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40.王家の再興を

「はい……クウです。──どうしたんです、ロフストさん。急にそんな神妙(しんみょう)な顔になって」


 突然に名前で呼ばれたクウは、少しだけ驚く。


「クウ。お前さんは、"人間"なんだよな? 伝説によると"人間"は、別の世界から時間や空間を超えてイルトにやって来た、とても強い力を持つ存在だと聞いてるぜ。実際にその力は、十分見せてもらったしな。──だが、分からねえんだよ。クウ、どうして俺達を助けてくれた?」


「分からない、ですか? 助けてくれたのは、ドルスさん達、"白の騎士団"だってそうだったでしょう」


「いや、彼らとお前さんは違うぜ。"白の騎士団"が俺達を助けたのは単純に、ウルゼキアのノーム族だったからだ。俺達は彼らに武器を売り、"黒の騎士団"との戦いを(かげ)ながら手助けしている。ドルス将軍達は、ドワーフがウルゼキアにとって有益な味方だったからこそ、助けてくれたんだ。──だが、クウは違うだろ? ドワーフに義理はねえ。あの時の状況、普通なら他人なんぞ気にせずさっさと逃げ出すべきだ。だがクウは、俺達を安全に連れ出すためにと、"魔竜(ドラゴン)"に命がけで立ち向かってくれたな」


「そうですね。正直言うと──怖くて逃げ出したいって、ずっと思ってました」


「じゃあ、何で戦ったんだ?」


「……役に立ちたかったから、ですかね」


 クウの表情が、少し寂しそうな顔に変わった。


「僕は前世で、何もできない"人間"でした。学生時代も、社会人になってからも、人並みの事すら満足にやれない出来損(できそこ)ないだった。──その上、最後の方には難病に(かか)ったせいで身体が動かなくなり、今まで出来てた(はず)の自分の身の回りの事すら、何も出来なくなってしまったんです。本当に自分を(のろ)いましたね。すごく、悔しかったですよ」


「ガクセイ──シャカイジン? 何だと?」


「イルトには無い言葉ですよね。まあ、それはいいんです。──とにかく、僕は誰かの役に立ちたい。そして役に立つ事で、自分の存在意義を手に入れたい。つまり僕の行動は、ロフストさん達の為じゃなくて自分の為なんです。だって僕は、このイルトでは伝説として見てもらえたけど、元の世界では平均以下の役立たずだったから。僕は、今度こそ──自分の価値を証明したいんですよ」


 寂しそうなクウの顔が、不自然な笑顔に変わる。


「僕の目的は、"十三魔将"(およ)び、"黒の騎士団"を打ち倒す事。そして今回の様に、たくさん人助けをする事です。それが、きっと僕の価値の証明になると思うから。──もしロフストさん達、ドワーフの皆さんがまた危険な目に遭ったら、僕はきっともう一度、力を貸しますよ」


「──その時も今回の様に、自分からは何の見返りも求めないのかしら?」


 ロフストとクウの間に、フェナが割って入った。


「クウ。"人間"がイルトでどれほど力を持つ存在か、もう理解してるでしょう。あなたなら、その気になれば"輪"の魔術師として高い地位を得て、他の種族を支配する"王"になれる可能性さえあるわよ。──この際だから聞くけど、あなたはどうしてそんなに野心が無いのかしらね?」


「野心ならあるでしょ。誰かの役に立つ事で自分の価値を示したいって、たった今言ったよ」


「伝説の"人間"の望みが、そんな些細(ささい)な事だなんて信じ(がた)いわね。──それとも、本当の狙いは別にあって、裏では私達には理解できない深謀遠慮(しんぼうえんりょ)(めぐ)らせているのかしら?」


「買い(かぶ)り過ぎじゃないかな。僕はそんなに賢くないよ」


「どうかしら。(のう)ある(たか)は、爪を隠すものよ。──それにクウは、黒の"輪"を持つ魔術師だもの」


「黒の"輪"──と言うと?」


 クウは自分の背中を、片手で触った。


「魔術師の"輪"の中でも、黒の"輪"は特別なのよ。他の色よりも強い魔法を宿していて、イルトの"大悪魔(デーモン)"のような、特異な存在にしか宿らないとされている"輪"なの。──クウはイルトだけでなく、"人間"の中でも、きっと特別な存在かも知れないって事よ」


「特別な存在……ね。エルフの"賢者様"も、僕の"輪"については気になる事を言ってた気がするよ」


 そう言ったクウの背中に、一瞬だけ──紫色の光が浮かぶ。フェナとロフストの二人は、それを見逃さなかった。


「そいつが、黒の"輪"か……。俺も魔術師についてはそれなりに知ってる方だと思ってたんだが、思い直す事にするぜ」


 ロフストはそのまま沈黙し、深く何かを考え込む素振(そぶ)りを見せた。少しして、ロフストは何かを決意した様に口を開く。


「クウ。お前さんと、その吸血鬼のお嬢さんには、返し切れない大きな恩義がある。だが(はじ)(しの)んで、頼みたい事があるんだ。──お前さんの言葉に、甘えさせてもらえるか。ドワーフ族の為にもう一度、力を貸してくれねえか?」


「お話を聞きますよ、ロフストさん。急に生真面目(きまじめ)な顔になった理由を、教えて下さい」


「ああ、ありがとな。──少し、長話をさせて貰うぜ」


 自分を落ち着かせるかの様に、ロフストは大きく息を吐いた。


「イルトでは今、巨大な二つの勢力が争ってる。ノームの"白の騎士団"と、大悪魔(デーモン)(ひき)いる"黒の騎士団"だぜ。現在の戦況はノームが劣勢。ウルゼキアの各方面で、"白の騎士団"の将軍達は各々(おのおの)に防衛線を展開し、激しい"黒の騎士団"の侵攻をどうにか白の領域の外側で食い止めてる。かろうじて、だがな」


「知っています。──ドルス将軍も、その一人だったんですよね。彼は"シェスパー"の襲撃によって、ウルゼキアにではなく、逆に赤の領域へと"撤退"したようですけど」


「ああ、そうだ。ドルス将軍の部隊を、赤の領域のドワーフは受け入れた。彼らは"黒の騎士団"を恐れず、勇敢に戦い続けるイルト最後の希望だからな。──"黒の騎士団"に敗北して国を滅ぼされた、俺達ドワーフとは違って、だ」


「滅ぼされた?」


 クウが驚いた反応を示す。


「この奥の地域は、今は"ガガランダ鉱山"という地名で呼ばれてる。だが、かつての呼び名はそうじゃなかったんだぜ。以前の名は──"ガガランダ王国"。王族によって代々統治されていた、ドワーフ族の王国だった。"黒の騎士団"の侵略に抵抗した結果、ドワーフの国民達の半数以上は──殺されるか、奴隷として黒の領域へ連れ去られたよ。王とその一族達も、殺されちまった」


「それは……ひどいですね」


「ああ。どうにか無事だったドワーフ達は、赤の領域の方々に四散しちまった。それ以降、王国は"ガガランダ鉱山"と呼び方を変え、国の歴史は途絶えちまったよ。もうあの地域を、"ガガランダ王国"と呼ぶ奴なんざ、イルトにはいねえのさ。元国民だった、俺達当人ですらもな」


 ロフストは拳を握り、唇を噛んで下を向く。


「あれから俺達は、鉄工所を作った。職人を集めて、白銀の剣や鎧を鍛造(たんぞう)し、ウルゼキアの"白の騎士団"に使者を送ったのさ。俺達の作った獲物で、"黒の騎士団"を叩きのめしてくれってな。──王が亡くなられてから、俺達ドワーフは導き手を失った。この喪失感(そうしつかん)憎悪(ぞうお)をどうにかしてくれるのは、もう"白の騎士団"以外にはいなかったよ」


胸中(きょうちゅう)、お察しします」


「いや……実はな、俺はまだ"ガガランダ王国"の再興(さいこう)(あきら)めちゃいねえ。クウ、聞いてくれ。ドワーフの王族の中で、一人だけ、まだ生きていらっしゃる方がいるんだ。──その方を、どうにか探し出しちゃあくれねえか?」

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