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魔法の検証と初めての狩り、初めての経験

目が覚めた。体感ではそろそろ朝になっている頃だ。

起きるために身体を起こそうとすると、何だか少し動きづらい。

…何かと思えば玲奈が私を抱き枕にしていた。

確か、夜中に何度か目を覚したが、その時には手を握っていただけだった。


昔小さい頃に、ことある度に私のベッドに玲奈が潜り込んできて抱き枕にされていた事を思い出す。

久々に抱き枕にされた気分は悪くなかった。

心地よい圧迫感にもう少し浸っていたいが、私の方からも軽く抱きしめておくだけで我慢しよう。

10秒ほど抱きしめてから、玲奈に声をかける。


「玲奈、そろそろ朝よ。置きましょう」

「んん…。…おはよう、お姉ちゃん」

「おはよう。身体の調子はどう?」

「身体が痛いのとお腹が空いてる…」

「身体が痛いのは硬い地面で寝たからかしらね?余裕があれば今日のうちにどうにかしましょうか。後は食べ物も頑張って今日のうちに確保しましょうか」

「よしっ、腹ぺこなのは辛いけど頑張らなくちゃね!」

どうやら完全に目が覚めたようだ。


目が覚めた所で二人で外に出る。

屋根の穴を塞いでいる土の板を土魔法で少し崩す。

屋根の上にでると薄い色のついた霧の様なものが見えた。昨日この異世界に来た時から見えるようになった魔力だが、不思議と視界の邪魔にはなっていない。

疑問に思いつつ空を確認すると、雲が遠くに少し見えるだけだの快晴だった。

雨が降っていなくてよかった。これから日中は十分な時間、活動できるだろう。

ほっとしつつ、屋根から昨日と変わらない草原に降りる。

玲奈も降りてきたところで声をかける。


「さて、今日やることを確認しましょう」

「今日は狩りをして食料を確保する、でいいんだよね?」

「ええ。本当は狩りなんて危険な事はしたくないのだけど…」

「狩りは危険だけど、知らない植物はを食べるのは危なそうだもんね…」


玲奈の言うとおり、異世界の食べられる植物なんてわからない。

下手に食べて毒に侵されるのは避けたい。


「地球の哺乳類や鳥類に似た生き物を狙いましょう。両生類や爬虫類とか虫よりは毒を持っている可能性が低そうだわ。地球基準で、だけど…」

「両生類と爬虫類はともかく、虫は食べるのも会うのも嫌だなあ…」

「それは同感ね…。出会ってしまったら全力で逃げましょう」

私も玲奈も虫が苦手なので、虫と出会うのを想像して黙ってしまう。

いや、気落ちしている場合ではない。必ずしも狩りが今日のうちに成功するとは限らないのだ。

明るいうちになるべく活動しなくては。


「ひとまず、どんな生き物を狙うかは大まかに決めたけど、問題はどうやって狩りをするかね」

「魔法で攻撃は出来そうだけど、真正面からはやっぱり危ないよね?やっぱり、罠かな?」

「簡単に作れそうなのは落とし穴ね。土魔法を使えば簡単に作れそう」

「穴に落ちたところを土とかで拘束するのはどう?」

「いいわね、より安全になるわ。岩で押さえつけてから頭を水で覆って窒息死させましょう」

「暴れてるところに水で頭を覆うなんて細かいコントロール出来るかな?」

「駄目なら他の魔法で攻撃するか、落とし穴ごと水で埋めて窒息させましょう。昨日魔法を使った感じからして、お風呂数杯なら魔力は問題なく持ちそうだわ」

「じゃあ念の為にも色々な魔法の練習をしなくちゃ!」


本格的に魔法を使う機会が来たためか、玲奈は目を輝かせている。

昨日は拠点作りのためにほとんど土魔法しか使えなかくてうずうずしていた。

かくいう私も、魔法で何が出来るのか気になっている。

この機会に玲奈と一緒に色々と検討しておこう―――


二人で地面を魔法でほったり、獲物を押さえつけるための土の塊を作ったり、獲物を窒息死させるための大量の水も出したりした。

他にもファンタジーの定番である風の刃や火の矢の魔法を土壁に対して放ってたりした。

踏み固められた地面くらいの硬さに作った土壁を風の刃は抉り、火の矢は勢い良く突き刺さるくらいには威力がある。

これならある程度は自衛が出来そうだ。


そうこうして玲奈と魔法の練習を始めてだいたい1時間程で、3つほど推測できたことがある。

こんなに短い時間で検証が出来たのは魔力が見えたからだろう。

玲奈には見える精霊が見えないのは残念だが、今は魔力が見えることがとてもありがたかった。

思考が逸れた。忘れないうちに整理しておこう。


①魔法はイメージすればよく、声を出す必要はない。

例えば水を出したければ、水を出したい箇所に青い魔力を集めて大気中の水分を抽出するイメージをすると水が現れる。

ライトノベルや漫画のように、技や名前を声に出すのは恥ずかしかったのでありがたい。

昨日の夜、玲奈は声を出さずに火を出していた事からも、声を出さなくてもいいのは玲奈も同じようだ。


② 操作できる魔力の範囲と魔法で事象を発生させられる範囲は自分を中心に約5m前後。

5mを超えるとコントロールしていたはずの魔力が霧散してしまうのが見えた。

玲奈の場合、加えて5m以内に精霊がいる必要があるという制約がある。

5mはどうにも心許ない距離だ。練習でこの距離が伸びるのかは分からないが、伸びると信じて努力するしかない。


③地球の物理法則に沿った現象ほど使用する魔力が少ない。

魔法で水を生み出す際に湿度が高い空間であるほど、僅かに必要な魔力が少なかった。水を発生させるのに近場の水分が使われているのかもしれない。


他にも、風魔法で空気を圧縮してから魔法で火を起こすのと、何もせずに魔法で火を起こすとでは、前者の方が必要な魔力が少なかった。

これは空気の圧縮による発熱で温度が上昇していることが関係している気がする。

確か空気を圧縮すると気体中の分子の運動量が大きくなって熱エネルギーが発生するらしい。

これは推測だが、火がつく温度である発火点との差分の温度は、魔力で補っているのかもしれない。


足りない分の水と、足りない分の熱エネルギーがどこから来ているのかという疑問は残るが、この場で考えていても原理は分からないだろう。

質量保存の法則とエネルギー保存の法則に逆らうと必要な魔力が多くなるとだけ覚えておくことにする。



一度、魔法について推測できたことの認識を玲奈と共有する。

玲奈と会話をしていて、少し前から気になった事があったのを思い出したので訪ねてみる。


「少し聞きたいのだけど、精霊は今は近くにいないのよね?」

「うん、今はいないよ。お姉ちゃんには濃い色の魔力みたいに見えるんだっけ?ほら、近くにいるようには見えないでしょ?」

「ええ、見えないわ。でも、玲奈はさっきから精霊がいないのに魔法を使ってるでしょう?玲奈は精霊にお願いしないと魔法を使えないのよね?」

「うん、私は精霊さんに代わりに魔法を使って貰ってるよ。今は精霊さんはいないけど、魔法を使いたいって考えるといつの間にか精霊さんが近くにいるの。ほら、こんなふうに」


そう言うと、玲奈は手のひらの上で数秒の間隔を空けて何回も水を出したり消したりする。

その様子をよく注意して見てみると、確かに水が現れる直前に濃い色の青い霧が現れては消えてを繰り返している。


「興味深いわね。普段は隠れているのかしら?」

「どうなんだろう?会話が出来る訳じゃないから」

「でも、玲奈は精霊に魔法を使って貰ってるのに、普段は近くに精霊がいるか分からないのは不安ね」

「んー、それは大丈夫かも。見えないけど何となく近くにいるのは分かるんだよね」

「近くにいる事は感じ取れるのね。ちなみに魔法を使うときに現れる精霊はいつも同じ精霊なのかしら?」

「火とか土とかの属性?ごとに精霊さんは違うけど、同じ属性の時は何時も同じ精霊さんみたい。昨日あった精霊さんたちが毎回来てくれるの」

「同じ精霊がいつも来てくれるのは安心ね」


これはいい兆候だ。

精霊が玲奈を気にいったからなのかどうかは分からないが、この先もずっと玲奈に付いてきてくれるかもしれない。

これなら精霊が近くにいなくて玲奈が魔法を使えないという心配は不要かもしれない。

それでもいざという時は私が魔法で玲奈を守ればいい。


「さて、そろそろ狩りを始めましょうか。問題は獲物を見つけられるかどうかね」

「それなら私、いい考えがあるよ!」


そう言って玲奈は土魔法で10mほどの高さの階段を作ったと思えば、それを上っていった。

階段を触ってみると強度は問題なさそうだ。

だが手すりもない剥き出しの階段を何の躊躇もせずに上がっていく玲奈を心配になりながら、土魔法で手すりを作りながら階段を上がる。


「玲奈、危ないじゃない。落ちたらどうするの…。魔力が足りない訳じゃないんだから手すりくらいなさい」

そう言って玲奈の周りにも手すりを作った。

「ありがとう、お姉ちゃん!」

玲奈がニコニコとした笑顔でお礼を言う。

…注意をしているのになぜこの子は笑顔なのだろう?

そんな疑問を浮かべていると、玲奈が声を上げる。


「あ!見て、お姉ちゃん。あそこ動物が群れで移動してるよ」

玲奈が指を指した方向を見ると、数百m先に十数頭ほどの動物がいた。

「こちらに移動して来ているわね。哺乳類の様な見た目をしているしちょうどいいわ。あの中のどれかを獲物としましょう」

「分かった!落とし穴の準備しなくちゃね!」


深さ2m、直径3mの円形の落とし穴に薄く作った土の板を被せておく。これで板の上を動物が通れば、板が壊れて落とし穴にかける事ができる。

こうした落とし穴を2m間隔で10個作った。

これなら多少進行方向が変わってもどれか一つには引っかかるだろう。


落とし穴を作った後、私たちは背の高い草に身を隠して待機していた。

「ちゃんとかかるかな?」

「今の所大丈夫そうね。進行方向が大きくズレるようなら脅かせて方向を修正させましょうか」

「落とし穴に落ちなかった動物はどうする?」

「魔法で大きな火を作って追い払いましょうか。地球の動物と同じかは分からないけど、動物は火は苦手なはずよ」


小声で会話しつつ待っている間にも、群れは進行方向はあまり変わらないまま移動していっている。

群れの横幅は落とし穴の間隔よりも広い3mほど。

これなら落とし穴のどれか一つにはかかりそうだ。

そうして待っていると、数頭の大きな鳴き声が聞こえてきた。


「玲奈!行くわよ!」

「了解!」


二人で落とし穴の方向に掛けだす。

近づいていってみると、狙っていた獲物は猪のような見た目をしていた。ただし、地球の猪の2倍くらいの大きさがあった。

私たちと猪との距離が魔法を届かせられる5mくらいの距離になった。

私と玲奈を事前に打ち合わせていた通り、火炎放射のような大きな火を猪に向けて放つ。


「グモーー!!」


そう鳴き声上げて落とし穴に落ちなかった猪は逃げ出して行った。

火が苦手なのは地球と同じらしい。

こちらに反抗して向かって来なくてよかった。


「ひとまず、火事にならないように草に燃え移った火を消しましょうか。落ちた猪を仕留めるのは後にしましょう」

「あの深さなら大丈夫だとは思うけど、逃げられないように早くしなきゃ」


火を放った辺りに水を撒いて消火した後、落とし穴を確認した。

確認してみると、二つの落とし穴に猪がかかっていた。


「うまく行ったわね。玲奈はとりあえずそっちの穴を、厚い土の板を作って穴に被せておいて。仕留めるのは私がやるわ」

「分かったけど…お姉ちゃん無理してるわけじゃないんだよね…?」

私が命を奪う行為をすることを心配してくれているようだ。


「大丈夫よ。これも生きるためと割り切っているわ」

「…お姉ちゃん、こっちの1頭は私がやる」

「玲奈こそ、無理してない?」

「うん、大丈夫。今日、全部お姉ちゃんに任せても、これからいつかは私もやることになるんだもん。それなら最初からちゃんとやる」

「そう、分かったわ。まずは私からやるから、そっちの穴を板で覆うのはお願いね」


玲奈がもう一方の穴に土の板を被せ終わり、こちらに歩いてくる。

「じゃあ、やるわね」

玲奈がこちらの穴の近くに来てすぐに魔法を使った。

ここで私が迷っていたら、玲奈の決意が鈍ってしまう。

玲奈を私のせいで不安になどさせない。

まずは、猪の脚を土で押し固めて拘束する。

猪が大きな動きをできなくなったところで、頭を十分に覆えるだけを水を出す。

出した水を猪の頭に移動させる。


「ガボボっ!ガボ!」

猪はしばらく苦しそうに暴れていたが、やがて大人しくなった。

念のため、動かなくなった後も1分ほどは頭を水で覆ったままにした。

もう大丈夫そうだ。

初めて生き物の命を奪った実感は、少しの喪失感だった。


「玲奈、私は終わったけれど、出来る?」

「…うん。…でもお姉ちゃん、手だけ、繋いでてもいい?」

「ええ、それで玲奈が頑張れるなら」


玲奈の手を取ると、少し震えていた。

狩りの前は元気だったが、やはり、いざ生き物の命を奪うことになると抵抗があるようだ。

玲奈は目を瞑ったまま黙った。

しばらくすると、震えが少し収まってくる。


「よし」

そう声をだして、私がしたように猪の脚を拘束し、頭を水で覆う。

しばらくして、猪が動なくなる。

玲奈が水を消すと、腰が抜けたのか座り込んでしまった。


「玲奈、頑張ったわね。偉いわ」

腰を下ろして玲奈を抱き寄せ、頭を撫でる。

「お姉ちゃん、私、次からはもっと迷わないように頑張る。だから、今はもう少しこのまま…」

「ええ、これからも、二人で一緒に、頑張りましょう」

玲奈の身体はまだ少し震えていた。

震えが止まるまで、私は玲奈を抱きしめ続けた。


この日、こうして私たちは地球にいた頃も含めて、初めて生き物の命を奪う経験をしたのだった。




お読みいただきありがとうございます。

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