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【7:御堂君のために色々と買ってきました】

***


「お待たせしてごめんなさい。御堂君の好みを訊くのを忘れたから、色々と買ってきました」

「あ、ああ。お、お帰り」


 堅田はコンビニの袋を俺に見せた。そして袋から何種類かのドリンクを取り出す。

 手を動かすたびに揺れる大きな双丘に思わず目を奪われ、慌てて視線を逸らしてローテーブルにずらっと並べられたドリンクを見る。


 缶コーヒーやペットボトルのお茶に交じって、精力増強ドリンクがあるのはなぜだ?

 これからこの部屋で起ころうとしていることは、いったいなんぞや?


 いや、そんなことより堅田の格好だ。


 荒い息は幾分落ち着いてきたものの。

 熱いのか胸元のボタンを開けてるし、汗でブラは透けてるし、巨乳が気になって仕方がない。


 どうやらコンビニから走って帰って来たんだろう。

 10月で涼しくなってきたとはいうものの、さすがに走ると暑いもんな。


「走ってきたの?」

「はい。『走れエロス』です」

「……は?」

「あわわ、すすす、すみません! 堅田かただ 美玖みく渾身のギャグです!」


 コレが真面目少女が誇る渾身のギャグか。

 さすが文学少女。

 ただし壊滅的につまらん……


「あ、いえ。御堂みどう君をお待たせするのが申し訳なくて」

「そんなの気にしなくていいのに」

「それに……姉が御堂君になにか変なこと言ってないかと心配になりまして」


 うん、かなり変なことを言ってきた。

 だけどお姉さんからは、話をしたことを美玖には言うなって釘を刺されたし、言うわけにはいかない。


「いや、大丈夫だよ」

「そうですか。良かった。あ、どうぞ。どれでもお好きなのを飲んでください」

「あ、ありがと」


 俺はお茶のボトルを手にして蓋を開ける。

 精力増強ドリンクはさすがに手を出したくない。


 堅田はホッとした顔で、スポーツドリンクを取って飲み始めた。

 二人とも飲み物を口にして、少し和らぐ。


「ねえ、御堂君……」

「ん?」

「あそこに、座りませんか?」


 そう言えば堅田が帰って来てから二人とも立ちっぱなしだった。

 堅田の指先が示す先は──ベッドだった。


「え?」

「あ、早速なんですけど。恋人ごっこの開幕です」


 ベッドから堅田の顔に視線を戻す。

 火照ほてって汗ばんだ顔。

 少し荒い息。

 ぺろりと唇を舐める舌。


「かい……まく?」

「はい。素敵なごっこ遊びにしましょう」


 なんか……ちょっとエッチな言い回し。

 そしてまるで発情したような表情。


 黒髪をぴっちりまとめ、眼鏡という超真面目スタイルと、煽情的な雰囲気が超絶ギャップを生み出して、そこらのエッチな動画よりもよっぽどエロい。


 いや、今まで動画や漫画など二次元のエロしか見たことのない俺にとっては、立体的な女の子(しかも手の届く距離)がこんな雰囲気になってるなんて、頭がおかしくなりそうなくらい神経を刺激している。


 俺は堅田の妖艶な雰囲気に気圧けおされて、思わず素直にベッドの端に腰を下ろした。

 それに合わせて、すぐ隣に堅田も座る。


 甘い香りが漂ってきた。

 女の子って不思議だ。

 汗を掻いているのに、汗臭いどころかこんなにいい香りがするなんて。


 この香りはヤバい。

 脳がバカになるヤツだ。


「ねえ御堂君。恋人同士が女の子の部屋で二人っきりになったら、何をすると思います?」

「え……?」


 堅田は甘く囁くような声で、返答に困ることを訊いてきた。

 彼女が書いた小説のエッチな描写が頭に浮かんだ。


 頭がくらくらする。

 そしてその直後にスタンガンを手にした愛洲あいすさんの姿が頭に浮かぶ。

 いかん。やっべ。このままじゃ俺の身の危険が迫る。


 俺は全力で脳の中の不純な妄想を振り払う。


「なにって……じゃんけん?」

「違います」

「じゃあ将棋かな?」

「違います」

「うーんと……わかった、ゲームだ」

「うむむ……それはあり得るし、私も嫌いじゃありません」


 よしっ、危機回避成功!

 心の中でガッツポーズ。


「でもそれは……めちゃくちゃ心惹かれますが、またあとにしましょ?」


 堅田はお尻を横にずらして、俺にくっつくくらい近づいた。

 そして覗き込むように俺の目を見つめる。


「さすがです御堂君」

「は? なにが?」

らしプレイなのですね」


 ──いや、違うしっ!


 ツッコもうと思ったけど、堅田の口から出たワードがエッチすぎて言葉が出なかった。


「いきなりそんな高度なことされたら、私……」


 あ、やば。堅田は情けなく眉を八の字にして、泣きそうな顔してる。

 拒否するようなことを言われて悲しんでいるんだ。

 申し訳ないことをしてしまった……


「そんなに意地悪されてらされたら、興奮してきちゃいました。んもう……御堂君ったらテクニシャンなんだから」


 違った。

 やっぱ堅田って変態なのかも。

 意地悪されて焦らされて興奮って、まさか堅田ってМ気質なのか?


「いや、誰がテクニシャンだ? んなわけないだろっ! アハハ」


 この淫靡いんびな雰囲気を壊すために、わざと明るくツッコんでみた。

 これで堅田も我に返るだろ。


「恋人同士ならせっかくの二人きりなんですから、イチャイチャすると思いませんか?」


 いや、メンタル強めかよ。

 俺のツッコミは軽くスルーして、今までの雰囲気を保っている。

 マジで堅田って、単に妄想してるだけじゃなくてホントにエッチだとか?


「そんなシチュエーションでの気持ちを学びたいって私思ってます」


 堅田は突然両腕で、俺の右腕にキュッとしがみついてきた。

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