25.銀鶏館での会議
「セラシア王女。──どうして、ここが?」
「"輪"の魔術師が持つ強い気配を、町中を歩き回りながら探ったまでですわ。私、探知能力ならば、"白の騎士団"随一と自負しておりますわよ」
セラシアは兜の下に紐で束ねていた、長い髪を解く。
「──そちらの方、宜しいかしら?」
「は、はい。──何なりと、セラシア王女」
セラシアに呼ばれたナフィーは、畏まった態度で返事をする。
「少しの間、席を外して頂けませんこと? こちらのお二人と、話がしたいんですの」
「わ、分かりました」
ナフィーはクウに心配そうな視線を送ると、ゆっくりと部屋から出て行った。
セラシアは空いていた部屋の椅子に、音を立てずに座る。
「──もしや、お怪我をされていらっしゃいますの?」
「深手を負ったわ。あの王様の攻撃で、足の肉が抉り取られたのよ」
「お父様に代わり、深く謝罪いたしますわ。──お父様の持つ白の"輪"、"白鐡王"は鉱石の類を自在に操る事が出来るんですの。お父様は国王にして、ウルゼキアの中でも三指に入る実力派の魔術師。失礼ながら、その程度で済んだのは幸運でしたわ」
セラシアは椅子から立ち、深々とフェナに頭を下げる。フェナは不服そうな表情で、傍に立つクウの腕にしがみ付いた。クウはそのままフェナのベッドに、すとんと腰を落とす。
「フェナさん、単刀直入に伺いますわ。──お父様の仰っていた"父上の仇"という言葉、どう思われますの?──あの言葉通りに解釈すればお父様にとってフェナさんは、先代のウルゼキア王の仇、私にとってのお爺様の仇という事になりますわね」
「……見当もつかないわ。私はジョンラス王に今日まで会った事も無かったし、先代のウルゼキア王の事なんて全く知らないもの。──人違いも良い所よ」
「なるほど。そうなんですのね」
セラシアはクウを見る。意見を求めているような目だった。
「フェナがもし先代の王様を手にかけていたとしたら、僕とノコノコと宮殿に来るなんて、迂闊な行動を取る訳が無い。──セラシア王女、フェナはきっと、ジョンラス王の探してる犯人じゃありませんよ」
「私も同意見ですわ」
セラシアはあっさりとクウに同意する。
「しかし、お父様の方はそう思ってはいない様ですの。お父様はあの直後、"白の騎士団"達にこう命じましたわ。──ウルゼキアから緑の領域へと至る、全ての道を封鎖せよ。その上で、宮殿から逃亡した二人組の男女を捕らえよ、と」
「緑の領域……? つまりジョンラス王は、僕がエルフの村に逃走する可能性を考えて、それを阻止しようと──?」
「そういう事ですわ。──お父様は、クウさんとフェナさんは"黒の騎士団"が自分を狙う為に放った刺客であり、"ナトレの森"に住むエルフの賢者様も、それに一枚噛んでいるのでは、とさえ考えているようですの」
「そんな……。あり得ませんよ、セラシア王女。賢者様はイルトの未来──そして、ウルゼキアのノーム達の身を案じて、僕をここに送り出してくれたんですから」
セラシアは残念そうな顔で、首を左右に振る。
「今のお父様は、実の娘である私から見ても、正気を失っているとしか思えませんわ。だからこそ私は、変装までしてお二人に会いに来たんですのよ。──宮殿で本来する筈だった、"大悪魔"に関するお話も、結局は出来ませんでしたし──」
セラシアはそこで急に言葉を切り、背後を向く。──部屋の隅に、紫色の亜空間が発生していた。
「こんな所にいたのか、クウ。……どういう事だ? アンタは……セラシア王女か。それに、蝮鱗のフェナじゃねえか。──おい、クウ。一体どういう経緯で、こんな状況になったんだ?」
亜空間から、ソウが現れた。
驚くセラシアに軽く会釈してから、ソウは腕組みをして壁に寄り掛かり、クウをじっと見る。クウの説明を待っているらしい。
「起こった事を簡単に話すよ。──ソウと別れた後、フェナと会ったんだ。僕達を追って来てたのはフェナで、結果的に僕はフェナを傭兵として雇う事になった。その後で宮殿に行ったんだけど、ジョンラス王は──フェナを先代の王の仇だと言って、突然"輪"の力を開放して襲って来たんだよ」
「それで、宮殿があんなザマになってたって訳か。──名君として名高いジョンラス王が、そんな事するとはな。俄には信じられねえぞ」
「でも事実なんだ。ジョンラス王は僕とフェナを捕らえる様に"白の騎士団"に命令して、今も街中を捜索してるみたいなんだよ。──ジョンラス王の攻撃でフェナが負傷してる事もあって、今は自由に動けないんだ」
「俺が白の騎士団の連中に絡まれた理由はそれか。あいつら、間違えやがったな」
ソウはそこで、セラシアを見る。
「ああ、そう言やあ挨拶が済んでなかったな。──セラシア王女、俺はソウ。クウと同じ"人間"だ。クウとの関係は、まあ付き合いの短い──相棒みてえなもんさ」
相棒という表現に、クウは少しだけ──嬉しそうな顔をした。
「ソウさん、ですのね。──あなたにもご迷惑をお掛けした様で、申し訳ございませんわ」
「別にアンタのせいじゃねえさ。──いや、待てよ。良く考えたらアンタ、"白の騎士団"の司令官じゃねえか。おいクウ、こりゃマズいんじゃねえのか?」
クウに意見を求めるソウに、セラシア自身が答える。
「ご尤もな意見ですわね。では私──誓って申し上げますわ。私はお父様ではなく、ここにいる皆さんの意見を尊重いたしますわよ」
「セラシア王女──私達を信じてくれるというの?」
フェナが、自分を手で示しながら聞く。
「勿論ですわよ。いかなる理由があれど、来客に説明も無く魔術で襲い掛かるお父様の方が正しいとは思えませんわ。──そもそも今の"ウルゼキア"は、"イルト"を侵略する"黒の騎士団"を打ち倒す事が目的である筈。"白の騎士団"を、私怨による衝動的な行動で動かしていい訳がありませんもの」
「つまり、"白の騎士団"の司令官という立場として、僕らに助力してくれると?」
「父の行動を問い質したい健気な娘──という立場でもありますわ」
セラシアの眼には、ある種の覚悟の様なものが感じられた。
「今の私がすべき事と言えば、まずは皆さんを──"白の領域"の外に逃がす手筈を整える事、ですわね」
「そうですよね。ジョンラス王に追われる立場となれば、とてもこのままウルゼキアにはいられないか……」
「おいおい。ちょっと待てよ、クウ」
会話に水を差したのは、ソウだった。
「どうしてお前が出て行かなきゃならねえ? ──お前はイルトに来たばっかで、先代の王殺しなんぞとは無関係だってのは明白だろうが。事と次第にによっちゃあ、ジョンラス王を説得出来るかも知れねえだろ」
「それは難しいと思うよ。ジョンラス王の豹変する様子を直に見たら、ソウも分かってくれると思うけどね」
「俺は難しいとは思わねえよ。ジョンラス王の態度を改められる余地は、きっとあるだろうさ。例えば──その女を差し出すとかな」
そう言ってソウが指差したのは──クウの腕を掴むフェナだった。




