【23:男子達がエッチな話してただけだから】
まさかあの天真爛漫な品川さんが、こんな顔をするなんて……
その時女子更衣室から誰かが出てきた。
堅田だ……マズい。
俺と品川さんが近距離でいるのに気づいて、立ち止まって怪訝そうに見てる。
「あ、美玖ちゃん。気にしなくていいよー」
「いえ私、別に気にしてなんか……」
突然品川に声をかけられた堅田が、キョドって両手を横に振ってる。
「男子達がエッチな話してただけだから」
し、品川さん!
おっきな声で何を言い出すんだよ!?
「えっ……えっちな話ですかっ!?」
堅田が顔を真っ赤にしてあわあわしてる。
そして訝しげに俺を見た。
俺じゃない!
誰か助けてくれ!
御堂は無罪だと、誰か証言してくれ!
周りを見回すと、他の男子達は素知らぬ顔で通り過ぎていく。お前ら冷酷かよ!
「じゃあ行こっか美玖ちゃん」
「え? あの……」
品川さんは堅田の腕を取って、引きずるようにして行ってしまった。
取り残された俺。
周りを見ると、残ってる男子がニヤニヤ見てる。
「スケベ話してたのは俺じゃなくて切山だって、誰か言ってくれよー お前らわかってたよな?」
「火中の栗を拾うヤツなんて誰もいないって」
「うぐぐ……」
「それにしても堅田さんって、やっぱすっげぇ純情だな。御堂、お前。絶対堅田さんに変態って思われたぞ」
いや、変態は俺よりむしろ堅田の方だ。
だけどそんなことは口が裂けても言えない。
「それに品川さんだって、エッチなことが大嫌いな潔癖女子だからなぁ。御堂。お前の人生終わたな」
お前ら、そんなに楽しそうに言うな。
間違いなく俺は品川さんから嫌われてる。
そうじゃなきゃ、俺だけに向けられる冷たい視線の説明がつかない。
昨日もきっと、俺と堅田が手を握ってたのを見ていたに違いない。
そしてさっき、堅田のおっぱいがでかいなんてことを大声で言ったのが俺だと誤解したなら……
そりゃもう、俺が堅田に熱を上げるエロ男子だって思われても仕方ない。
だからだろう。
品川さんが普段絡みの少ない堅田にわざわざ俺の話をして、腕を組んで堅田を連れ去ったのは。
きっと後で『御堂君には気をつけなよー』とか注意を促してるに違いない。
堅田は事情を説明したらわかってくれるだろう。
いやそれどころか、『やっぱり御堂君は私のおっぱいが気なるのですね』なんて、いつものギャグで返してくれる気がする。
堅田。つまらんギャグだなんて思って悪かった!
今の打ちひしがれた俺には、そのギャグは癒しに満ちたものに思える。
だけど品川さんの誤解を解くのは至難の業だ。
このまま彼女の中で、俺は最低のエロ男子として、記憶に残り続けるのだろう。
『元』とは言え、俺が憧れる品川さんに、そう思われるなんて……
悲しくて悲しくて、深い海の底に沈んでしまったかのような気分だ。
だけど一つだけ違和感が残る。
それは品川さんが俺だけに見せた、ゾクリとするような微笑。
あんな顔の品川さんは見たことがない。
彼女はそれくらい、俺を蔑みの感情で見てるってこと……だよな。
ヤバ。
悲しみがさらに増してしまったぞ。
***
今日は火曜日で部活がない日だった。
でも堅田には、早めに誤解を解いておきたい。ちゃんと口頭で説明しておきたい。
だから俺は帰宅してからすぐに、堅田にメッセージを送った。
『今電話してもいいかな?』
すぐに既読がついて、『はい』とメッセージが届く。俺は電話をかけた。
『御堂君の方から電話をくれるなんて初めてですね』
「あ、そうだな」
『どうしました? 御堂君も全裸で電話したくなりましたか?』
「んなわけないだろっ!」
ツッコミしながらも、いつもと変わらない堅田の態度にホッとする。
そう。いつもと変わらない変態っぷりだ。あはは。
俺は今日の品川さんの発言について、事実を説明した。
『なるほど、そうだったのですね』
「ああ。だから俺が堅田のきょにゅ……いや、胸のことを言ったわけじゃない」
『いいですよ。御堂君は特別な存在ですから。私のおっぱいに興味を持ってくれて嬉しいです。揉ませろって命令してくれたら、いつでもこの胸を差し出します』
「命令?」
『はい。ご主人様の命令は絶対ですから』
「ご、ご主人様?」
『あ、いえ。いつものギャグですよ』
堅田のギャグ、段々エスカレートしてないか?
もはやギャグじゃなくて本気なんじゃないかってくらい、迫真の口調だ。
もちろんそんなことはないんだろうけど。
でもまあ予想通りと言うか。
堅田は品川さんの言うことより俺の言葉を信じてくれて、ギャグにしてくれた。
やっぱ堅田って可愛い、いいヤツだな。
俺は心の底からそう思った。




