第23話:深緋の稲妻ースカーレット・ライトニング ※ラストにイラスト有ります。深緋の稲妻の鎧、設定画です。見たくない方は注意!
ホントは昨日投稿する予定だったんですが、終わりの部分を何度か書き直して今日に。
では、第23話「深緋の稲妻」どうぞー。
料理店の個室で魚のステーキや野菜のスープ、香草の入ったサラダ、鹿肉の香草焼といったコース料理や酒、ハーブ茶、果物の果汁とハーブで味付けした水、ケーキやタルトといったデザートなどを食べながら、カーラムと7人が合意したのは数時間後の事だった。
カーラムの提案通り7人が血を提供し、カーラムが敵に対する情報を分析し知らせる。
アリオーシュ戦には状況によってはカーラム自らが出て戦いに協力すること、強制の魔法でアリオーシュとの戦いが終わるまでは7人に危害を加えないこと等が取り交わされた。
強制の魔法はラウルがかける。
マリアと静香――特にマリアはそこまでしなくていいと言ったのだが、かつての敵だったシェイラはそうしないと納得しなかった。
「言っとくけど、私、貴方のことを信頼したわけじゃないから」とシェイラは言った。
「信頼して欲しいなんて言わないよ」カーラムは平然としていた。
マリアは疑問に思ったことを口に出す「私たちの血をもらって貴方たちにどんな利益が有るんですか?眷族にできるわけじゃないんでしょう?」
「君たちを眷族にできなくても、君たちの能力をもらうことは出来る。むろん君たちの力を奪う訳じゃない。コピーして自分達でも使えるようになるという意味さ。あの短期間で大悪魔を倒す成長の速さ、他のメンバーの力も有れば僕達には大変な利益になる」
「私やアトゥームの能力と同じって事ね」静香が納得したように言う「でもホークウィンドはそれで良いの?かつての迷宮の主ワードナが復活したら強敵になりかねない――」
「――良いよ、それで――まずはアリオーシュ。そこを乗り越えないとワードナの逆襲自体有り得ない」ホークウィンドは珍しく神妙な面持ちで言った。
「それにボクには基本的にどんな攻撃も通用しない――相手が何者だろうと」
ホークウィンドは自分に言い聞かせるように言う。
「じゃあ、澄川静香。君がその鎧を手に入れた時のことを話して欲しい」食事も終わり条件交渉も終わった後、リンゴのタルトをつつきながらカーラムが頼んだ。
「何故?」静香が問い返す。
「かつての女英雄がまとった鎧だ。どういう経緯で手に入れたかは興味が有るよ」
「グラドノルグの洞窟で七瀬真理愛が貰った薬について君が聞いているかも」
「薬――? マリアが貰った金属の瓶のこと?」
「そういえばそんなこともあったけど。マリア、あれは薬だったの?」
マリアは顔を赤くして「ええ、そうです」
慌てるようにマリアは付け足した「どんな薬かは、二人だけの時に話しますから」
「そう?」静香は今一つ分からないといった表情だったが、それ以上マリアを追求しなかった。
「じゃ、鎧について話すわ。トレボグラード城塞にきてエセルナート女王陛下に頼んで、下賜されたものだけど」
「ただで下賜されたわけじゃないんだろう?」
「そもそも、この鎧のことはラウルが知っていて、私に下賜してくれるよう頼んでくれたのよ。で、下賜される条件として、かつて鎧を纏っていた女王の警護の女騎士に認められるかを試されたのだけど」
「どうやって」
「手合わせよ」
どのような手合わせだったかを、静香は説明した。
* * *
「――という訳で、かつて深緋の稲妻“スカーレットライトニング”と呼ばれた陛下の家臣の鎧を、こちらの異世界人、澄川静香に譲っていただきたいのですが」ラウルが目の前の玉座に座った女王――アナスタシア=トレヴァヴナ=エセルナート――年は今年で78歳になる――に申し入れた。
女王は見事な白髪で、かつては美人であったろう顔も今は老いを隠せなかった。
静香とマリアは澄川女学院の制服で女王に謁見していた。
女王の周りには多くの家臣が控えている。
静香とマリアは女王の威厳ある様子に感銘を受けた。
「では貴女方がアリオーシュを倒すためにこの世界に呼ばれた異世界人なのですね」エセルナート女王の声が響く。
「はい」静香とマリアは少しとはいえ緊張しながら答えた。
「“狂王の試練場”に入る許可は出しましょう。女神ラエレナの神託が有ったことは私も聞いています。しかし鎧は何事も無く下賜するという訳にはいきません。それだけの力があることを示せば、下賜しましょう。グランサール皇国は我が国からは遠い、ですが援軍は出しましょう。ホークウィンド卿を遣わす事も許します」
「カレン」エセルナート女王が声をかける。
「は」居並ぶ家臣の中から、赤い鎧に身を包んだ老女騎士――エセルナート女王とほぼ同い年くらいだろう――が出てきた。
長さ2メートルと半分くらいの長さの槍を持っている。
身長は静香より5センチほど高い。
髪は直毛で肩の辺りで切り揃えられている。
「澄川静香と言いましたね。”深緋の稲妻”は私です。貴女が着けるのが相応しいと手合わせして私に思わせたら、この鎧を貴女に譲りましょう」
鍛えているのだろうか、カレンと呼ばれた女騎士の声は年齢を感じさせない快活さがあった。
二人は城の練兵場で手合わせすることになった。
静香とカレンは魔法のかかっていない普通の鎧に、得物は魔力を使わないことで使用を許された―の一本勝負で決着する。
間合いは遠ければ圧倒的に槍のカレンが、近ければ日本刀の静香が有利になる。
その為、お互いの刃先が触れ合った状態から勝負が始まることになった。
この間合いより近ければ静香が、遠ければカレンが有利になる、一動作で勝負が決着すると思われた。
勝負が始まる。
静香とカレンは試合開始の後もしばらく動かなかった。
互いの隙を探って刃先に神経を集中する。
得物から伝わる相手の気配を読み、先に動くのはどちらかを探りあう。
お祖母さまとの手合わせを思い出すわ――静香は現実世界の事を思い出した。
その時、槍が動く気配がした。
突いてくる――?
しかしカレンの動きは静香の予想を全く裏切るものだった。
カレンは槍を高く上げた。
身体ががら空きになる。
思ってもみない動きに静香は一瞬戸惑った。
カレンはわざと隙を作ったのだ――しかし静香はそれが誘いだということは分かっていた。
どういうつもり――
静香はカレンが故意に隙を作っているのは分かったが、どのようにそれを使うつもりかまでは分からなかった。
誘いに乗るか、それとも無視するか?
しかし、このままではらちが明かないのも事実だ。
ままよ――静香は踏み込んで“神殺し”を上段から振り下ろそうとした。
その時、カレンの姿が消えた。
静香は頭上に殺気を感じ、“神殺し”を上からの攻撃に備えて構え直す。
カレンは静香の虚を突いて後ろに下がりざまに槍の刃を頭に振り下ろしたのだ。
槍は突くものだという固定概念を逆手に取ったのだ。
静香は何とか槍の一撃を防いだ。
そのまま一気にカレンの懐に入り込もうと猛然と駆けた。
今度は左から柄そのものを当てに来た。
鎧で攻撃を受け止めるか、それとも“神殺し”で止めるか。
鎧で止めればカレンに攻撃をかけれる。
しかし、またしても静香は虚を突かれた。
懐に入った静香は一気に“神殺し”を右斜め下に切り下そうとする。
カレンは槍の石突でそれを受け止めた。
弾かれた刀を戻す間にカレンは再び間を開けず石突で静香の胸元を突く。
静香は間合いを開けられた。
長物を相手にする時、相手の得物が振り下ろされる位置で受け止めてはいけない。
グランサール皇国皇室付近衛騎士だったジュラールに何度も注意されたことだった。
静香の刀を抑え込もうとカレンは槍の柄を“神殺し”のみねにぶつけようとした。
まずい――本能的に危機を察知した静香は後ろに跳んで――槍の攻撃範囲から逃れようとした。
カレンが槍で猛攻に出る。
凄まじい勢いで連続突きがきた。
静香は防戦一方に追い込まれた。
なんとか槍が身体に当たるのを“神殺し”で止める。
戦いを見守っていた騎士や女王の家臣から驚きの声が上がった。
カレンがほうという表情で静香を見た。
「貴女、若いのに良くそこまで私の槍を見切れるわね」
「貴女こそ。ここまでの手練れとは―」
カレンは隙ありと見たのか、更に突きを繰り出そうとした。
静香は“神殺し”で突きを受け流す。
「今の突き――本気じゃなかったわね」静香は静かに言った。
「さっきの連続突きを見切られた時点で私は打つ手無しよ。澄川静香――深緋の稲妻の鎧、貴女に相応しい。スカーレットライトニングの名を継ぐに値するわ」
静香は答えた「運が良かっただけ。もう一度見切れと言われても出来るかどうか自信は無いわ」
「謙遜は美徳じゃないわよ」カレンは微笑んだ「女王陛下、私――カレン=ファルカンソスは澄川静香を戦士と認め、深緋の稲妻の鎧を彼女に託したいと思います。お許しいただけますか?」
「認めましょう――正直貴女が勝てないとは思わなかったわ、カレン」エセルナート女王がくだけた口調で言う。
「澄川静香、貴女は立派な戦士よ。貴女と七瀬真理愛の二人なら邪神アリオーシュを倒せるかも。私やカレンは戦いに出るには老いすぎている――若い貴女達に任せるのが一番良いのかもしれない。神々もそう望んでおられるのでしょう」
「マリアやホークウィンド卿やラウル司教、治癒術士アリーナ、傭兵戦士アトゥームの援護が有ればこそ――です。私一人では到底戦えません」静香は答えた。
こうして深緋の稲妻の鎧はスカーレットライトニングの称号と共に静香のもとにくることになった。
* * *
カーラムは目を開くと「納得したよ。確かに君に相応しい。ラウル司教の見立ては間違ってなかったわけだ。アリオーシュと皇国には脅威だろうね」
「さて、これで大体は良いかな」カーラムは言った。
「血は魔法で抜き取って保存の魔法のかかった瓶に入れる。血を抜く魔法はアリーナにかけてもらう。それなら安心だろう」
ラウルが強制の魔法をかけ、アリーナが血の魔法をかけた。
7人と吸血鬼の間に約定が交わされたのだった。
※ 深緋の稲妻“スカーレットライトニング”の鎧 設定画
いかがだったでしょうか。
今回書いてて思ったのは、やはり戦闘シーンが書きやすいという事ですね。




