【24:堅田さん、めっちゃかわゆいっっ!!】
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それから何日か経ったある日のこと。
国語の教師が風邪で休んで、急きょ自習になった。
課題のプリントが配られたものの量も少なく、やり終えたヤツらから順番に自由に動き回り始めた。
雑談するグループがいくつかできて、教室内はざわざわしてる。
俺はと言えばまだ課題が終わらず、机に張り付いている。
そのうちふざけて追いかけっこする男子グループまで出始めた。また切山だ。小学生かよ。
ようやく自分のプリントを終えて顔を上げたら、まだ切山は他の男子とふざけ合ってた。
他の男子に追いかけられて切山が逃げる。
──あ。
切山が何かにつまずいて、こけかける。
おっとっとと、片足で進む先には堅田が座る席。
「うわわ、どいてどいて!」
切山の声に驚いて振り向く堅田。
危ない、ぶつかる!
俺は思わず立ち上がったが間に合わず、切山は堅田の方に倒れ込んだ。
堅田は寸前で立ち上がって反対側に逃げたけど、足が絡まって膝から崩れてしまった。
「大丈夫か!?」
俺は思わず叫んだ。
切山はすぐに立ち上がり、床にうずくまる堅田に声をかける。
「ごめん堅田さん! 大丈夫?」
「はい、どこもぶつけてないから大丈夫です」
堅田も立ち上がり、制服の袖や裾の埃を手で払ってる。
すんでのところで避けて、切山と堅田はぶつかっていないようだ。倒れた時にもどこか打った様子もなく、怪我がなくてホッとした。
固唾を飲んで見守っていたクラスのみんなも、ホッとして空気が和らいだ。
「あれれっ? 堅田……さん? めっちゃかわゆいっっ!!」
切山の素っ頓狂な声に、みんなが堅田の顔に注目する。
「ふわぁっ……メガネが……」
堅田の顔にはいつものメガネがなく、素顔が晒されている。倒れた拍子にメガネが飛んでいったんだ。
彼女は慌てて周りをキョロキョロ見回すけど見当たらない。
俺が姿勢を低くして床を見回すと、少し離れた所に堅田のメガネを見つけた。すぐに取りに行く。
「うわ、ホントだ! 可愛いっ!」
「マジかよ? 堅田超絶美少女じゃん!」
クラス中の男子が大声を上げながら、わらわらと堅田に寄って行く。
だけどメガネを拾うのが先だ。
俺は堅田に殺到する男子たちの波をかき分けて、メガネのところに進む。
「ふわわわぁぁぁぁ、やめてください! 恥ずかしいから見ないでくださぁい」
堅田はかわいそうに、両手で顔を隠してぷるぷる震えてる。
「いや、最初に発見したのは俺だ! みんな寄ってくるな!」
堅田の前で両手を広げて、みんなが近づくのを阻止しようとしてる。
まるで珍獣見つけたみたいに言うなよ切山!
早くメガネを取って堅田を助けなきゃ!
「うっせえわ! 堅田は切山のものじゃないだろ!」
「そうだそうだ、引っ込め切山!」
「俺にも堅田さんの顔を拝ませてくれえっ!」
教室内が騒然として、もう誰が何を言ってるのかよくわからない。
それをいいことに、みんなに紛れてとんでもないことを言ってる男子もいる。
「堅田さぁぁん、俺と付き合ってぇ!」
「巨乳の上にそんなに可愛いなんて、もうサイコー!」
お前らいい加減にしろよ!
よし、メガネを拾い上げた!!
「堅田っ! メガネあったぞ!」
俺がメガネを手に叫ぶと、人ごみの中から堅田の声が響いた。
「いやあぁぁぁん、どいてくださぁい!」
堅田の周りに集まった男子達が、なぜかモーゼの海割のようにばぁっと左右に開けた。
なんだ? なにが起きた?
その人だかりの間を、両手を激しくぐるぐる回しながら堅田がこちらに向かって突進してくる。
男子達はその勢いに負けて道を開けたようだ。
よし、いいぞ堅田。
彼女は俺の所までくると、安心したように俺の顔を見上げた。
「ほらメガネ」
「あ、ありがとう御堂君」
これでひと安心……と思いきや、大勢の男子がこっちに向かってドドドと走ってくる。
「いやぁぁぁん!」
それに気づいた堅田が、俺の背後に隠れた。
俺は両手を横に広げて堅田を守る。
俺の目の前まで来た男子達が、みんなで俺を睨みつける。スケベな顔した切山が低い声ですごんできた。
「どけよ御堂」
「イヤだ。堅田は嫌がってるじゃないか。諦めろ切山」
「堅田さんの顔をじっくり見るだけだよ」
「ダメだ。見せない」
「ごらぁ、御堂、お前なんの権利があってそんなこと言うんだよ!? お前堅田のジャーマネかよっ?」
なんでここでいきなり、業界人みたいに言うのかよくわからんが。
「違うけどだめだ。堅田が嫌がってる。それが唯一無二の理由だ」
「ああん、御堂君ありがとう……」
俺の背中にしがみついて礼を言う堅田に目をやると、うっとりした目で俺を見つめていた。




