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いつか思い出すこと  作者: 小林るこん
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裏切りの言葉

クラスメイトが甘酸っぱい恋愛をしていたり、願っていたり、また細かい嫉妬をしている。あたしもそんな感情を味わっていたら幸せにしてくれる人を選ぶコツを掴めていたのかもしれない。

「彼氏にするなら顔が良くて、優しい人がいいよ。些細なことに気づいてくれる人とか」

「浮気しないのが前提だよね。」

「最近彼氏からラインの返事遅いんだよね、ほんとつらい」

ありきたりな恋愛への感想を述べる友人達に相槌を打ちながら、今日彼は会いに来てくれるのだろうかと目線を下にうつす。

長いHRが終わり、図書室で時間をつぶし、一本あとの学校から出ているバスで最寄りの駅まで乗っていく。

10分歩けば家に着くその間によく知っている電話番号から着信が入る。

「……」

「お疲れ様」

車の音だけが聞こえるスマホに声をかける。

「お疲れ様ー」

「おう、疲れた」

もう2年も関係を持っていればこのへんで察しがつくようになるのだが、あえて触れないように受け答えする。

「なず、会いたいよ。もう1週間会ってないよ」

「そうだね。誰のせいだろうね」

この会話はいつもする。笑顔を作りながら。

毎日電話がかかってくるのであればこんなイヤミな女にはならない。毎日連絡さえとらせてくれるのであれば、泣く日はなくなるのだろう。また、それ以上に。

彼がバツイチじゃなく、彼の血が混じる子供が2人もいなかったら何も望まず綺麗な感情でいられたのに。

なんて、ネガティブになりながら彼と何の身にもならない会話を繰り広げている。

「ひろちゃん、今日も愛してるよ」

そろそろ電話を切ろうかと思ってる彼に助け舟を出す。

「お仕事お疲れ様、またね」

「うん、じゃあね」

電話を切り、家に着く。制服をハンガーにかけ、そのままベッドに倒れる。

目元に腕を乗せ何も意識せずとも流れる涙を拭う。

ああ。本気になった方が負けだ。



あたしは、18歳年上の人で建設業で働いている恋人がいる。6年前に離婚したらしい彼にはあたしと2才と4才しか離れていない子供が元妻とどこかで暮らしている。15歳の頃、友達の従兄弟として知り合い、その夜3人で飲んだときに、ノリで連絡先を交換してしまったことがきっかけだ。それから毎晩のように泣いている気がする。きっとトイレをするよりも運動をするよりもこうやってベッドで横になりながら眉間と手に力を入れて泣いている方があたしの身体の循環ははるかにいいだろう。


出会った日の2日後に彼から電話が来て、夜中にひょっこりと逢いに来た時からあたしはこの人を好きになると思った。その時別に同い年の彼氏がいたが、もともと年上好きだったことと彼から、

「2番目でもいいからお試しで付き合ってよ。嫌になったらふっていいから」

と言われ、楽な恋愛が好きだったあたしはすぐにOKしたのだ。

無邪気な好奇心。たったそれだけ。

あの時のあたしにそれが無かったらこんなにも空虚で冷めた気持ちは持たなかっただろうか。

もしくは出会った日の四日後に言われた言葉をきっかけに彼をすっぱりと切れていたらあたしは通知音に囚われることも無かっただろうか。

「妊娠したら絶対堕ろしてもらうからな」

それは2回目に身体を重ねた日に言われた。避妊が嫌いだと言われ、何もつけず、ただ中には出さないようにしていた。

あたしはこの時、自分の中で何かがぐるりと回り、そして、目頭以外が急激に冷めた。肩の力以外が全て抜け、隣で横になっている彼がくしゃくしゃでおぞましいものにみえた。

一呼吸つき、彼の言った言葉が、自分と彼との間にどこまでも太い線が1本色濃く引かれたのだと悟った。目を細め、薄く笑い、傷口を見せぬようにシャワールームへ向かった。

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