表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

いばら姫の昼下がり

 ニャオン

 ニャア

 ウニャッ

 ミャー

 フシャー

 ナオン

 ナアーゴ



 七つの猫の眼が縦に光宿しそれぞれの色で煌めく。剣呑な鳴き声が上がる昼下がりの書庫。


「もう!お待ち下さい!虫様!」


 パタパタと音立て、スススと逃げる本の虫を、空色のドレスの裾を絡げ追いかけるローゼリア。 


始めるよ(ニャァァゴォ!)


 雄叫びが上がった!魔女のボールゲームが始まる。


ノーム(ニャァ)オーム(ナァゴ)ウオール(ミャー)いでよ!ボール(ニャオン!ミャッ)!』


 赤毛が唱えると、ポン!と宙に浮かぶは、磨かれつやつやと光る純白の髑髏(しゃれこうべ)


「ええ!し、しゃれこうべですの?」


 それを目にしたローゼリアは当たり前だが心底驚き、そちらに気を取られた。


 ニャァァァ!橙色がジャンプし、浮き上がるボール(しゃれこうべ)にバチン!強烈な猫パンチを喰らわす!クルクルクルクル!回転し床に落ち、ゴロゴロガロガロ、不規則な動きで転がるボール(しゃれこうべ)! 


 赤、黄色い、緑、青い、藍、紫が塊となり、ドトドド!走る走る!橙がシュタッと華麗に着地を決めると後を追う!


 フシャァァ!猫団子から、五番目がひとつ頭抜け、弧を描いて飛び上がり、前足を振り上げ反り上がると、勢いをつけ降りざまに右フックを決める!


 ガコン!ガララララ!高速回転でボール(しゃれこうべ)が転がる転がる!ソレを追いかける猫団子!


「きゃっ!危のうございましてよ!ああ!わたくしの虫様!潰されてしまいますわ!」


 ドトドド!ローゼリアの裾をふわりと揺らす猫風!七色の毛がフアフアと舞う。縦横無尽にボール(しゃれこうべ)を追う猫団子!床の上でオロオロとするローゼリアの本の虫。


「避けて下さいまし!虫様!」


 ミャァァァ!四番目が止まったところに、シュタッ!伸びをし前足を揃えて伸ばし捕まえようとする。カッ!跳ね上がるボール(しゃれこうべ)!コン!落ちる。コココン、跳び進む先にぷるるんっ震える、琥珀色の本の虫の姿がローゼリアの目に飛び込んて来た。


 ……、潰されたら可哀想ですわ!


 慌てて駆け寄るローゼリア、足元をシュン!と追いかける猫団子の一団!踏みそうになりたたらを踏む。バランスが崩れる。きゃあと声が上がり、手を前について倒れた彼女。


 ペチョ。


「は?い?」


 嫌な予感がする。カッ!コココン!ドドドド!音が他所で聴こえるかの様なローゼリア。そろりと上げ、手のひらの確認をした彼女。そこには。


 丸く張り付く琥珀色の本の虫の姿が……、心なしかプルプルと震えている。


「ああ!む、虫様が!大丈夫ですの?」 


 その声にウニャ!と反応した七匹の猫。リリン!パチン。姿を変えた彼女達。


「おお!よくやったよ!」


「おお!もう捕まえた!」  


「おお!強運ここ迄とは」


「おお!これで読めるよ」


「おお!虫は生きてる!」


「おお!これは目出度い」


「おお!お祝いしよう!」




「そうしよう!ローズや、良かったね」


 一番目から七番目が声を揃えた。



「そうですの?これで捕まえた事になるのですの?」


 半信半疑な彼女に、魔法書を手渡す七番目。ローゼリアが手にすると、斑剥げの装丁が琥珀色へと変わる。目にしたソレに素直に驚く彼女。


「まあ!凄いのです!」


「これでローズも魔法が学べる。身の内の月の力を呼び出すんだよ。呪文は知っているね、やってご覧」


 赤の魔女にそう言われたローゼリアは、彼女達と過ごす様になり、日々聞いている言葉を真似てみる。最初に見た時を思い出す。頁を開き手のひらをかざす。


ノーム(私の)オーム(月よ)ウオール(光れ)!出て来なさい。わたくしの本の虫」


 ウズウズと手のひらがむず痒くなる。真ん中辺りがじわりと熱くなり、そこから絞り出す様に出てくるのがわかるローゼリア。周りでは祝杯を上げる準備に余念が無い。


 ポ……、トン。頁に落ちた。それだけで、どぉっと、疲れた彼女、同調しているのか数文字、うねうねと身をよじり書くと姿を消した琥珀色。


「あら、たったこれだけで終わりました」


 残念そうな彼女に、最初はそうだよ。と慰める魔女達。さあ!飲もう!宙に浮かぶ酒瓶と、グラスがカチリと陽気な音立て踊る。


 ――、♪魔女の見習い生まれたよ、乾杯乾杯

    コンコン音立て鳴らせや、しゃれこうべ

    骨の槌を握りしめ、コンと音立て門潜る

    しゃれこうべ、転がれ転がれ、カラカラと


    魔女の見習い出来上がり、乾杯乾杯♪


「しゃれこうべ……、そういえばお聞きしたいのです。ボールゲームはどれもこれも、ボールといえば」


 本を書棚に戻したあと、彼女は問い掛けた。


「当たり前だよ髑髏(しゃれこうべ)!」


「骨の槌とかありますが、まさかクロッケーも?」


「そうだよ!当たり前だよ骨の槌!」


 カチリカチリ、グラスを合わせる魔女達を見ていたローゼリア。ほら!ただの葡萄酒だから飲みなと手渡された。


「ああ!目出度いねぇ、少しづつ読めば大丈夫さ」


「そうそう、寝る前に読むのがいいねぇ」


「そうそう、そのまま夢の中へ行くんだよ」


「そうそう、ベッドの中なら独りきり」


「そうそう、恋人居ないローズはね」


「そうそう、なんだか眠くなってきた」


「そうそう、そろそろ昼寝の時間だよ」




「ローズや、我等は今からお昼寝するよ」


 七人がグラスを空にすると声を揃える。


「お昼寝?ええ、構いませんが」


 そう答えた事を、彼女は直後に深く後悔する事になろうとは、この時は少しも考えていなかった。


「ては!あの窓辺にしようか、ノーム(私の)オーム(月よ)ウオール(光れ)、お昼寝クッション、出てこい!」


 居心地が良さそうな丸い大きなフカフカとしたクッションが、陽当りの良い窓際にボワン!と出てきた。


 リリン!パチン!猫の姿に戻った彼女達。尻尾をピン!と立てテチテチ、テチテチ。順番に進むと、その上に飛び乗り、クルリと丸くなる。ウトウトと目を閉じ始める七匹。


「まあ!気持ちよさそう。あ!お昼寝って何時、お目が覚めますの?」


 ふと気が付いた事を慌てて聞くローゼリア。その問いかけに寝ぼけ声が返す。


『ウニャ……。人間の時間にしたら四、五年かね、ウニャウニャ……』


「ええ!そういえば魔女の一夜は千年。ああ!迂闊でしたわ。駄目でしてよ!ねぇ、お願いしますわ!直ぐに目を覚ましてくださいまし!」


 少しばかり遅かった。ニャムニャムと眠る七匹の猫は、既に夢の中の旅へと出立をしている。



 ……、どうしましょう。そんなに長い間、こんな所でお昼寝をしてましたら、きっと誰かに見つかると思いますの……、日に一度はお掃除係も来ますもの。とりあえずお父様にお願い申し上げて。そしてわたくしは、書物を読み、自分自身で何とかしなくちゃいけないのですわね。


 手のひらをじっと見つめるローゼリア。不安に思いつつ、眠る七匹の猫と交互に眺めた後、仕方がないわと諦め、戻した本を取りに書棚ヘ向かった。




 ――、ネズミ番のお役目を担う猫がこの時から、城の書庫に住まう様になった。彼等は日がある内は眠り、夜な夜な起き出し、書物をネズミが齧らぬ様に命じられた努めを果たしている。と、言われている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは楽しい。 [一言] ディズニーアニメを見ているかのような楽しさです♬ 曲をつけて歌いたい!
[一言] にゃーーーーー!!!!!(迫真)
[一言] 本の虫GET、おめでとうございます。 しかし、魔女猫さんたち、マイペースですね。 猫だから、しかたないか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ