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4 死者の光 前編


「ふう、なんとか部屋に入れたな」



 なんとかミニゴブリンの群れから逃げ切り、ランドルのいう空き家に入った2人は一息ついていた。


 邪王龍は案の定手荒く地上に降ろされた。


『はぁはぁ、ホント、どこまで使い魔に迷惑かけるつもりやすか……』


「だーかーらー、使い魔は使うものだって。あ、でもちゃんと1つの生物としての権利は認めるぞ。道具はこんなに生意気じゃないからな!」


『自覚はあるやす。直す気はありやせんけど』


「ないのかよ!?」


『どっちにしても、主は道具として扱わないことぐらい、嫌ってほど分かっていやすから』


「ランドル……」


 初めてランドルとの深い関係がうかがえる発言。


『パシリにしたいだけなんやしょ?』


「正解!」


 ……2人はやはり主従関係でしかなかった。




『主は不自然なくらい全然疲れていやせんね』


「そりゃあ、ぶら下がって魔力動かしているだけだからな。高速で引きずられてる感じでめっちゃ肩外れそうだけど魔力で補強したから今は全然大丈夫だし」


『え、主ってそんなすごいヤツでやしたっけ?』


 実は邪王龍はすごいヤツだった。


 それも”魔力使いの天才”と呼ばれてもおかしくないほどに。


 基本的に魔力だけで生きられるし、魔力で傷を回復できる。他にも魔力の性質をいじくったり、他人から奪ってこれたりなど、かなりチートだった。


 しかし、魔力が格段に少ない今、そのチートを有効活用できないものも多くあるため、”どうしようもない間抜け”扱いされているのである。


 実は、おなじみの魔力弾はもちろん、ずっとランドルの尻尾を掴んでいられたのも魔力のおかげである。自分の魔力とランドルの魔力を一時的に結合させたのだ。邪王龍の体は主に魔力でできているため、手の皮膚も魔力製だ。


 つまり、邪王龍は意外とすごいヤツだった。


「オイ! 俺をなめすぎてないか!? 俺は元魔王だぞ?」


『とうとう自覚したんやすね。()


「強調はするな!」


 こんな姿なのに、すごいヤツだった。




「そういえば、あのミニゴブ、俺を人間としか見ていなかったな。封印してあるとはいえ体の中に入れっぱなしだから魔力は感じるはずだろ?」


『主を基準にして物事を考えちゃいけないやすよ……』


 実際、邪王龍がド間抜けを起こした例のあの時、ランドルは邪王龍の変化に全く気付いていなかった。


 そもそも意識的にでしか魔力の大小をつかむことができないのに、封印されて隠れている魔力を感じとるなんて魔王級か英雄級でなければ不可能だ。


 しかし、それが邪王龍には理解できず、結局「ふーん」で終わった。




「それでさ、ランドル」


 突然邪王龍がランドルを呼んだ。


『何やすか?』




「俺たちの目の前から魔王級の魔力を感じるんだが……」




 目の前には仙人っぽいおじいさんがいた。


 白く長い髪、そこそこ長いひげ、原始人のように布一枚を巻き付けて、背中には明らかにただの鳥とは違う白い翼-"天使の羽"が生えていた。


 それが大量の魔力と、かなりの殺気を漂わせて……。



 ランドルはただにこやかに言った。




『あぁ………そりゃあ、魔王でやすから』




「オイ、ランドル!! ここ、空き家って言ったよな!?」


『しょうがないじゃないやすか! 新しく入った魔王がいるなんて聞いていないんやすから!!』



 「一瞬でも安心した俺がバカだった!」と邪王龍の怒号のマシンガンは止まらない。



「ミニゴブよりヤバい敵とやるなんて無理だろ!?」


『諦めちゃダメやす! ……きっと逃げ切れるやす!』



 口調と根性と笑い方以外は真っ直ぐのはずのランドルさえ逃げる前提の考えだった。邪王龍に影響された可能性もあるが、どちらかというと圧倒的な仙人のヤバい人オーラを感じ取っての事だろう。


 そんな中、新しい声が上がる。


「残念ながら出入口はもう閉めた。お主らの逃げ場はないと思え」


 それは仙人のものだった。彼は見違えようのない"天使"だったが声を発することもできるらしい。


 そして、ランドルの念力まできこえるようだ。


「オイオイ! 他人の念力を勝手に感知するってプライバシーの侵害じゃないか? いくら魔王でも節度を持った絶望布教活動をだな……」


「人間にあれこれ言われる筋合いはない」


 この一言に邪王龍は少しムカッときた。



「お前本当に話盗み聞きしてたのか? 俺は厳密には人間じゃないってんだ」


「魔王とは絶望を与える者のことであり、人間は絶望を受ける者である。今のお主は後者だろう?」



「そうとは、限らないぞ?」



 邪王龍の声色が変わった。それと同時に場の雰囲気も一気に閑散とした。当然、今の邪王龍にそんなことを意図して演出するための魔力なんてない。


 これは完璧に邪王龍の声色(マジトーン)だった。


 ランドルは今までの経験から嫌な予感を察知した。


 だいたい、こういう雰囲気が生まれたときは……。



「そもそもお前の理論には矛盾があるからな」


「矛盾?」


「世界のすべてに絶望を与えた魔王がいたら、その他は全部人間か?」


 ありえないほどの極論。唯一神ならぬ唯一魔王説だ。


「そんな者いるはずないだろう?」


 仙人は首を傾げてさも当たり前のように言った。


「ハ、これだから新人は」


 邪王龍は心の底から嘲笑した。


 ランドルは心の中で『明らかに子供の姿の主が老人に新人って言うのは絵面的に合わないやしょ』とツッコんだが、こんな空気の中言える勇気はない。


 そして、魔王にとって絶頂の見せ場(くうき)の中、邪王龍は言い放った。




「俺が邪王龍(ソレ)なんだよ!」




「…………………………………………………嘘つけ」


「嘘じゃねえよ!!!」


 正直、邪王龍はこう言われるのではないかと予想していた。そのためグットタイミングでツッコミできた。


 それより問題はこれからだった。



「そうか、それが真実であるならば力で証明してみせろ!」



 それが戦闘開始の合図だった。



 やっぱりという顔でランドルは邪王龍を浮遊させた。


「うわぁ!」


 突然、邪王龍がいた足下の地面が盛り上がり、火を吹く。


 当たり前のように繰り出す大規模な奇襲。


 邪王龍はランドルのおかげでなんとか無傷だった。


「攻撃力も俊敏性も二重丸かよ……」


『魔王やすからね』


 ランドルはさっきからそればかり言っているような気がした。いや、本当のことなのだが。


 ランドルはいつもよりどこか慎重になっていた。



『主、さっきと同じ戦闘スタイルでいくやす』


 邪王龍はこくんと頷き、ゴブリンの群れを蹴散らした、使いまわしの魔力弾(あいぼう)を仙人に向ける。


 仙人が何もなかったところから黄金の弓を取り出した。


 厳密には何もなかったわけではない。仙人には”時空の裂け目”と呼ばれる高性能収容道具を持っていた。サイズや数に限界はなく、中が散らかっていたとしても欲しいと思ったものが光の速度並みで飛んでくる。


 その中にはお宝級の代物がごろごろあるわけだ。黄金の弓もそのひとつだろう。



 仙人がそれを掲げると、散弾銃のように魔力製の矢が四方八方から飛んできた。


 時空の裂け目を見た瞬間、ランドルは歯噛みした。


 もはや自分のレベルではないと悟ったのだ。しかしこのままランドルが諦めてしまったら今の邪王龍は確実に死ぬだろう。


(ク○間抜けな主のためならば……抗ってやるやすよ!)


『主、80キロ出してもいいやすか?』


「嫌だと言いたいがこの状況なら許す! ただし俺がバターにならないようにそれなりの配慮はしろよ!」


『無理やす!』


「オイ! そこは了解って言-ギャアアァァァァ!!!」


 邪王龍は割と本気で意識が飛びそうになった。


 それもそのはず、ランドルは80キロと言っておきながら、時速100キロ出していた。とうとう生身の人間では耐えられないスピードに達しているが邪王龍はなんとか生きていた。


「ゴフッ!! ランドル! 避けきれてないぞ!」


『文句言うなやす!』


 その上、魔力製の矢は紫色の()を発しながら飛び交っていた。それが邪王龍の頭に直撃する。


 しかし、邪王龍は白い煙を上げただけで未だ生きていた。


「ん? そうか!!」


 邪王龍は光エネルギーを吸収する。だからランドルはわざと当たりに言っているのである。


 シューティングゲームでいうと、飛んでくる相手の攻撃にわざと全て当たっているというカオスゲームになっていた。


 さすがの仙人も気がついたらしく1400発ほど撃ってから攻撃スタイルを変えた。


 今度は時空の裂け目から明らかにヤバそうな金色の矢が筒ごと出てきた。



「オイオイオイ! なんかヤバくないか!?」


 発射された魔力製の矢1400本のうち、当たったのは1200本程度。くらったものの中でも本気で避けられなかったのが約1000本。


 そんなものを本当の矢で受けたら真面目に死ぬ。




「終いだ。偽りの魔王よ。このセルレスがお前の首を取る」




 黄金の矢が降り注いだ瞬間、


『……セルレス?』


 突然、邪王龍が握るビー玉がまばゆく光った。


 その光は黄金の矢を飲み込み、灰にした。


「な、何が起こった!?」


 戸惑いの中、戦場に灰の雨が降る。


 セルレスは動揺して固まっていた。



『あ、主ぃ……なんか……でる、やす……』


「は? 下呂がか? こんな時に! 今のうちに降りるぞ!」



 ランドルは急降下し地面に着地した。邪王龍はふらっと倒れそうになったが無事だった。


『じゃあ、遠慮せず出すやすよ』


「ああ、静かにな。不快な音を立てるなよ」


 ランドルの心配だか自分の心配だかわからないようなセリフだったが、そのおかげでランドルは隅の方に飛んでいき用を済ませることができた。



 そんなやり取りをしている最中に、セルレスは正気に戻ってしまった。


「やってくれるではないか!」


 セルレスは時空の裂け目から直接何万もの黄金の矢を飛ばしてきた。


 さっきとは比べ物にならないほどのスピードで。



 当然、今の邪王龍に避けられるはずがない。


 セルレスの声に反応して振り返った邪王龍の体を矢が一突きにする。


「ガッ!」


 さすがの邪王龍も体に穴が開くような痛みには耐えられなかったようだ。


 踞りながらセルレスを睨んだが……セルレスはまた驚いたような顔をしていた。




「……………………なぜ一発しか当たっていない?」



 普通ならば何万もの攻撃の嵐の中にいたら穴だらけのミンチになっているはずだろう。しかし邪王龍にあいた穴は1つだけ。


 その原因は……



『前世の借りは返したぜ。元英雄』



 ランドルが吐き出した空き瓶の中にあった。


 これは邪王龍にとっては空き瓶ではない。中にはぽっと小さな光が入っていた。


『お前は確か……ユタ、か?』


『そうそう。お前が殺した仲間のユタだよ、元英雄様? 今は邪王龍って呼ばれてるんだっけ?』


 少年のような若々しい声。声の主は少し反抗的な態度をとっていた。


 そして瓶の中から殺気を感じる。



 間違いない。この念力は瓶の中の”アレ”からだ。



-『お前が殺した仲間』。『元英雄様』。


 実はユタは英雄が邪王龍化した目撃者の一人であり、被害者でもあった。


 邪王龍には英雄時代の記憶がない。あるのはその負の感情だけだ。


 だから英雄がユタとどんな思い出をつくり、どのように笑いあっていたかは全く知らない。



 また、ユタも勘違いしていた。


 英雄と邪王龍はイコールではなくニアイコール、同一人物ではなく英雄から生み出された、いわばクローンのようなものだ。


 だから邪王龍は実に微妙な顔をしていた。



『ゲホッゲホッ。どうしたんやすか、主?』


 吐き終えたランドルが瓶を浮遊させてよろよろと戻ってきた。


 咳込んでいるがランドルは無事一発も当たらなかったようだ。



 それはこの瓶の光(ユタ)-『ホタル』のおかげだろう。 


 ちなみに『ホタル』とはただの虫の方ではなく、邪王龍に因縁がある死者の魂のことを邪王龍が勝手に呼んでいるのである。


 このホタルは邪王龍以外のものには見えないし、聞こえないようだ。


 ホタルとは一体何なのか。なぜ死者の魂が現実世界に存在しているのか。なぜ邪王龍にしか見えないのか。


 ホタルに関しては未だ謎だらけだった。



「いや、問題ない。っていうか問題はあるが……まぁ多分大丈夫だ」


 邪王龍は反動をつけてやっとのところで立ち上がった。しかし腹の傷はまだ痛む。機敏な動きは難しそうだ。



 邪王龍は適当に返事をすると再びユタとの念話を続けた。


『どうしてお前は出てきたんだ?』


『セルレスっていう声が聞こえたからだよ。セルレスは俺の……パ、パートナーだろ?』


 恥ずかしがっているようだ。ゴミ粒サイズで全く姿が見えなかったが、声がしゃくり上がっていた。意外とかわいいところもあるらしい。


 それはさておき、付加疑問で返されたがそんなこと言われても記憶がない邪王龍にはわからなかった。


 とりあえず「ああ」と軽く流した。


『本当はお前を今すぐにでもぶっ殺したいけど、今回はチャラにしてやる』


『お前は実は敵か!? 背中から刺す的なやつか!?』


『うーん、立場上味方の敵』


『結局どっちなんだよ!?』


『うるさいなー。味方だよ味方。ホルは昔からよくまわりとつるみたがるんよなー』


『ホル?』


『ひ、久しぶりにあだ名で呼んでもいいじゃんか!!』


 どうやら英雄のあだ名らしい。


 そしてユタの思春期のデレがおいでになった。


 勘違いのないように付け足すと、今の邪王龍にあおりの精神はなかったため、わざとユタをはめたわけではない。そうではないのだが、邪王龍は反射的にくすっと笑った。



『ど、どうしたんやすか主!? とうとう血がなくなって壊れたやすか!?』


「い、いや。違う」


 顔にでてしまったようだ。念力中のこういう勘違いはよくあった。その度に冒険者たちに気味悪がられたのを今でも根に持っていた。


 話のつかめないランドルはただ無言ではてなマークを浮かべていた。



 ちなみに念力の受信スピードは声や一つ一つの動作よりもはるかに速い。細かいことは色々あるが、要は思ったことが自動入力されて送信するのだ。メールのようなものである。


 だから思ったより時間の流れは緩やかだった。



「さて、作戦会議だ」


 邪王龍は腹の傷を抑えながらゆっくり立ち上がり、空き瓶をキャッチする。



「そんな暇は与えない」


 その時、仙人が弓を下に向かって構えるとゴゴゴゴゴゴゴという地鳴りと共に地面が縦に揺れ始めた。



「地震!?」


『主! 捕まってくださいやし!』


 思わずぺたんと尻もちをつく邪王龍に尻尾のビー玉が差し出される。浮遊しているランドルは平気そうだ。


 邪王龍は遠慮なくぎゅっとビー玉を握った。もう片方の手には空き瓶がある。


『うわっ! 危ね! 俺を粗末にするな! 今のお前の命はいつでも狩れるんだからな! 俺が死ぬ時は道連れにしてやる!』


『あーはいはい。今忙しいからちょっと待て』


 適当に扱われるユタ。とうとうユタはぷんっと怒った。


『むうううぅぅぅぅ!!!』



『主! また地面から火が出てくるやす!』


『お、おう!』


『なんで念力にしたんやすか?』


『癖だよ! 昔からの癖!!』


 全くの嘘である。


 本当はユタの相手とランドルの相手で会話のツールを使い分けていたがごちゃごちゃになっただけだった。だが、事情の説明やホタルの解説がこれまた面倒臭いので投げやりに言った。



『俺に従えばセルレスの怒りも収まるかもしれないのに……』


「本当か!!」


『急にどうしたんやすか!? さっきから主、おかしいやす』


「ランドル! 俺に案がある!」


『な、なんやすか? まさかアッシはパシリを通り越して囮にまで成り下がるんやすか?』


『簡単な話だよ。俺の声がセルレスに聞こえるようにしてほしい。昔からの仲なら上手く説得できるだろ?』


「……」


 急に沈黙が流れる。


 邪王龍は二人の声が重なっていたとしても聞こえていなかったわけではない。その意味を差すのはひとつ。




「…………………………………………ランドル、やっぱ無理かもしれない」



『結局無理やすか!!』


『なんでだよ! 信じていないのか?』


「まぁ、それもあるが……何より俺にホタルの操作なんてできない」


『『ふわぁ!?』』


 初めてランドルとユタがハモった。邪王龍にはステレオのように聞こえているのに本人たちにその自覚はない。それは不思議な感覚だった。



 それは置いといて、邪王龍にはホタルを他人と干渉させる方法を未だ編み出せていなかった。


 というのも、今までホタルを他の誰かに知らせる必要も、知ってもらう必要もなかったからであるが。



 ちなみにランドルはホタルと言ったところで何もわからない。『今は一応季節的に春やすから無理やすねー』と返されるだけだろう。そしてそれに対してこの状況で説明してあげようという気は邪王龍にはない。



 しかし、こんな状況こそ邪王龍の座右の銘「多分なんとかなるだろ!」が発揮する。



「とりあえずお前を仙人に当ててみるか」


 今回も運任せだった。


「ランドル、出来るだけ仙人に接近しろ」


『アッシには何を考えているのか全くわからないやすが……了解やす! 今回ぐらい信用してみるやす!』


「おう! 今回()期待しててくれ!」


 さりげなく強調する邪王龍。



 この会話が終わる頃には地面の上はすでにマグマの溜まり場になっていた。


 ランドルの回避とユタのフラッシュのおかげで今のところはダメージはない。


「世の中で言うところの、ランドルが逃げでユタが受けなら、俺は攻めだな!」


『受け?』


『ち、違うやす! ものすごい誤解の仕方しているやす!!』


「な、ななななんの話をしているのだぁ!?」


 恋愛という面に関して無に等しい邪王龍とユタは純粋なる心で首を傾げる。


 それに対して、理解者であるランドルとセルレスは赤面しながら動揺していた。


「まぁいいや。作戦立てたぞ、仙人!」


「まさかさっきのあれが作戦なのか!? 一体何をする気だ!?」  


 セルレスはある意味覚悟を決めて必死で作戦の阻止を図った。



 マグマの中から太陽のプロミネンスを思わせる火の柱が何本も立ち上り、邪王龍たちを襲う。それプラスアルファで時空の裂け目の連続矢が前方から無数に飛んでくる。


「ランドル! 正面突破だ! どうせ避けられない!」


『えっ!? 本当に大丈夫なんやしょね? 信じていやすよ?』


「信じてるぞ!」


『結局他人任せかよ元英雄!?』


 ランドルは攻撃が来るのをわかっていて突き進むという恐怖におびえながら目をつむって飛んでいる。


 ユタはピカピカ光って攻撃を全て無力化している。


 邪王龍はランドルに捕まってユタを持っているだけだった。これのどこが”(邪王龍の解釈でいう)攻め”だろうか。


『主、もうこれ以上は近づけないやす! 多分あの仙人になにかしらのデバフがかけられたやす!』


「ん? そんな魔力の流れは感じなかったが……」


『かけられたんやす!!』


 どうやらランドルは精神病にかかったらしい。おそらく”時空の裂け目の連続矢恐怖症”だろう。


「まぁ、ここら辺でもいいか」




 邪王龍はにっと不気味に笑った。


『うわっ! な、何をする! 粗末に扱うなって!』


 そして目一杯にユタを振り回し始めた。


 その目線の先にはセルレスがいた。


 邪王龍は大声で言った。



「ほらほらー、この瓶をくらえば幸せになれるぞー」


「そんな怪しい手に誰が乗るか!!」



 当然ながら信じないセルレス。爆弾などとでも想像しているのだろう。


 勘違いされたのは100%邪王龍の日頃の行いが原因にちがいない。


 しかし邪王龍の目的は違う。この場合の”幸せ”はセルレスが亡き友人のユタと話すことであり、それによってこの戦闘が自然崩壊することだろう。


 


「残念だなぁ。本当に幸せになれるのに………………しょうがない。俺が強制的に幸せにしてやるよ!」



 邪王龍はランドルにぶら下がりながら宣言した。


『主、一体何を企んでいるんやすかぁ!?』


「いっくぞ~」


 ユタを振り上げる。


『なぁ、嫌な予感しかしないんだが?』



 そして。



「えい!」


 ユタをセルレス目掛けて投げつけた。



『うわあああぁぁぁぁ!!』



 厳密には約十メートル先のセルレスに向けて投げた()()()()()


 魔力を封印して運動神経が鈍っている邪王龍はボール投げ三メートルの力しかなかった。



 よって、瓶(激おこユタ)はセルレスにあたることなくマグマに向かって真っ逆さまに落ちていった。



 ちなみにホタルにも魔力による攻撃は当たる。つまりセルレスの作った魔力製マグマの中に入ったら一気にじゅわ~っと溶ける。



『この大間抜けめぇぇ!! 死んだら道連れにしてやる!!』


「もう死んでるだろ?」


『そんなツッコミする余裕あるなら助けろ!!』



「………………あ」



『”……………あ”ってどういう意味やすか!?』



「ランドル、瓶取って来い」


『アッシは犬やすか!? それにあのスピードじゃ無理やす!!』


「あ、俺の配慮も忘れずに」


『注文多すぎやすよ!!』



 ランドルは主の意識を半分奪いながら全速力で瓶(激おこユタ)を助けに行った。


ありがとうございます!

誤字多くてすみません。更新が多くなるかもしれません。話の内容をがらっと変えた時はお知らせします。

それと、活動報告書き始めました。


今回の話は流石に長いかなと思ったので前編と後編に分けました。

後編は11月3日(日)に投稿予定です。

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