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19/24

いばら姫はエルムと話し、目覚めのキッスで起きる朝。

 ザザン。風が枝葉の音を立てた。


 ……、ふう。間に合ってん。今晩はここで休む事にして、ほやけど、ローズ目ぇ、覚ますんか?


 すうすうと、寝息を立てている顔を眺めるエアリー。


「まっ!朝まで待とう、夜明けの光はうちのご飯や!」


 そう言い彼女も眠りに落ちる。




 ――、夢の中ですわ。と意識をしたローズ。緑の香りの中、涼やかな声を聴いたからだ。


『まぁぁ!空から来たのは雷様では無くて、女の子でしてよ。クスクス』


 クスクスと重なり、サワサワと葉擦れの音がする。 


「私はエルム。突然、上に落ちてきた貴方はだあれ?」


「ローズと申します。魔女の弟子ですわ、突然の御訪問、失礼ではありますがお許し下さいませ」


 声と声とのやり取り。身体からソレが、ふわりと抜け出た様な気がしているローズ。


「ローズ、あのひとじゃなかったのね」


 少しばかり残念そうなエルムの声。


「あのひととは?何方様ですの?」


「うふふ、雷様ですの」


 ローズの問いかけに恥じらう、楡の木に宿る精霊エルム。


「雷様はね、ある日私に見惚れて、天の露台から足を踏み外されて、ドンガラピッシャンと落ちてこられました。私達は結ばれましたのよ」


 はい?神様はそういう展開はお早いのですか?とローズは思う。


「それで貴方は何故、お空から落ちてこられてたのです?」


「簡単に申しますと、旅の途中でございます」


 ローズは詳しく聞きたそうなエルムの気配を察すると、掻い摘んでこれまでの事を話す。


「まぁ!呪いを解くために」


「はい、魔法の杖の木を探しているのです。私の木の芽が世界の何処かに芽吹いているのです」


「そう、何かお力になりたいけれど、残念ながら貴方の杖は、楡の木ではありませんわね、これだけはわかります」


 威厳の名を持つエルムは残念そうに言う。一族の中から魔法使いの杖になる者が出ると、精霊界では一目置かれる存在になるからだ。


「そうですの、残念ですわ」


「ええ、でも貴方の杖は何処かに有るはず、力を落とさず探しなさいな」


 優しくローズに声を掛けたエルム。ありがとうございますと返したローズ。


「さぁ、そろそろここから出ておいきなさいな、心を身体から離している時が長いと、戻れなくなりますよ」



 パンッ!手を叩く音が響いた!



「あら?ここはどこかしら……ふぅ!」


 痛いですの……。こめかみがズキズキと痛む事に気がついたローズ。空は薄らと明るくなり、ほのぼのと菫色から薄紅色に変わりつつある。


 ……、困ったわ。エアリーは居ないし。ここは樹の上ですわね。ああ!わたくしは愚かでしたの。忘れ物をしてきました。


「いたた……、痛いのです。こんな事は初めて、こんな時誰に相談をすれば……、あら?な、何!手のひらがムズムズと。アン?どうしましたの?」


 クッションの様に支えてくれている枝葉の上で、そろりと身体を取り回すローズ。こめかみの痛みを堪えつつ、手のひらに目をやると。


 ……、モキュ、モキュモキュ……、琥珀色のアンがモゾリと頭を伸ばし、ウキュウキュと身体を捩りだして来た。手のひらに、ちょん。と座るローズの本の虫。


「どうしたの?出てきて。残念だけと御本が無いのよ」


 ああ、頭がクラクラします。身体に上手く力が入らないローズ。


 ……、クパ!


「ええ!アン!そんなに大きなお口を開けて、どうされましたの?」


 ローズはビックリ!それ迄口など見たこともないアンが、それらしい場所を大きくクパッと開いたのだ!そして……、


「まあ!あの斑の本が出てきましたの!凄いですわ!アン!痛たた……、この痛みは何か載ってるかしら」


 パタンと本を開くと何時ものように、アンがよじよじと這う。浮き出てくる魔女文字。主の知りたい事が書き出される、それによると……。


「魔法の使いすぎ?そういえばほんの少し前は、こんな事はちょこちょこありましたわね、ベッドの上で読んだりしてましたから、疲れると直ぐ寝てました。ああ、アン、ご苦労さま」


 モキュモキュと斑の本を身体の中に取り込むと、役目を終えた本の虫は、主の手のひらの中へと戻った。


「ふぅ。お腹が空きました。でも頭が痛むのです。食べて飲んで休めば治るのですけど……、ここじゃ眠るだけしかできません」


 エアリーは何処に行かれたのかしらと、ズキズキ痛む中、しばらく寝ようと決めたローズは、冷たさ宿る木の葉のベッドの上で目を閉じた。


 ピピピ、チチチ。サワサワ、ザワザワ。テトトト……。


 鳥の声、風の音、葉擦れのの音、何か動物が走る音。



「ふいー!食った食った!お腹ポンポンやでぇ」



 ウトウトとするローズの耳に入るエアリーの声。



「まだ起きへんのかいな。多分魔力があらへんからこうなっとるんやわ。しゃぁないな。アタイのを分けたろ!」


 空に顔を向けて眠るローズに、上からふわりと近づくと。


 チュッ!エアリーは形の整った唇をローズの唇に、軽く押しあてた。


 ピピピ、チチチ。サワサワ、ザワザワ。テトトト……。


 朝の賑やかな音が二人を包む。


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― 新着の感想 ―
[一言] 運命を座してまたない。意思のあるローズがとてもいいです。 それでさわやかな百合! (*^ω^*)
[一言] 朝の賑やかな音の中の百合はいいですねえ。
[一言] >チュッ!エアリーは形の整った唇をローズの唇に、軽く押しあてた。 むむむ!!?(ガタッ)
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