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9 冷たい人

結局小バトルシーン入れました。


「あの邪王龍が、魔力封印しすぎて生活苦戦中ですか!?」


 一人の少女ーカタリの衝撃の声が響いた。


 隣には焚き火をしようと木を一生懸命くるくる回している邪王龍の姿があった。


「……まぁ、そうなるな」


 作業に集中しているためか微妙な返答がかえってきた。

お気に召さなかったのか、カタリは頬をぷくっと膨らませていた。


『集めてきたやすよ!』


 プカプカと浮かんで近づいてきたのはボロウサギの生首ーランドルだった。後ろに大量の薪を浮遊しているのを見たところ、なにやら今回もパシリにされていたようだ。

 ちなみにこの薪は邪王龍が魔力弾でバキバキ割った枯れ木たちであった。


「あ、お疲れ様です」


 ランドルが運んできた枯れ木たちを受け取り、せっせと焚き火の土台を組み立てていくカタリ。そんなカタリをランドルは可愛い我が子のような目で見ていた。


『いやぁ、いい子やすねぇー』

「バカ言え。あの盗撮動画の冒頭を見ただろ? コイツの本性は他にあるんだよ」

「そ、それをいうのはNGです!」


 いつの間に三人がこんなに親しげ(?)に話しているのかというと……。


 実はお互いに事情を話し合っていた。それはもちろん『幽囚中』のあの動画をめぐって。プライベートに当たり障りない程度に論争していたがあっという間に日が暮れてしまっていたのだ。


 三人とも帰る場所がないため、野宿という方向に決まっていった。そこで暖を取るのは必須だった。特に血まみれの邪王龍とカタリの服は完全に温かさを失っていたため、寒気にさらされている状態が続いていた。


「……火、つきませんね」

『主、もしかして不器用やすか?』

「うるさい! それならランドルがつけてみろよ!」


 邪王龍は木を投げ捨てて諦めた。大役を押し付けられたランドルは……。


『フフフ。アッシをなめてもらっちゃ困りやすねぇー』


 いつになく自信あり気だった。




『精霊よ! 我に従いて地獄の炎の力を与えよ!<火の精霊・祈祷(ファイア)>』


 呪文を唱えると口から火を噴いた。


「あなたは魔法が使えたのですか!?」

 素直に感嘆するカタリ。もう一方は……


「地獄の炎、しょぼ」

『ヒドイやす!!』


 いつものように皮肉っていた。


「そもそも魔法なんて使ってないだろ? 魔力が使われたように感じなかった。ということは冒険者の忘れ物の中にライターでも入っていたんだろ?」


『うぐっ! お見事やす……』


 ランドルのトリックは簡単に破られてしまったようだ。ランドルはどこか悔しそうにしていた。



『でもでも、もう少し感謝してくれてもいいと思うやす。ほら、あの子のように純粋な心で……』


 カタリのほうへ目線をやると、


「きゃああああ!! 火事です!!」


 パニック状態に陥って逃げ回っていた。事情を察するに、村が炎で焼かれて灰になった時を思い出したからだろう。 



『お、落ち着くやす! いざという時は主が何とかしやすから!』


「こんな魔王っぽくない人、信用できません!」


 そのカタリの言葉は邪王龍のハートにぐさっと刺さった。


「その言い方はひどくないか!? なんにもできないけど!」


「やっぱり!」

『……否定はしないやす』


「それが問題なんだよ!!」


 邪王龍は涙目でツッコんだ。


 未だに動画を取り返せていない原因は”魔王っぽくないこと”にあった。カタリはただの動画泥棒だと疑っているのだ。もちろん、何度も俺魔王的主張は行ってきたがカタリが納得することはなかった。



『取り敢えず離れたところにいたら(動画が)危ないやす。こっちに来るやす』


「……はい。ですがひとつ心配なことがあります」


 カタリはもじもじしながら邪王龍を指差して言った。



「あなたの体に火が燃え移っています」



『……………………何やってるんやすかあるじぃぃぃぃ!!』



 お世話係は二人の面倒で頭を抱えた。

 


「いや、これは大丈夫」


 カタリの言う通り、邪王龍の体は火が燃え移ったように()()()()()()()()が、本人は痛そうにも辛そうにもしていなかった。



「まさか邪王龍の”なりきりスキル”で焚き火になったのですか!?」


「……………………あーうん。そーそー」

『主のそんなスキル聞いたことないやす!!』


「できないなら邪王龍じゃありませんね」


「なんだよその理論!?」



 そして邪王龍は調子にのった。


「俺の体は今超あったかいから、ほらほらこっちにおいで」


「…………変態ですか?」

『誘拐犯の手口やすね』


 さすがのカタリもこの発言には引いていた。


 もちろん”燃え移った”のも"なりきりスキル"もジョークである。この煙は火の光が邪王龍の体に当たって魔力を供給し始めた印だ。


 より距離が遠ざかる二人。いつもの癖でひとコント成立させてしまったランドルだったが、こんな状態が続くのを本気で困っていた。


(こういう時は一番まともなアッシが引っ張るべきやす!) 

 

 自画自賛のランドル様がお答えになったのは……



『そうやす! もう寝やしょ?』



「早えわ!」「血が臭くて眠れないです!」「どこに寝るんだよ!」「火のつけっぱなしは危ないです!」「凍え死ぬし!」「動物に襲われます!」「お前のイビキうるさいし!」


『最後のは余計やす!』


 案の定二人は攻めるように訴え、非難の嵐が起こった。予想外の二人の気ままさにランドルは顔を引きつらせてよりホラー顔になっていた。



「それより動画だ!」

「あげません」


 今回も素晴らしい即答だった。


「そもそも名前も知らない人にこの動画を託すことはできません」


「だーかーら、俺の名前は邪王龍だって!」

「それはすでに嘘ってわかってますから」


「なぜだ! この動画におさめられている邪王龍の人間の姿も声もバッチリ俺じゃないか」


「それはそうですけど……あなたからは全く魔王らしさが伝わってきません。それこそ誰かが化けているのかもしれませんし」


「そういう知能はあるのに俺のことは信じないんだな……」


 邪王龍はもう手づまりだった。



 そこでランドルはずっと思っていたことを口にした。


『そこのねーちゃんは”重度の邪王龍ファン”ってことやすよね?』

「ち、違いま……せん」


 カタリは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにめを目をそらして体をもじもじしていた。


「そうか、俺にファンができたか……」

「だから! あなたのことが好きなのではなく! 私が好きなのはじゃおう邪王龍なんです!!」


 邪王龍もカタリと同じぐらい顔を赤らめた。誤解されているとはいえ、この状況は告白されたようなものだった。ランドルは心の中で『あらぁ……』と二人の青春(?)を見守っていた。




「おじ様の話を聞いて、興味を持ったんです。それからこの心の中の興奮が抑えきれなくなって、おじ様や村の冒険者に頼んで写真を撮ってきてもらうようになったんです」


「だからカメラ持って頻繁に戦いに来るやつがいたのか……」



「そして私はやっとあの方の動画を撮ることを決心したのです」


「そんなに良かったのか?」


 カタリは今にも泣き出しそうなほど感動していた。いつまで聞いても邪王龍とランドルは疑問符を浮かべたままだったが、カタリは話し続けた。



「村が焼き滅ぼされて、優しかった村の人も私を育ててくれた家族もいなくなって、牛人間からただ逃げ回っていた時、この動画を見つけたんです」


「そんな壮大な話なのか!?」



「冒険者さんたちとの会話は別世界のように明るくて元気をもらいました。邪王龍の力ならすぐに倒せてもおかしくないのに手加減してくださって、ひとつひとつの咆哮がツッコミを入れるようにも聞こえて面白い方だなって思ったんです」 


「あーはい。そうですか……」

『まったく良さが理解できないやす』



「それにカッコいいじゃないですか! 人間の姿になっても、というか人間になったらかっこよさ倍以上ですよ!」


「……」『……』


 とうとう邪王龍とランドルは呆れていた。この少女の熱量に。

 また、今のカタリは”撮影モード”のように生き生きしていた。本人は気が付いていなかったが、このあふれ出すテンションは間違いないだろう。



「ですから、あなたのような偽物さんには邪王龍の名を名乗って欲しくないのです!」


「じゃあ、俺に名前をつけるとしたら?」


 斜め上の回答をする邪王龍。邪王龍という名でしか呼ばれてこなかった彼としては当然のことだと思っていた。


 一方、言った本人であるカタリは他人の名前をつけるなんて考えていなかった。「うーん」と唸り続けた結果。




「”冷たい人”です」




「………………………………………………ハイ決定」



「ほ、ホントにいいんですか!?」


 邪王龍改め冷たい人は意外にも首を縦に振った。理由は『他の案を考えるのが面倒くさかったから』だろう。ノリとはいえ、他人に使っていけないような言葉で名付けてしまったのを後悔していた。



『”冷たい人”っていいやすねぇ。主にピッタリやす!』


「俺は完全なる無自覚なんだが?」


「それならやっぱり変えるべきではないでしょうか?」



「その前に例としてお前の名前を教えてほしい」

『”色気の魔王”って長くて呼びにくいやすからね』


「私は森島語(もりしま かたり)です。アドベンチャーネームがカタリです」


 彼女は動画のオープニングで毎回自己紹介しているはずだったが、いざ人前に出ると肩をすくめていた。


「アドベンチャーネームってあだ名のことか?」

『まぁ、そんな感じやす』


 「ふーん」と言って顎に手をあてて考え込む邪王龍。しばらくすると口を開けた。


「お前の名前、参考にもならなかったな」


「悪かったですね!」


 ”撮影モード”のカタリは絶好調だった。



「じゃあ、俺の名前は冷たい人。アドベンチャーネームは冷人(れいと)で」


「もう名前が冷人でいいですよ!」


『えー、冷たい人の方がー』

「何か言いましたか?」

『なんでもないやすっ!!』


 カタリの闇属性の笑顔にランドルは危機感を察した。


「結局俺の名前はレイトでいいんだな?」


「はい! あなたは邪王龍ではなくレイトさんです!」


「まだ疑ってるのか……」


 レイトはあまりの自分の信用のなさに溜息をついた。


(今までの会話でそこそこ親密度は上げられたと思う。さて、これからどうやって納得させるか……)




『見つけたぞ』




 ノイズが混じった鈍い念力が頭の中に響いた。


「あ、あれは……」


 カタリは尻もちをついて泣きそうな顔で怯えていた。


「ヌデオか」


 特に驚く素振りもなく振り返るレイト。



 彼らの後ろには同じように血にまみれた牛人間が立っていた。ところどころに傷があり、(レイトほどではないが)ひどく魔力も減少していて、眉間にしわをよせて激おこな様子を見たところ、体も魔力も心も限界の状態のようだ。



「あの魔王はあの谷に落ちて対魔王魔道具の餌食となり死んでいったのではなかったのですか」


「いや、死んでないし死なせる予定もなかった」


 レイト改め邪王龍はいっさい顔色を変えず返答した。


「どういうことですか?」



「簡潔に言うと、俺の要件が済んだら、()()()()()()()()()()()()()()()()って思ってたんだよ」



 カタリは撃ち落とされたように血の気が引いていった。


「私にははじめから味方なんていなかったということですか……?」


「まぁ、そういうことだ。ってことで後ろで順番待ちしている奴がいるんだから早く渡してくれないか?」


 邪王龍はカタリに向かって手を差し伸べた。それは救いの手ではなく、亡びを誘う手。


(この動画を渡してしまったらこの人は私を置いてすぐにどこかへ行ってしまいます。それならば渡さないままが良いのでしょうか。いいえ、その時は私を殺してから奪うように思うのでしょう。

 私には彼の考えはわかりません。ですが……………………私の思いは決まっています!)


 カタリはその手を掴むことはなかった。その代わり邪王龍を睨むようにして言った。


「何度も言っていますが、この大切な動画は誰にも渡しません!!」


 カタリは死を覚悟すると涙が溢れてきた。


(家族や村の人たちからもらったこの命をこのように亡くすなんて、私は恩知らずです……)





「そうか…………………………………………ならいいや。」


「え?」


 カタリが問いただす前に邪王龍の手は動いていた。


「退場だ。ストーカー」


 魔力弾を高速生成し、ヌデオの頭をぽろっと外した。ヌデオの首から大量の血が噴水のように噴き出た。

 焚火で補充しておいた魔力をフルに使って攻撃力が増し、なにより魔力弾の形は”球”ではなく”刃”になっていた。これによりサクッと首チョンパできたようだ。


 しかし魔力弾の”刃型”は集中力を大幅に消耗する。そのためいつになく邪王龍の息切れは激しかった。邪王龍はすぐに”球型”に戻した。


 邪王龍の体がふらふら揺れ今にも倒れそうになっていた。それをカタリは抱きつき、後ろから支えた。



「やっぱりこんな格好悪い姿が邪王龍なんてことは絶対に信じませんが、あなたのことは信用することにします。……冷たい人なんて言ってごめんなさい……」


 カタリはまたに「ひくっ」としゃくり上げていた。邪王龍の服の上からまた何かの液体が染み出しているのを感じた。


「いや、お前が俺を冷たいというのは間違っていない。それに俺は誰かに好かれるようなことはしていない。だからおかしいのは今のお前の方だ」


「そんなこと……ないです。私は―」


 ドガンッ。


 カタリが何かを言いかけている時に、不可解な音がした。


 何故か一気に力が抜けたように崩れ落ちるレイト。その腹にはいつの間にか大きなあざができていた。


「レイトさん?」


 カタリは心配そうに声をかけた。


(また、大事な人をなくしてしまいました……。私は……)



『残念だ。俺の本体は別にあることを知らなかったなんて』


 頭は切り離されたはずなのにヌデオには未だ意識が残っていた。カタリにはレイトを嘲笑するような殺意のこもった念力を聞くことはできなかったが、目の前で仁王立ちするヌデオの首なしがやったことはわかった。


 カタリは目一杯にヌデオを睨みつけた。今度は恐れることはなく、怒りのあまり噛みつきそうな勢いだった。



「そのことなら、知ってた」


「無事だったんですね!」


 やられたと思ったレイトだったが、ダメージは大きかったものの死んではいなかったようだ。カタリは嬉しさのあまり泣き出しそうになっていた。しかしそれに構っていられるほど状況は芳しくない。


 レイトは弱りながらも威嚇を続けた。


「あんなに俺に恨みを持っていた奴が死んだら”ホタル”になって襲って来るのは当たり前だからな」


ありがとうございます!


12/5には投稿できずすみませんでした。本当に申し訳ありません。次回は気を付けたいと思います。


さっそく矛盾がありましたね。なりきりのシーン、一部直しておきました。すみません。


ここで重大発表です。多分次回で最終話になります。「あれ? それって1章完結ってことだよな?」とお思いの方がいましたらすみません。次回で投稿自体を打ち切りにさせていただきます。


理由はこちら側の諸事情という曖昧な回答でお許しください。


機会があれば続編も書くかもです。


ともかく、次回最終話、もしよければ読んでいってくれるとうれしいです。投稿日ですが、12/22の夜の予定です。変動する恐れもありますが、その時はご了承ください。なるべく予定通り投稿できるようにします。


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