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【4:まったく実感がなくて悩んでるのです】

 よくよく聞くと、堅田は決して俺とエッチをしたいと言ってるわけではなかった。

 つまり「恋愛を書くにもエッチな描写を書くにも、自分には経験がなくて他の文章をマネするしかない。その時の感情とかまったく実感がなくて悩んでる」のだそうだ。


 手をつないだりイチャイチャしたりエッチなことをしたら、どんな気持ちになるのか想像できない。

 だから俺に、どんな気持ちになるのか教えてほしいと言う。


「あのさ、堅田かただ……」

「はい?」


 キラキラした期待値マックスの目で俺を見つめるのはやめてくれ。


「それはできない。なぜなら俺は女子と付き合った経験もないし、ましてやエッチなことをした経験なんて皆無だからだ」

「ウソ……?」

「ウソじゃない。さっきもそう言っただろ?」

「でもあれは謙遜だと」

「あれは謙遜じゃない。事実だ」


 なぜこんなに悲しい事実を、力強く女子に力説しなきゃならんのか。わびしさが身体を吹き抜ける。


「だから俺は、堅田の力になってやることはできない」


 堅田さんよ。そんなに悲しい顔をするな。

 俺だって自分自身のことが悲しいんだよ。


「あ、御堂君。いいことを思いつきました」

「なに?」

「私と御堂君が手を繋いだり、キスしたり、エッチなことをしたらいいんですよ」

「は?」

「そして御堂君がその時の気持ちを教えてくれたら、男女両方の感情を学ぶことができます!」


 堅田は片手のグーをもう片方の手のひらにポンと打ちつけた。

 グッドアイデア感を出しているが、自分がとんでもないことを言ってることに気づいているのか?


「いや、堅田よ。そういうことって、恋人同士じゃないとしないことだろ」


 俺はそんな理性的な言葉を堅田にかけた。

 だから大きなおっぱいを、ついチラッと見てしまったことは許してくれ。


 俺だって女の子にこんなことを言われたらぐらっと来るんだよ。

 しかも堅田はおっぱいも大きいし、実はすごく可愛いのだと知った。


 だけど真面目すぎる少女が妄想暴走してるのをいいことに、安易にYESと答えるのは何か少し違う気がした。

 結果的に彼女を傷つけることになりはしないかと心配なんだ。


「なるほど……」


 堅田は何か考え込んでいる。


 それにもう一つ、この話を受けていいのか迷うことがある。

 それは俺には憧れの女子がいるという事実。


 同じクラスの明るく天真爛漫な美少女、品川しながわ 咲羽さきはさん。

 『好き』の一歩手前で『憧れ』ではあるけれど。


 実は品川さんには最近付き合い始めた彼氏がいる。

 だから本気で好きになる前にブレーキがかかって、憧れという段階で押しとどまっている状態だ。


 それでもそんな子がいるのに、ほいほいとエロいお誘いに乗っていいのだろうかとちょっと戸惑っている。


 真面目な恋に憧れる俺と、とにかくエッチなことがしたいという俺が、心の中で同居している。

 そんな俺の葛藤を打ち破るように、真顔の堅田が口を開く。


「でも……」


 堅田はすがるような目を俺に向けた。


「だったら……」


 顔を真っ赤にしながら、一生懸命訴えるように。


「お試しで……私と『恋人ごっこ』をしてもらえませんか?」


 堅田の目は、極めて真剣そのものだった。

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