【19:これ、ヤバいです。気持ちよすぎ】
うわ、宣戦布告された。
でもやられてばっかじゃ男が廃るな。
やられたらやり返す。
十倍返しだ!
今度は俺が指先で堅田の手のひらをさわさわとくすぐる。
「ひゃんっ!」
色っぽい嬌声を上げて、堅田が身をブルっと震わせた。
十倍返しなんだからまだまだやってやる。
俺の十連コンボをくらえっ!
指先でこちょこちょ、さわさわ。
「ひゃうっ!」
「あぁん!」
「ふわん!」
「いやん!」
「ふぎゃっ!」
「もうやめて!」
「ほぇん!」
「いや、やめないで!」
「ぷぎゃ!」
「どひぇ!」
十連コンボ、コンプしたぞ!
堅田は顔を真っ赤にして、ぜいぜいと肩で息をしてる。
「どうだ! 参ったか?」
堅田の瞳が眼鏡の奥で潤んでる。泣きそうになってるのか?
やば。ちょっとやり過ぎたかも?
「御堂君……これ、ヤバいです。気持ちよすぎ……」
とろんとした目。荒い吐息。
堅田が興奮してるのが手に取るようにわかる。
それを見て俺もエロい気分が盛り上がってくる。
でもそこで、堅田の髪飾りがふと目に入った。
白百合の髪飾り。
もしもこれが愛洲さんが仕掛けた盗聴器なのだとしたらヤバい。
さっきの堅田のセリフなんて、エッチなことをしてるようにしか聞こえない。
すっかり忘れていた。
念には念を入れて気をつけなきゃダメだ。
「堅田……声を出すな。周りの人に聞こえたらヤバい」
彼女の耳元に口を近づけて、小声で囁く。
遠回りしてるから同じ高校の生徒はいないが、それでも見知らぬ人が行き交ってる。
それにかこつけて、お姉さんへの情報漏洩を防ぐ狙いだ。
そして堅田の唇に人差し指をそっと当てた。
堅田はコクコクとうなずく。
この仕草、可愛いな。
そして今度は堅田が俺の耳元に唇を近づけた。
「わかりました。縛りプレイですね。さすが御堂君です」
縛りプレイじゃないっ!
しかも『さすが御堂君』って、俺の評価はどうなってんだよ!?
盛大にツッコミたいポイントだらけだけど、声が聞こえるとまずいから「うん」とうなずいといた。
「それでは試合再開しようか」
「はい、望むところです」
よしよし。
この会話なら、例えお姉さんに聞かれてたとしても問題ない。
俺は堅田からの逆襲に構える。
またさわさわをやり返してくるに違いない。
でももう心構えがあるから大丈夫だ。
来るなら来い!
堅田の指が俺の手のひらに触れた。
「ふぐぅっ……」
うわっ、なんだこれ?
めくるめく快感。
構えてたはずなのに、思わず声が漏れた。
愛洲さんに聞こえると困るから、慌てて息を飲みこんだ。
さっきのは指一本の攻撃だったが、今度は五本の指先全部を使って、筆先で撫でるようにさわさわしてくる。
手のひら全体に広がる快感に身体中が痺れる。
ヤバい。ヤバすぎる。
身体中がアホになる。
くそっ、反撃だ!
俺も五本の指を全部使って、堅田の手のひら全体を羽毛のような柔らかさで撫でる。
さわさわ。さわさわ。
「ふうぅっっ……」
堅田は俺の反撃に気持ちよさそうに熱い吐息を吐いたが、すぐにもう一方の手で自らの口を押える。
指の間から「ふぅふぅ」と漏れ聞こえる吐息が艶めかしい。
顔を真っ赤にして快感に耐える堅田。
なんだこれ。エロ過ぎる……
でもこれくらいで許す俺じゃない。
俺の攻撃力を見せてやる。
さらなる攻撃を仕掛ける。
今度は指で手のひらを撫でるのではなく、指と指をからめる。
そしてお互いの指の間を、指で撫でるようにすりすりと絡ませる。
指の付け根が特に敏感で、攻撃力もすさまじい。
「あふっ……」
耐え切れずに声のトーンが上がる堅田。
でもこれは……攻撃力が凄まじい代わりに、俺自身の気持ちよさも半端ない。
まさに諸刃の剣。
敵を攻撃すると同時に、自らも傷つけ……いや、気持ちよくさせてしまう禁断の武器だ。
いかん。このままでは俺自身の脳が崩壊し、身体から力が抜けて崩落してしまう。
それを避けるには──
俺は絡めた指をそのままに、手をきゅっと握った。
それに応えるように、堅田の手もきゅっと握り返した。
いわゆる恋人繋ぎの形。
お互いに心地よい強さで手を握り合う。
横に並んで歩く堅田を見た。
目がとろんとして、だらしなく惚けた顔。
ものすごく幸せに包まれた表情に見える。
俺もこよなく幸せな感情に包まれた。
きっと堅田の目に映る俺の顔も、幸せに惚けているんだろう。
「御堂君……」
「堅田……」
「恋人繋ぎって……こんなに幸せな気分になるのですね」
「あ、ああ。そうだな」
この会話なら、お姉さんに聞かれても……大丈夫だよな?
幸せに惚けた脳みそではあるけれど、そこだけは気を抜いてはいけない。
「世の恋人たちが手を繋いで歩いているのをよく見かけますが、皆さんこんな気分に浸っているのですね」
いや、たぶん違うぞ。
みんながこんな『さわさわプレイ』をしてるわけじゃないし。
「勉強になります。執筆に活かせます」
またいつものようにメモを取るのかと思ったけど、堅田はそうせずに手を握ったままだった。
「メモは?」
「いいえ。こんなに幸せな気分を壊すのはもったいなすぎます。メモは後でします」
「そ、そうだな。それがいいと思う」
俺だって。
こんな幸せな気分をもう少し味わっていたい。
だから手を離したくない。
そう思った。
*
俺と堅田はしばらく無言で手を握り合ったまま歩いた。
やがて駅が近づき、下校路と合流する地点に差し掛かる手前で立ち止まる。
握っていた手をそこで離すことにした。
とても心残りな気分だ。
それは堅田も同じだったようで、二人向かい合って立ち止まったまま、しばらくお互いに手を離せないでいた。
しかしいつまでもこうしてはいられない。
「また手を繋いでもらえますか?」
「ああ、もちろんいいよ」
俺の返答を聞いて、ようやく安心したように堅田は手を離した。
俺を見上げる堅田の顔が、なんとも言えず可愛い。
「それだけじゃなくて、もっと先まで。例えばキ……」
ヤバっ。キスはお姉さんに聞かれたら誤解を招くNGワードだ。
「堅田。恋人の階段は一歩ずつ昇ろうな」
「は……はい」
素直に応じてくれてよかった。
さあ、駅に向かって歩こうか。
そう思って堅田の頭越しに前を見た。
俺たちが歩いてきた道は、すぐ先で普段の下校路と合流する。
その合流地点で、一人の女子高生が立ち止まって、こちらをジッと見つめていることに気づいた。
うわ、やべぇ!
堅田と二人で見つめ合ってるところを見られた!
もしかしたら、さっきまで手を繋いでるとこまで見られたかも……
それは──俺の憧れの人、品川 咲羽さんだった。




