3-3 ○○は邪王龍へ
ランドルは話している最中に、口から血を吐き出した。
ちょうど邪王龍の頭に降りかかったがそんなことを言っている場合ではない。ランドルの吐血は未だ止まない。
何か策があるわけではないが、邪王龍は血を浴びながら穴の壁を登った。
やっと邪王龍が登り終えるとランドルの吐血は徐々に治まっていた。
「ランドル! 大丈夫か!?」
『ゲホゲホッ。ああ、はい。大丈夫やす。食いすぎただけやすから』
「ん?」
ランドルの言葉を聞いて、邪王龍は察した。そして逆に怖いくらいの笑みを浮かべた。
ランドルがけがを負ったとして、ただの綿詰め人形のどこから血が流れてくるのか、いや、そんなはずはない。ならば、あの血は……ランドルのものではなく、かみ砕かれたミニゴブのもの。
つまり、ランドルは主の頭に……吐いたのである。
血塗れ改め、下呂まみれの邪王龍はただ笑っていた。
「おいおい、ランドル? このダンジョンにシャワールームも服屋もないことは知ってるよな?」
『も、もちろんやすよぉ……』
ランドルは全力で知らんぷりをする。
「おいおい、ランドル? 生臭いんだが?」
『へ、へぇ……それは災難やしたねぇ……』
ランドルは抑えきれない焦りを必死にこらえる。
「おいおい、ランドル? 一発食らわせろ!!」
とうとう邪王龍は魔力不足の中、まさに怒りの<魔力弾|まりょくだま>を生成した。
さっきよりも魔力が増加しているのはミニゴブリンの血(ランドルの下呂)に含まれていた魔力を吸収したためだろう。
『落ち着くやす! ほ、ほら、魔力の無駄使いやす! こんなことしてる時間もないやすし!』
「俺にとっては大事な儀式だ」
『アッシの葬式はまだ早いやす!!』
こんなやり取りをしている間に、ミニゴブリンの援軍がやってきた。
『人間!』
『人間!』
『殺る!』
「ああ、もううっせんだよミニゴブ!」
邪王龍の魔力弾を横殴りにくらったミニゴブたちは壁の向こうまで飛ばされていった。
穴の中で揉まれていた子供とは思えない威力。そしてついさっきまで魔力不足でぶっ倒れていたとは思えないほどの高性能魔力。
「あれ? 俺って弱くなったんじゃないのか?」
『多分、魔力量が変わっても主の1つ1つの魔力の攻撃力は封印前と同じなんだと思いやす。それよりアッシに飛ばした血の方がヤバかったやすけどね……』
解説をしながら、『大事な儀式』が自然消滅したことをランドルは心の底から喜んでいた。
「じゃあ、このまま攻撃していくか。なぁ、ランドル」
『はい! なんやすか?』
ランドルの元気のいい返事。今までの中で一番いい声だろう。
「俺、魔力弾作ったから魔力足りなくなって動けない」
『ブフーッ!!』
予想外の回答、コイツは本当に元魔王なんだろうかと本気に疑ってしまう。
『わ、わかったやす……。今のところはそれが一番効率いいやすもんね』
「よっしゃ!」
まんまと邪王龍の策略にはまったようであまり嬉しくないランドル。それでも結局使い魔はちゃんと主様の命令に従うのだった。
『尻尾のビー玉を”優しく”握っていてくださいやし』
妙に”優しく”を強調するランドル。
「おう!」
歩くという面倒事がなくなった邪王龍の機嫌はよさそうだ。
邪王龍がきゅっとビー玉を握ったのと、ミニゴブたちが走り出したのと、ランドルが全速力で飛び始めたのは同時だった。
邪王龍は腕がもげたような感覚に陥った。
空気が物凄い勢いで振動している。きっとランドルの音速移動と、ミニゴブの死に物狂いの追いかけっこと、邪王龍の魔力弾がミニゴブを吹き飛ばしているせいだろう。
ダンジョンの壁の所々がほろほろと崩れていた。
あちこちで咆哮や雄叫びが聞こえる。ほかの魔王たちも目を覚ましたのだろう。
『このミニゴブたち、意外と手強いな。地上まであとどれくらいだ?』
この状態では声が通らないと判断した邪王龍は念力で話しかけた。
『まだまだやす。やっと5千メートル進んだぐらいかと思いやす』
『マジか。どんどん数が増えてってるぞ?』
『それならここの近くの空き家に入るやす。王国の指示がない場合、ミニゴブリンはボス部屋にはいれやせんから』
方針は決まった。色々あったが地上まで1/4地点まで来た。
邪王龍のスローライフ生活はタイムリミットと共にだんだんと近づいてくるのだった。
『まだ動けるか?』
『吐いたんでもう軽いやす!』
『……時間があったら必ずアノ罰は受けてもらうからな』
『げっ!』
ランドルは場の雰囲気で余計なことを言ってしまったのだった。
ありがとうございます!
次はちゃんとバトルすると思います