表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/64

28.硫黄の街 ~メルカンデュラ~

◇◇

 "赤の領域"。砂嵐(すなあらし)の吹きすさぶ乾燥(かんそう)した大地。急峻(きゅうしゅん)な崖の側面に、幾つもの家が連なっている集落。家屋は(ことごと)く破壊され──住民は一人もいなかった。


 人気の無い集落の中央には、黒い甲冑(かっちゅう)を着た二人の騎士達が、座り込んで話している。


「なあ、この村は"ドワーフ"共がいるんじゃなかったか? ──誰一人、いやしねえじゃねえか」


「他の連中に先を越されたのかもな。村人が全員いなくなるなんざ、俺達──"黒の騎士団"以外の仕業(しわざ)とは思えねえからな」


「へへっ、そりゃそうだな。──ん? おい、あれ見ろよ」


 騎士の一人が指差した先に、二人の人影が見える。巻き上がる砂塵(さじん)に隠れて、人相(にんそう)判然(はんぜん)としない。


「おっ、あいつらか。──さてはあの野郎共、"シェスパー"様の配下だな」


 二人の人影が、(ようや)視認(しにん)出来る距離まで接近した。騎士の二人は──剣を抜いて立ち上がる。


「な……誰だ、てめえら!?」


「──こんにちは。通りすがりの──伝説の"人間"です」


 人影の一つはそう言って、(やいば)の無い──(つか)だけの剣を(かま)えた。


「何だ、その剣は……? 刃がねえじゃねえか?」


「正直者にしか見えない剣なんです。……なんちゃって」


「馬鹿にしやがって、俺らを誰だと思ってやがる……。覚悟しろ、クソ野郎!」


 騎士は二人(そろ)って、緑色の服を着た"夜色"の髪の男に斬りかかる。


 男──クウが(つか)を握りしめると、緑色の透徹(とうてつ)した刃が突如(とつじょ)として現れた。


 騎士二人の剣がクウに振り下ろされる寸前、交差(こうさ)して(はな)たれた二筋(ふたすじ)の斬撃が、騎士達を甲冑(かっちゅう)ごと()()いた。


 騎士達は、斬撃と同時に生じた風圧を受けて倒れ、そのまま動かなくなった。


「──お見事。クウ、随分(ずいぶん)剣が上達したじゃない」


 クウの隣の人影──フェナが賞賛(しょうさん)の言葉を送る。


「毎日、私と剣技(けんぎ)鍛錬(たんれん)をしてた成果が出てるわね。──討伐(とうばつ)した騎士は、そいつらで通算(つうさん)何体目かしら?」


「16体目──かな」


 クウは今しがた倒した騎士二人の(そば)(ひざまづ)くと、両手を合わせて一礼した。


「──前にも、倒した騎士(こいつら)に同じ事をしてたわね。それはどういう意図(いと)の行動なの?」


謝罪(しゃざい)……みたいなものかな。亡骸(なきがら)には哀悼(あいとう)の意味を込めてこうするのが、僕の前世では当たり前だったんだよ」


「そんな気遣(きづか)い、無用だわ。──そいつらの鎧を見なさい。黒くて見えづらいけど、何度も返り血を()びて出来た()みがあるわ。他種族を幾人も理由なく(あや)めてきたクズの(あかし)よ」


「分かってるよ。だけど、そういう相手にも、同じ様にするって決めてるんだ」


「人間って、変わってるのね」


 フェナは倒れた騎士達の身体を探り、何かを鎧から抜き取ると、クウに向かってそれを投げた。


「うわっと。……何これ?」


「鶏肉のサンドイッチね。──こういう雑兵(ぞうひょう)は、携帯食料を常備してる事が多いの。ついでにお金とかもね。こいつらなんかには勿体無(もったいな)いから、頂いておくべきよ」


「毒を食らわば皿まで、だね。僕も次からはそうしようかな」


 クウは早速(さっそく)、フェナに渡された携帯食料を食べる。


「壊され過ぎてるよね、この村。──フェナ、どう思う?」


「何かに襲われたみたいね。住民達は──集落を捨てて奥の方に(そろ)って逃げ出した。黒の騎士団の仕業(しわざ)という可能性もあるけど……別の、何かかも知れないわ」


「何かって、何?」


「"魔獣(ビースト)"──かも知れないわね」


 聞き覚えの無い単語に、クウは首を(かし)げる。


「イルトの脅威(きょうい)は、大悪魔(デーモン)(ひき)いる"黒の騎士団"だけでは無いの。"魔獣(ビースト)"とは、イルトの全領域に存在する、魔力を体に内包(ないほう)した大型生物の俗称(ぞくしょう)よ。この赤の領域で代表的なのは──"魔竜(ドラゴン)"ね」


「ドラゴン……。ファンタジー世界じゃ鉄板(てっぱん)だけど、やっぱりイルトにもいるんだね。──ドラゴンが、この村をこんな風にしたの?」


「確証は無いけど、考えておくべきかもね。村の壊れ方を見る限り、大型生物がいる事はまず間違いないから。──どうする? この奥に、行ってみる?」


「今、それを考えてるよ」


 警戒に満ちた目で、クウは村の奥へ続く空間を(にら)む。


「まずは、"大盾のドルス"を探そうと思うんだ。──結局、セラシア王女の言ってた白と赤の境界付近では、彼を見つけられなかったからさ。彼がいるとしたら、もうこの先ぐらいしか考えられないんだよね」


 クウはそこではっとして、腰の袋をごそごそと探り、セラシアから(もら)った石魔(ガーゴイル)を取り出す。石魔(ガーゴイル)の目が、赤く発光していた。


「あ、着信アリだ」


 クウは石魔(ガーゴイル)を自分の口元に近づける。


「──もしもし、セラシア王女。こちらクウです。」


(セラシアですわ。クウさん、御機嫌(ごきげん)よう。……クウさん? その、"もしもし"というのはどういう意味ですの?)


「あ……気にしないで下さい。人間が遠距離で会話する時に、必須(ひっす)挨拶(あいさつ)みたいなものです」


(あら、そうですの。覚えておきますわね)


 石魔(ガーゴイル)(かい)して、セラシアの上品な声が届く。


「セラシア王女、ご報告(ほうこく)します。現在僕らは"赤の領域"内の、ある集落に到達(とうたつ)しました。(がけ)壁面(そくめん)に家屋がいっぱいくっついてる集落です。あと、砂埃(すなぼこり)がひどいです」


(がけ)に家屋……。きっと、"メルカンデュラ"ですわね。別名、硫黄(いおう)(まち)と呼ばれる、高い建築技術を持つドワーフ達によって作り上げられた鉄鋼業(てっこうぎょう)(さか)んな土地ですわ」


「セラシア王女、ドワーフ達はいません。集落の大半は物理的に破壊され、住民の姿は皆無(かいむ)です。──フェナの見立てでは、"魔獣(ビースト)"らしき大型生物が街を急襲(きゅうしゅう)したみたいで……」


(それは、(よろ)しくありませんわね。──(わたくし)からも一つ、お伝えしなくてはならない事がありますの。"大盾のドルス"(ひき)いる部隊が、黒の騎士団の猛攻(もうこう)を受け、赤の領域内へと撤退(てったい)した事が判明(はんめい)しましたわ。彼らは退路(たいろ)(ふさ)がれ、赤の領域に追い立てられてしまったのです。そしてそれは、おそらく今まさにクウさん達がいる"メルカンデュラ"なのですわ)


 クウの予想は、どうやら当たっていたらしい。


("ドルス"の部隊は半数が死亡してしまいました。増援(ぞうえん)として送り込んだ白の騎士達が、白と赤の領域の境界付近にて同胞達(どうほうたち)遺体(いたい)を……確認しましたの。生き残っていた(わず)かな騎士によって、今の情報は(もたら)されましたわ。──彼らが戦ったのは(あん)(じょう)、"十三魔将"の(ひき)いていた"黒の騎士団"だったんですの)


「"十三魔将"……そうですか」


(クウさん、(はじ)(しの)んでお頼み申し上げます。──ドルスを探し出し、彼の部隊をウルゼキアまで撤退(てったい)する手助けをして頂けませんか? 彼の部隊の被害(ひがい)甚大(じんだい)で、負傷兵も多くおりますの。今の彼らは黒の騎士団の雑兵(ぞうひょう)にさえ、不覚を取ってしまいかねませんわ)


「分かりました。これからどうしようかと思ってましたけど、これで迷う必要が無くなりましたね」


(ああ、クウさん……。感謝いたしますわ)


「お互い様ですよ。僕らだって、あなたに助けて頂きましたから。──では、セラシア王女。今後でまた連絡しますね」


 クウは、赤い光が石魔(ガーゴイル)の目から完全に消えたのを確認してから、腰の袋に石魔(ガーゴイル)を仕舞った。


 続いてクウは真横のフェナを見る。フェナは地面すれすれに顔を近づけ、何かを()いでいた。


「クウ。この先──血の(にお)いがするわ。砂嵐(すなあらし)所為(せい)で鼻が()きづらいけど、確かよ。今の話に出て来た、"白の騎士団"のノーム達かもね」


「負傷兵が多いって言ってたね。急がないと。──行こう、フェナ」


 クウはフェナと共に、"メルカンデュラ"の奥に駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ