表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/64

61.魔法薬での変装

「……そう怖い顔で(にら)むな。俺は、君を敵に回すつもりはない。──あくまで君に注意を(うなが)しただけだ」


 マルトシャールが、敵意の無いことをアピールするかのように、軽く両手を上げる。


「まあ、安心するといい。──君がソウのギルドの一員である限り、俺が今言った可能性はかなり低くなるだろうからな」


「と、言いますと?」


 クウの顔は、普段の優男(やさおとこ)のそれに戻っていた。


「ソウのギルド"蒼黑の鯨(アクオーナ)"は、"魔術師ギルド"の中でも恐れられている有名な一団だ。そして、もしギルドの一員に手を出そうものなら、ソウは黙っていない。──その手の紋章がある限り、少なくとも"フィエラル"の者が君に手出しする事はないだろう。彼女、フェナについても同様だ」


 マルトシャールがクウの手を指差す。いつの間にかクウの手には──"蒼黑の鯨(アクオーナ)"の紋章が浮かび上がっていた。


「先手を打ったというのは、そういう事ですか。……フェナは、ギルドの一員じゃないんだけどね」


 マルトシャールに聞こえないような小声で、クウはぼそりと(つぶや)く。マルトシャールは、フェナにも"蒼黑の鯨(アクオーナ)"の紋章があると思い込んでるらしい。


「話を戻そう。クウ君、改めて──君に依頼したい仕事が一つある。君に頼んではいるが、ギルド"蒼黑の鯨(アクオーナ)"への依頼として受け取ってもらっても(かま)わん」


(うかが)います、伯爵。どんなお仕事ですか?」


「行方不明になった部下の捜索だ。──優秀な奴で、その実力を買って危険な仕事を頼んだんだ。もう"フィエラル"に到着していてもいい頃なんだが、一向に音沙汰(おとさた)がない。恐らくだが、奴の身に何かが起きたんだろう」


「危険な仕事、というのが気になりますね」


「簡単に言えば情報収集だ。──俺の表の職業は"銀行家"でな。金融業というのはイルトでは嫌われる職種だが、(かせ)ぎは非常にいい。それに、金持ちの知り合いも数多く作れるしな。だが、俺はそれを本業だとは思っていない。もう一つ、裏の仕事を持っているのさ」


「裏の仕事……。何ですか?」


「それを表す相応(ふさわ)しい言葉が見つからん。だが、あえて言うなら──"黒の騎士団"の駆除活動(くじょかつどう)といった所か」


 マルトシャール自身が大悪魔(デーモン)である事を考えると、その言葉は──同族を"駆除(くじょ)"しているという意味になるだろう。


「説明しておこう。──フィエラルは中立都市の名の通り、種族の垣根(かきね)を取り払った開放的な都市だ。だが、そんなフィエラルでも、"黒の騎士団"だけは受け入れる事ができん。──フィエラルにはある仕組みで、"黒の騎士団"が都市の内部へ侵入するのを(はば)む手段がある。それによって、やつらは都市の中へ踏み入る事は不可能となっているんだ」


「そうだったんですか? ──でも、悪魔(デビル)大悪魔(デーモン)は街の中にいますよね?」


「種族ではなく、"黒の騎士団"と"十三魔将"のみを区別する結界のようなものだと思えばいい。──とにかく、"黒の騎士団"はこの街には入れない。それはフィエラルが"中立都市"として正常に機能している、(さい)たる理由でもある」


 マルトシャールの口調はやや重々しい。クウは何かを察したようで、それ以上は聞くのを止めようと考えた。


「しかし、街に入れないからと言って、奴らがフィエラルの住民達を襲わない訳ではない。商人などを待ち伏せし、フィエラルの外で住民達を急襲する騎士共は後を絶たないのさ。──そういう奴らを野放しにはできんだろう? 」


「それで──駆除(くじょ)ですか。表現が(おだ)やかではありませんね」


「適切な言葉だと思うがな。──奴らを始末すれば、着ていた鎧や武器、運次第では金品なども手に入る。フィエラルの治安維持(ちあんいじ)()ねて、まさに一挙両得(いっきょりょうとく)だ。無論、手痛い反撃を食らう危険性もあるがな」


「じゃあ、その行方不明者も──"黒の騎士団"と戦う仕事をしていたんですか?」


「普段の仕事はそうだった。しかし、今回俺があいつに頼んだのは、もっと難しい内容の仕事だったのさ」


 マルトシャールの顔に、暗い影が差す。


「俺があいつに頼んだ仕事は──"黒の騎士団"への潜入捜査(せんにゅうそうさ)だった。今までに始末した騎士から()ぎ取った鎧を着込み、フィエラルの外、"青の領域"の外れにある"黒の騎士団"の野営地へと、そいつを送り出したんだ」


「せ、潜入捜査?」


「分かってくれたか? ──君にこの仕事を頼んだ理由と、その危険度が」


◇◇

 "霧の館"。マルトファールとソウがいる部屋から、少し離れた位置にある一室。


 ニニエラとフェナは、いかにも貴婦人の寝室といった内装(ないそう)の部屋に二人で座っていた。ニニエラは鏡台の前の小さな椅子に、フェナは天蓋付(てんがいつ)きのベッドにそれぞれ腰掛けている。


「準備できた。こっちに来て、フェナちゃん」


「ニニエラさん。何をするか、まだ聞いてないわよ」


「"七色油(なないろあぶら)"。あなたの髪に、()ってあげる。──これがあれば、帽子で髪を隠さなくても良くなるから」


「七色……油? ──あの襲って来た悪魔(デビル)もそんな事を言ってたわね。それって、何なの?」


「ああ。そう言えば、知らなかったんだっけ。塗ったモノの色を変える、魔法薬の一種よ。フィエラルでは、皆が知ってる、便利な"魔道具(アイテム)"。──そう言えばこの間、ウルゼキアの市場にも(おろ)されたらしいわ」


「あ──」


 フェナは、ウルゼキアの宮殿にクウと立ち寄った時の事を思い出す。門番の騎士が、"魔法を打ち消す聖水"で強引にクウを洗髪(せんぱつ)する光景が(よみがえ)る。


 あの騎士は、クウが"七色油"を使っていたと(うたが)っていたのだ。


「その緑がかった白髪は、サラサラしてて奇麗(きれい)。でも、残念。色を変えた方が、あなたの身のためよ。──フィエラルには、"白の騎士団"も来る時があるから」


「……ジョンラス王が"上位吸血鬼(ハイ・ヴァンパイア)"の女を探してるって件ね。確かに、そいつに間違われるのは迷惑だわ」


「──そうでしょ? ほら、いらっしゃい。塗ってあげる。私、上手だから」


 ニニエラは小瓶(こびん)を手に持ち、椅子を空けてフェナを待っている。フェナは鏡台の正面、小さな椅子に静かに座った。


 フェナは魔女のような帽子を取り、後頭部に束ねていた髪を(ほど)く。ニニエラは慣れた手付きで、小瓶の中の液体をフェナの長髪(ちょうはつ)に塗り込み始めた。


「──クウ君にも、塗ってあげた方がいいかも。ずっと帽子を(かぶ)ってるよりは、いいと思う」


「そうね。私、後でその油を買いに行くわ」


「大丈夫。私のを、分けてあげる。まだ、予備はあるから」


「ニニエラさん、どうしてそこまで? 純粋な親切心からかしら?」


「そうとも言えるかも。あなた達の事、好きになっちゃったの」


「あら、嬉しいわね。嫌われた事ならいくらでもあるのだけれど。──毒女、蛇女、殺人吸血鬼……"黒の領域"の裏切り者。これまで散々に言われてきたわ。他にも、まだ何かあったかしらね」


「へえ、そうなんだ。──クウ君には、何か言われた?」


「──クウはそんな事、言わないわ。彼は優しいから。たとえ、心の中でそう思ってたとしてもね」


「フェナちゃん、彼の名前を言う時に、体がちょっと赤くなるわね。──血の感じで、分かるの」


「……あなた、まさか?」


「はい、終わり。──色が変わっても、奇麗ね」


 フェナは目の前の鏡を見る。フェナの髪色は──白に近い金髪に変わっていた。ウルゼキアにいたノーム達と同じ髪色である。


「"七色油"の効果は、基本的には永続的。水で洗ったりしても、基本的には大丈夫。でも、もし色が落ちたら、また来て」


「……ありがとう、ニニエラさん」


 フェナは体の向きを変え、ニニエラに向かって丁寧に礼をする。普段の堂々とした態度とは、まるで別人のようである。


「クウ君にも、後でやってあげる。──あなたと、同じ色でいい?」


「ええ。是非、それでお願い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ