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19/43

【19:これ、ヤバいです。気持ちよすぎ】

 うわ、宣戦布告された。

 でもやられてばっかじゃ男がすたるな。

 やられたらやり返す。

 十倍返しだ!


 今度は俺が指先で堅田の手のひらをさわさわとくすぐる。


「ひゃんっ!」


 色っぽい嬌声きょうせいを上げて、堅田が身をブルっと震わせた。


 十倍返しなんだからまだまだやってやる。

 俺の十連コンボをくらえっ!

 指先でこちょこちょ、さわさわ。


「ひゃうっ!」

「あぁん!」

「ふわん!」

「いやん!」

「ふぎゃっ!」

「もうやめて!」

「ほぇん!」

「いや、やめないで!」

「ぷぎゃ!」

「どひぇ!」


 十連コンボ、コンプしたぞ!

 堅田は顔を真っ赤にして、ぜいぜいと肩で息をしてる。

 

「どうだ! 参ったか?」


 堅田の瞳が眼鏡の奥で潤んでる。泣きそうになってるのか?

 やば。ちょっとやり過ぎたかも?


「御堂君……これ、ヤバいです。気持ちよすぎ……」


 とろんとした目。荒い吐息。

 堅田が興奮してるのが手に取るようにわかる。

 それを見て俺もエロい気分が盛り上がってくる。


 でもそこで、堅田の髪飾りがふと目に入った。

 白百合の髪飾り。

 もしもこれが愛洲あいすさんが仕掛けた盗聴器なのだとしたらヤバい。

 さっきの堅田のセリフなんて、エッチなことをしてるようにしか聞こえない。


 すっかり忘れていた。

 念には念を入れて気をつけなきゃダメだ。


「堅田……声を出すな。周りの人に聞こえたらヤバい」


 彼女の耳元に口を近づけて、小声で囁く。

 遠回りしてるから同じ高校の生徒はいないが、それでも見知らぬ人が行き交ってる。

 それにかこつけて、お姉さんへの情報漏洩を防ぐ狙いだ。


 そして堅田の唇に人差し指をそっと当てた。

 堅田はコクコクとうなずく。

 この仕草、可愛いな。


 そして今度は堅田が俺の耳元に唇を近づけた。


「わかりました。縛りプレイですね。さすが御堂君です」


 縛りプレイじゃないっ!

 しかも『さすが御堂君』って、俺の評価はどうなってんだよ!?


 盛大にツッコミたいポイントだらけだけど、声が聞こえるとまずいから「うん」とうなずいといた。


「それでは試合再開しようか」

「はい、望むところです」


 よしよし。

 この会話なら、例えお姉さんに聞かれてたとしても問題ない。


 俺は堅田からの逆襲に構える。

 またさわさわをやり返してくるに違いない。

 でももう心構えがあるから大丈夫だ。

 来るなら来い!


 堅田の指が俺の手のひらに触れた。


「ふぐぅっ……」


 うわっ、なんだこれ?

 めくるめく快感。

 構えてたはずなのに、思わず声が漏れた。

 愛洲さんに聞こえると困るから、慌てて息を飲みこんだ。


 さっきのは指一本の攻撃だったが、今度は五本の指先全部を使って、筆先で撫でるようにさわさわしてくる。

 手のひら全体に広がる快感に身体中が痺れる。


 ヤバい。ヤバすぎる。

 身体中がアホになる。


 くそっ、反撃だ!

 俺も五本の指を全部使って、堅田の手のひら全体を羽毛のような柔らかさで撫でる。

 さわさわ。さわさわ。


「ふうぅっっ……」


 堅田は俺の反撃に気持ちよさそうに熱い吐息を吐いたが、すぐにもう一方の手で自らの口を押える。

 指の間から「ふぅふぅ」と漏れ聞こえる吐息がなまめかしい。


 顔を真っ赤にして快感に耐える堅田。

 なんだこれ。エロ過ぎる……


 でもこれくらいで許す俺じゃない。

 俺の攻撃力を見せてやる。

 さらなる攻撃を仕掛ける。


 今度は指で手のひらを撫でるのではなく、指と指をからめる。

 そしてお互いの指の間を、指で撫でるようにすりすりと絡ませる。

 指の付け根が特に敏感で、攻撃力もすさまじい。


「あふっ……」


 耐え切れずに声のトーンが上がる堅田。

 でもこれは……攻撃力が凄まじい代わりに、俺自身の気持ちよさも半端ない。


 まさに諸刃の剣。

 敵を攻撃すると同時に、自らも傷つけ……いや、気持ちよくさせてしまう禁断の武器だ。


 いかん。このままでは俺自身の脳が崩壊し、身体から力が抜けて崩落してしまう。

 それを避けるには──


 俺は絡めた指をそのままに、手をきゅっと握った。

 それに応えるように、堅田の手もきゅっと握り返した。

 いわゆる恋人繋ぎの形。

 お互いに心地よい強さで手を握り合う。


 横に並んで歩く堅田を見た。

 目がとろんとして、だらしなくほうけた顔。

 ものすごく幸せに包まれた表情に見える。


 俺もこよなく幸せな感情に包まれた。

 きっと堅田の目に映る俺の顔も、幸せにほうけているんだろう。


御堂みどう君……」

堅田かただ……」

「恋人繋ぎって……こんなに幸せな気分になるのですね」

「あ、ああ。そうだな」


 この会話なら、お姉さんに聞かれても……大丈夫だよな?

 幸せに惚けた脳みそではあるけれど、そこだけは気を抜いてはいけない。



「世の恋人たちが手を繋いで歩いているのをよく見かけますが、皆さんこんな気分に浸っているのですね」


 いや、たぶん違うぞ。

 みんながこんな『さわさわプレイ』をしてるわけじゃないし。


「勉強になります。執筆に活かせます」


 またいつものようにメモを取るのかと思ったけど、堅田はそうせずに手を握ったままだった。


「メモは?」

「いいえ。こんなに幸せな気分を壊すのはもったいなすぎます。メモは後でします」

「そ、そうだな。それがいいと思う」


 俺だって。

 こんな幸せな気分をもう少し味わっていたい。

 だから手を離したくない。

 そう思った。



 俺と堅田はしばらく無言で手を握り合ったまま歩いた。

 やがて駅が近づき、下校路と合流する地点に差し掛かる手前で立ち止まる。

 握っていた手をそこで離すことにした。


 とても心残りな気分だ。

 それは堅田も同じだったようで、二人向かい合って立ち止まったまま、しばらくお互いに手を離せないでいた。


 しかしいつまでもこうしてはいられない。


「また手を繋いでもらえますか?」

「ああ、もちろんいいよ」


 俺の返答を聞いて、ようやく安心したように堅田は手を離した。

 俺を見上げる堅田の顔が、なんとも言えず可愛い。


「それだけじゃなくて、もっと先まで。例えばキ……」


 ヤバっ。キスはお姉さんに聞かれたら誤解を招くNGワードだ。


「堅田。恋人の階段は一歩ずつ昇ろうな」

「は……はい」


 素直に応じてくれてよかった。

 さあ、駅に向かって歩こうか。

 そう思って堅田の頭越しに前を見た。


 俺たちが歩いてきた道は、すぐ先で普段の下校路と合流する。

 その合流地点で、一人の女子高生が立ち止まって、こちらをジッと見つめていることに気づいた。


 うわ、やべぇ!

 堅田と二人で見つめ合ってるところを見られた!

 もしかしたら、さっきまで手を繋いでるとこまで見られたかも……


 それは──俺の憧れの人、品川しながわ 咲羽さきはさんだった。

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