いばら姫、魔女から謝罪をうける。
スイ……、スイ……、スイスイ、スイスイスイ。
赤い、橙、黄色い、緑、青い、藍 紫。
光が七つ、夜空を飛んでいる。
「あああ!なんてこったい!私達の娘が、呪われちまってるよ!」
一番目が箒にまたがり、地上を見ながらぼやいてる。
「今宵十三夜の月夜!十三になりし娘と重なる日」
二番目が魔女にとって神聖なる日だと言う。
「人間時間は速い!来て見ればとんでもない物がある!」
とんがり帽子のつばをヒョイと上げ、三番目が指差す先には、建築途中の石積みの塔。
「涙と怨念を集めてる!何故に!」
フルル……、四番目が、石組みからモヤモヤ立ち昇る気を感じて震える。それは城の城壁を乗り越え、街へ森へ、街道へ、村へ、国境の山へと、領土を広く薄らと覆っている。
「ヤミガラスに聞こう!ホー!ホーイホーイ!集まれヤミガラス!」
五番目が夜目が効く闇烏を呼ぶ。人間界の眷族である彼等がバササ!カァカァカァカァと、夜空に姿をあらわす。
「教えろ、何があった」
風にローブをなびかせ六番目が命じる。カー!カカカ!カァカァカーカー。これまでの事を伝える闇烏達。
「ふええー!ウワァァン!祝福が呪いに?違う!ちがぁあう!幸せになる贈り物なのにぃ……、変な物建てた王様のバカァァ!うえええん」
それを聞き泣き出し、夜空をぐるぐる回る七番目。
「ここはなんとかしなきゃいけない!城へ潜り込むよ!ついてきな!」
一番目が強くそう言うと、箒を操り城へと一直線!
赤い光がスイ、橙色、黄色い、青い、緑、藍、紫がスイスイスイと続く。向かった先は魔法と縁ある場所。
魔法書も蔵書として集められている、書庫へと向かう。
夜の夜中のそこは真っ暗。しかし夜目が効く魔女達には関係ない。早速、その場で占いが始まるのが魔女の定番。各々の杖を掲げて始まる。
「ノーム・オーム・ウォール!私達の目に、この先を見せろみせろ。王女がじゅうご すずめがさえずりとうのなか」
一番目。
「王女、われのつきみつける」
二番目。
「王女、ねことまなぶや しろのなか」
三番目。
「もくもくけむり くにつつむ」
四番目。
「くるくるあばれまわる どこもかも」
五番目。
「王女、そらとぶ ふうわふわ」
六番目。
「のびのびいばら はなをさかせて がらがらにじのあめふるふる」
七番目。
占が終わる。顔を見合わす七人。
「なんだ?意味が分からない、まとめるよ!人の噂で王女十五で塔に閉じ込められる」
一番目の言葉を継ぐ二番目。
「魔女の娘は魔女という事なのだろう」
二番目に三番目が同意する。
「そう、これ以上与える事はできない、つまりその教えろという事なのだろう」
三番目の言葉に続く四番目。
「民が狼煙を上げるのかしら、煙くてよく見えなかった」
四番目にそう私もと続く五番目。
「うーん。暴れるのが王女様の気がするんだけど、わかんない」
五番目に六番目が言う。
「取り敢えず、王女様は城を出ることになりそう」
六番目に七番目が首を傾げて話す。
「とっても綺麗な世界が見えたけど、わかんない」
で!どうする皆、と一番目。
「ヤミガラス達によると、王女様は呪いだと思われているし、私達の事も怒ってる!」
「ふえ……、でも占の通りこの先お城を出て暴れるなら、力がいる。私のせいだから……、先ずは謝る。謝って許して貰うから、姐様達、王女様に力を貸してください」
七番目が目をうるるとさせ頭を下げた。七番目!そんなの当然!と声を揃える。
「彼女は私達、七人の魔女の娘なり」
一番目から六番目が声を揃えて言い切った。
――、ここにしばらく住み着くと決めた魔女達。しかしそのままの姿では、あれやこれやややこしくなるのは必須。人間に見つかれば、何でもかんでも魔法で済まそうとするから。
そこで姿を変えた彼女達。学者と王女様以外、他の人間は滅多と来ない書庫を勝手に住まいとした。そうと知らずに朝になり、礼拝、食事を済ませたローゼリアが、空いた時間を過ごそうとやってきた。
「きゃっ!びっくりしましてよ。あら?何処から入り込んで来ましたの?」
本棚の前に立ち、どれにしようかと選んでいた時、ニャォン、と鳴きながらドレスの裾をカシカシとする、淡い紫の毛並みの仔猫の姿。
……、まあ、なんてかわいい。紫の毛並みに瞳は葡萄色。
しゃがみ込むローゼリア。あざとく見上げる七番目。接触すれば、縁ある彼女とは会話が出来る!人間のかわいいと思うツボを知り尽くしている魔女は、コロンとそこで寝転ぶ。
「あらあら、どうしたの?」
うにゃん。ゴロにゃんと白い腹を魅せる七番目。撫でて撫でてとオーラを放つ。
「まあ、お腹を撫でて欲しいの?」
うにゃん。と答える。ローゼリアは仕方ない子ねと、柔らかな絹糸に覆われた腹をソロリと撫でる。気持ち良さげにゴロゴロと喉を鳴らしてみせる。ここで慌ててはいけない。
抱っこを目標に更に甘える様な視線を送る。隠れている仲間が頑張れ!と念を送っているのを感じている。
「かわいい子ね。なんて柔らかいのでしょう、そしてとても暖かい」
もうひと押しにゃん。一度引く勝負に出る七番目。手から逃げる様に、ぱっと立ち上がるとお座りをする。しっぽをパタンパタン……。瞳を精一杯、うるうるとさせる。姿が仔猫である為、人を虜にするという大きな魔法を使うことができない。
「うふふ、かわいい。じゃまたね。そろそろ行かないと」
フギャ!しまった!と思った七番目は、首を傾げて、か細く鳴いてみた。
「ミィ……、」
儚げな仔猫の最終攻撃を、まともに食らったローゼリア。そこだ!押せ押せ!と六つの猫の目が、陰にチラリチラリ。
「ミイ……、」
尻尾をフリフリフリフリ……、パタン。上目使いで見上げる仔猫の七番目。琥珀色と葡萄色がキラキラと絡み合う。
「どうしたの?抱っこかしら、引っ掻かないでね」
ソロリと抱き上げ、胸に抱くローゼリア。ゴロゴロと喉を鳴らす七番目。ここ迄来たらこっちのもの。
「いいコ、いい子ね」
フアフアな頭を優しく撫でるローゼリア。
りりん!軽い鈴の音が彼女の頭の中に響く。ツン!と脳みそに糸が絡まり張り付く感覚。何!と辺りを伺う彼女。
『お願いがございます。王女様』
「あら?聞いたこともない声がしますわ!頭の中に流れてくる様な。一体、何処からかしら」
キョロキョロとするローゼリア。
『ここです!ここです!貴方様が抱く猫です!物凄く可愛らしい仔猫ちゃんです!』
「猫!貴方お喋りができるの?」
『はい!賢い仔猫ちゃんです!少しばかり魔法も使える、かわいいかわいい!仔猫ちゃんです!』
「魔法!本当なの?」
『こうしておはなし出来るのが証拠。そして貴方様も、恐らくお勉強すれば、多分魔法を使えるのです!その為には……、』
「恐らくやら、多分とは些か心許無いのですが、試してみたいですわ。その為には?それはどのような事を成せばの良いのでしょうか、教えてくださらない?かわいい仔猫ちゃん」
よし!かかった!ここ迄来た事に七番目は満足しつつ、最後の詰めに入る。
『私の言う事を後から続いて詠唱してください!行きますよ』
ええ、宜しくてよ。きゅっとフアフアな仔猫を抱きしめるローゼリア。
『ウーム・ノーム・ウオール!いでよ!私のテーブルよ』
「ウーム・ノーム・ウオール!いでよ!私のテーブルよ?テーブル?」
ボワン!テーブルが現れた。驚くローゼリア。白いクロスがかかっている。抱き締めていた仔猫がもぞもぞと暴れた。
「あ!ハイハイ、降りたいの?仔猫ちゃん、どうぞ」
彼女が腕の力を抜くと、ぽん!と飛び下りる薄紫色の仔猫。その中にモソモゾと入り込む。
はい?どういう事ですの?怪訝に思いながら、ローゼリアは新しい予感にドキドキとしつつ、クロスをめくり中をソロリと見てみる。
リリン!パチン!音がする。まあ!と小声を上げたローゼリア。そこでは……、
「王女様!ごめんなさい!許して下さいませ。私は呪いなんかこれポッチもかけてないのです。幸せになるようにと、お勉強して、すっごく頑張ったのに、頑張ったのに。時間を直しとくの、間違っちゃって。ごめんなさい!うわぁぁぁん!うわぁぁぁん!」
紫の髪の魔女が床に突っ伏し、わんわん泣いて謝っていた。