・・あの女になんかあなたは渡さない・・・あなたは私のものよ・・・永遠に・・・」
女は手に持っていたナイフを大きく振りかざした――
ボフッ!
「?!えっ―――?」
グサッ!
「っ―――!?」
倒れている女に俺は言った。
「・・・お前、気づけよな。」
最後まで読んで頂きありがとうございます(_ _*)
ここでは話の解説を致します。
まず、この話の登場人物についてですが、
・女
・俺
・浮気相手(間接的ですが)
です。
"女"は、"黒い服を着た部屋を荒らしている女"で、="俺の彼女"でもあります。
次に"俺"についてですが、女の回想シーンの会話の相手と最後の一言を話したのも"俺"です。
そして、"語り手"も"俺"です。
最後の台詞前の一文を読んで頂けると分かると思います。
これを踏まえた上で話の全貌を解説します。 "俺"には"女(彼女)"の他に"浮気相手"がいました。そして、"女"とは別れたいと思っていました。
そこで、考えたのは"わざと浮気に気付かせて別れるように仕向ける"ことでした。
予定通り"女"は"俺"の浮気に感づき始めます("俺"の携帯を確認したり)。
そして、浮気を確信した"女"は証拠を掴もうと"俺"を尾行して、ホテルから出て来る"俺"を見ます。
"女"が携帯を見ることも、尾行することも"俺"の計画通りなので、"俺"が知っているのも当然です。
ここまでは"俺"の計画通りでしたが、"女"は別れないと言いだし、さらには俺のスケジュールなどを調べ、"俺"を殺す計画まで立て始め、徐々に計画が狂い出します。"女"を調べていた"俺"は、"強盗殺人に見せ掛けて殺す"という"女"の計画に気付き、逆にそれを利用して"女"を殺すという計画を立てました。
『強盗が彼女だと気付かずに殺されそうになったので抵抗したら、誤って殺してしまった。』という計画です。
そして犯行当日、"俺"は布団の中にクッションを隠し、寝ているように装って自分は隠れ、"女"が殺しに来るのを待ちました。 "女"が部屋に侵入し、荒らしている間、"俺"は隠れながら女の行動を窺っていました
(語り手(=俺)の話の内容は、窺っていた様子を示しております)。
そして、"女"が寝室へ入り、"俺"を殺そうとしたが手応えを感じないことに驚いている隙を見て背後からナイフで一突き。
この時の"俺"の一言は、
『ずっと様子を窺っていて、背後に近づいたことに"気付けよ"』
という意味でした。
そして、この一言のもうひとつの意味があり、
『お(の)前、気付けよな』という隠しメッセージで、回想シーンの"俺"の台詞の"お"の前に注目すると(台詞なので句読点は関係ありません)、
あのと"き"
このま"え"
ないだ"ろ"
となり、
『(俺の前から)消えろ』というメッセージが含まれていました。