3-1 荷物もゴミもランドルへ
早速目的が決まった邪王龍は引っ越しのための高速荷物整理をしていた。
ダンジョンの奥にあるお宝を袋にまとめる。といっても冒険者の忘れ物がほとんどで、金になりそうなものは賠償金返済のために売ったため、ガラクタしか残っていなかった。
気が遠くなるようなガラクタの山をため息をつきながら漁った。
それにはランドルも貢献していた。具体的には邪王龍が投げたゴミを食っていた。
「なぁ、ランドル」
邪王龍がぽーんとフライパンを投げる。
『バギュジュチャ……ゴクン。なんやすか? 主?』
見事なキャッチ。不思議な音を立ててフライパンは消化された。
奇妙なことに、邪王龍は疲れでだるい顔をしているのに対し、ランドルはいつになくニコニコしていた。
「……何を期待してるんだ?」
邪王龍は薄々察しながらもあえて聞く。
『それは、あれだけ働けばかなりのご褒美がもらえるにちがいないやすなぁ。なかったらもう一度蹴るしかないやすなぁ。ってことやす!』
「こんなズタボロの主にこれ以上なんてことしようとしてんだよ!?」
やはりランドルは鬼の使い魔だった。
「でもあれだろ? 使い魔は使うためにあるんだろ? なら俺は上から目線で何の問題もないな! だからランドル、お前に命令を与える!」
『その開き直りの早さににマジソンケーやす……。まぁ、ご褒美は後払いの借金とするやす。それで、なんやすか?』
面倒だと訴える嫌そうな声のトーン。
お構いなしに邪王龍は言い放った。
「お前には荷物持ちをしてもらう!」
『ブフーッ!!』とあまりの予想外に吹き出すランドル。
『それって完全にパシリじゃないやすか!!』
「ああ、楽だろ?」
『楽やすけど! やりがいが全くないじゃないやすか!』
「それじゃ、ご褒美1.2倍で」
やる気のない使い魔を奮い立たせるため、邪王龍はご褒美で釣った。
『2倍やす!』
欲張るランドル。邪王龍が悩みに悩んだ結果、
「……うう。1.5倍っ!!」
『了解やす!』
利害が一致した。
邪王龍が分別し終えると、ランドルは即座に収納を始めた。
ビー玉の穴からできるだけ顔を出し、まとめた荷物を丸飲みした。ゴクンと喉が鳴る。
フライパンの時と違って変な音は出なかったが、その収納法はさすがの邪王龍も心配になった。
「それで本当に大丈夫なんだろうな?」
『問題ないやす! アッシは生首でこのビー玉は胴体のようなものやすから! それに噛んでいやせんから壊れている心配もありやせん!』
いや、そういう問題ではなく……と邪王龍は突っかかっていたが、すでに起こってしまったものはしょうがないので諦めたようだ。
『それより、不都合が起こったやす』
「不都合?」
『このビー玉の容量がいっぱいで体が中に入らないやす。だから……』
「だから?」
『ゴミ吐かせてほしいやす』
「却下」
鋭すぎるほどの即答。せっかく片づけたのにまた汚されるのは気に食わなかったらしい。
その言葉を浴びてランドルは涙を流して訴えた。
『お願いやす! これじゃあ家に帰れないのと一緒なんやすぅ!』
「ゴミ屋敷にか?」
『ゴミ屋敷言うなやす! マイハウスを汚したのは主やしょ!?』
「ゴミはゴミ箱にってやつだな」
『それどういう意味やすか!』
からかい甲斐のあるランドルに邪王龍はくすくす笑った。
「家に入れないならずっと出てればいいだろ?」
『……正論やすけど』
「じゃあ、決定だな」
結局、無理を通してランドルをパシリにした。
「さてさて、ようやく出れるわけだな」
『優雅に気取る時間もないやすけど』
「いちいちうるさいな! 俺にとっては大事な儀式なんだよ!」
『ふーん、そうやすか』
ゴホンと気を取り直して一息。
「よし。じゃあ、出るぞ」
その後、邪王龍はとうとう牢獄の外へ踏み出した。
幽囚されている魔王ならここで電気ショックを浴びさせられて死の一歩手前まで逝きそうになる。
しかし、今の邪王龍は何も感じない。ということは本当に抜け出せたのだ。心の中で邪王龍はガッツポーズした。それが自然と顔にも表れる。
『あの青年みたいに怖じけづくと思いやした』
「こんな感動シーンにちゃちゃいれるな! そして俺とアイツを一緒にするんじゃない!」
……2人は相変わらずだった。
ありがとうございます!
次はランドルが大活躍(?)します。