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第33話:戦い終わって

前回投稿より三週間――遅くなりました。

「神様なんて大嫌いと異世界に飛ばされた少女たちは叫んだ」第33話ようやく投稿です。

読んでやって下さい。

 魔導専制君主国フェングラース首都、魔都マギスパイト、闘技場コロシアム――アトゥームとズィドガーの試合決着直後―― アトゥームが言ったその言葉に静香は激怒した。


 「上手くいったな、俺が死んでもラウルなら心配は要らなかっただろう」


 アトゥームは軽く息をつくと言葉を続けた「もっとも、俺が死んだからといって何が変わる訳でもないが」


 少し前まで危うく泣きそうだった静香はアトゥームを睨み付けた。


 「勝っても負けても良かったですって!?」


 静香は右手を高く上げた。


 「静香ちゃん――!?」ホークウィンドが驚きの声を上げる。


 静香はアトゥームの頬を強く平手で打った。


 「貴方は自分が何をしたか分かってるの!?――貴方は不老不死かも知れないけど不死身じゃないのよ!――自分を犠牲にして他人を助けようなんて思い上がりも良いとこだわ!」


 アトゥームは僅かに、本当に僅かに、冷たい泣き顔の様な歪んだ笑みを浮かべた。


 親しく付き合った者でなければ分からない程の笑みだった。


 「貴方が死んだらホークウィンドやラウルがどれ程――皇国に捕まってるエルフ達もどうなるの!?」


 静香は怒っていた。


 闘技場コロシアムで分の悪い賭けの戦いに臨んだ――毒を盛られる事を承知で戦ったアトゥームに。


 自分一人の命ではないのだ。


 死ぬ覚悟を決める事と、命を捨てる事は別だ。


 ここでアトゥームが亡くなればグランサール皇国との戦いは増々不利になる。


 だが静香が怒ったのはその事ではなかった。


 許せないのは自分の命など無くなっても構わないというアトゥームの諦念だった。


 自殺と何が違うというのだろう。


 睨む静香をアトゥームは冷たくこわばった微笑のまま見返していた――。



 *   *   * 


 

 グランサール皇国現戦皇エレオナアルと“白の聖騎士”(ホワイトパラディン)ショウ=セトル=ライアンは水晶球でマリア達の試合を観ていた。


 “お前たちの言ったようにはいかなかったな。エレオナアル、ショウ”女神アリオーシュの声が二人の頭に響く。


 「心配要りませぬ。ガルム帝国民はアトゥームやホークウィンドに忠誠を誓うのを止めるはず。止めるとまで言わなくとも亀裂は入ったでしょう」エレオナアルが苛立たし気な様子を抑えて――傍目にもあっさり分かってしまう位だったが――言った。


 「そう心配しなさるな、女神アリオーシュ」宿敵アトゥームを殺せなかった無念を隠しながらショウが言う「マリアとやらも静香とやらもそう遠くない内に捧げてくれましょう」


 “期待しておるぞ”アリオーシュの姿が消える。


 緊張の糸が切れたのかショウとエレオナアルは力を抜いた。


 「神とはいえ女風情にかしこまった言葉を使わねばならんとはな」


 「そう言うな、ショウよ。あのメス犬はまだまだ我らの役に立つ。使えるだけ使って捨ててやれば良いのじゃ」


 「準備は進んでいるのか?」


 「“神殺し”を使える英霊は見つかった。後はあの裏切り者の肉体と刀を奪うだけだ」


 「全て予定通り、か」ショウが満足そうに頷く。


 このやり取りを混沌界からアリオーシュは全て見ていた。


 全てが揃うまで、今少しの時間が必要だ。


 “英霊”も彼女がフェングラースから逃げ込んだ魔導士に教えてやったのだ。


 それにしても自ら先に裏切っておきながら相手を裏切り者とは。


 アリオーシュは侮蔑の念すら覚えながら二人の会話を聞き続けた。



 *   *   *



 マリア達を裁いた裁判官は、秩序機構オーダーオーガナイゼーションの幹部にして三十六魔導士の一人だった。


 逮捕の為、戦方士バトリザード達が踏み込んだ時、彼は嗤いながら自分と家族を巻き込んで爆裂魔法を唱えた。


 戦方士バトリザード達に被害は無かったが、彼の一族が関与した証拠は失われた。


 マリア達はラウルが主導して集めた証拠を元に秩序機構オーダーオーガナイゼーションに奴隷としてエレオナアル達から売られていたエルフ達も解放した。


 彼等からも更にグランサール皇国と秩序機構オーダーオーガナイゼーションの犯罪行為を裏付ける証拠を集めた。


 大半の秩序機構オーダーオーガナイゼーションの手の者は死ぬか捕まるかしたが、その最高指導者と側近は既に逃亡していた。


 最高指導者も三十六魔導士の、それも最上位級の者だった。


 アビゲイルと副帝ゾラスの血縁者だ。


 彼が帝位を狙っていた事も明らかになった。


 魔導専制君主国フェングラースで魔法が使える者の中には秩序機構オーダーオーガナイゼーションに共感を感じている者が少なくなかった。


 秩序機構オーダーオーガナイゼーションの影響を拭い去るのは簡単な事ではなさそうだった。


 しかし、全て片が付くまで魔都マギスパイトに留まる訳にはいかない。


 グランサール皇国は戦争に混沌の女神アリオーシュ配下の悪魔族デーモンを投入し始めたのだ。


 ガルム帝国やエルフも苦戦を強いられていた。


 対策を早く立てなければ戦況が悪化するのは疑いの余地は無かった。


 悪魔族デーモン召喚に使われる生贄の数も加速度的に増えているとの事だった。



 *   *   *



 歌が聴こえる――


 なんて哀しい歌だろう――


 夢だ――あの日から何度も見た夢。


 彼女が泣いている――嬉しさと哀しさの混じった、透き通るような声で歌いながら泣いている――


 それはアトゥームにとって余りに辛い思い出だった。


 「――あれを隠せば貴方は戦わずにここに残ってくれると思ったの――」


 俺が君達の森に逃げ込まなければ君は死ななくても済んだのに。


 両手剣ツヴァイハンダーを持って俺の所に来てくれた君は身体に――。 


  エルフィリス――アトゥームの初恋の女性――古エルフ王国王族の末裔の血を引く不老不死ハイエルフ。


 グランサール皇国の仕事としてアトゥームの属していた傭兵隊は国境を侵犯したガルム帝国の動向を威力偵察する――表向きはそうだったが実際は森エルフを駆逐する仕事だった――それを拒んだ隊長以下殆んどの者が裏切り者として処刑される事になった――そして脱走して森に逃げ込んだ。


 皇国の狙いは最初から森エルフ達だったのだ。


 俺達を見逃すだけでも逃亡者を手助けしたとして襲撃する格好の口実になる。


 それを知っていてなおエルフ達は俺達を庇ってくれた。


 俺達が処刑されていれば――少なくともその時襲撃する口実は無かった。


 古エルフ語でエルフィリスが歌っていたのは愛する恋人が戦争に出向き、そして帰ってこないのを知ってなお待ち続けた女性の歌だ。


 転移の魔法陣で二人は皇国軍の包囲の外に居た。


 アトゥームも深手を負っていた。


 彼女は涙を流しながら――歌が途切れ途切れになっていく――


 アトゥームは自分が涙を流している事に気付いて目覚めた。


 「女と共寝している時に他の女を思い出すとは良い根性だの」


 「我でなければ張り倒されている所じゃ」魔導帝アビゲイルは不機嫌さを隠さなかったが怒る事は無かった。


 アビゲイルは最初の逢瀬の日から毎晩アトゥームの元に通っていた。


 アビゲイルはアトゥームをマギスパイトに留めるべく口説き落とそうとしていたが上手くいかなかった。


 色々と魅力的な条件を提示したのだが、アトゥームは首を縦に振らなかった。



 *   *   *



 フェングラースでの一連の事件の後始末にも一応の決着がついた後、マリア達は魔都マギスパイトの魔導帝宮殿広間で褒賞を受けた。


 「そなた達には助けられた。心から感謝する」副帝ゾラスが言った。


 アビゲイルも同席し、マギスパイト中の貴族が位階に従って控えていた。


 「礼としてそなた達に魔導専制君主国フェングラース騎士の称号を授ける。更に褒美として授ける物が有る」


 「アトゥーム=オレステス、そなたには“死神の騎士”の残った武具を渡そう」

 脇に控えていた女官が何かを包んだ布をアトゥームの前にくる。


 アトゥームが包みを解くと中には真っ黒な兜が入っていた。


 Knight of DEATHの兜。“死神の騎士”の最後の武具だ。


 「感謝する。魔導帝アビゲイル、副帝ゾラス。いや――感謝します。アビゲイル陛下、ゾラス殿下」アトゥームの言葉には深い感謝の念がこもっていた


 アリーナには魔法の手術道具の入った医療鞄、ラウルには魔法使いの筋力でも楽に扱える魔術杖としても使える広刃の魔剣、ホークウィンドとシェイラにはシェイラの希望通り彼女が本来の黄金龍ゴールドドラゴンの姿を取った時に、シェイラに騎乗できる馬具――いや龍具というべきか――をそれぞれ与えられた。


 「澄川静香。そなたにはいずれ必要になる物を与える」


 どんな魔法の品だろうか――静香は大層な品物だろうと予想したがそれは裏切られた。


 奥から運ばれてきたのは――静香自身信じられない物だった。


 それは静香が現実世界で乗っていたバイクだった。


 ヤマハMT-25ディープパープリッシュブルーメタリックCだ。


 ナンバープレートを見る。


 間違いなく静香の愛車だった。


 「時が来る迄、魔法の指輪に収めておくが良い。燃料も入れてある、試しに運転して見たければ馬場を使うが良い。燃料が足りなくなったらラウル司教に錬金術で都合してもらう事だ」


 こんな所で愛車と再会――疑問がさらに浮かぶ。


 「確かに私の愛車だけど、これが役に立つの?それにどうやって私の世界から持ってこれたの?」


 ゾラスは言った「そなたらの世界と我々の世界はそなたが思うより近くに有る。二つの世界が合に入った時に召喚したのだ。こちらから向こうに行くより逆の方が遥かに楽だ。そなたらを監視した時の記憶からその機械を召喚した。礼を失した行為とは分かっている。だがその機械は必ず必要になる」


 「――分かったわ」静香は疑問を消せないながらも納得する事にした。


 始原の赤龍グラドノルグの洞窟で手に入れた異空間に様々な品を収められる指輪にバイクを収納する。


 「七瀬真理愛。そなたにはこれを」ゾラスが合図すると女官が進み出て、マリアに包みを解いて鎖の付いた小さなロザリオを手渡す。


 磔刑に処されたイエスの像が付いていた。


 「これは――?」マリアが尋ねた。


 「貴女のお父様が最期まで持っていた物よ」隣にいた古吸血鬼エルダーヴァンパイアにして三十六魔導士の一人アレトゥーサが優しく言った。


 マリアは信じられない思いでロザリオを見つめた。


 裏側に漢字で“七瀬龍也”の文字が打ってある。


 ロザリオを握り締めたマリアの目に涙が滲んだ――「有難う御座います。アビゲイル陛下、ゾラス殿下」


 心を読まれた憤りも消え去る程の、マリアにとってこの上ない贈り物だった。


 マリア、静香、アトゥーム、ラウル、アリーナ、ホークウィンド、シェイラの7人はいよいよグランサール皇国との戦いに出向くことになったのだった。

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