1 邪王龍
初投稿です。ド素人です。
プロローグが長くなるかもしれません。
追記:軽い説明パートです。
「えーっと、チェックチェック。……大丈夫そうですね」
赤茶色の髪の少女が独り言のように呟く。
彼女たちにとってごく一般的な木製の家の一部屋にポツンと一人座っている。少女は両手で青白く輝く宝石-記録晶石を大事そうに持っていた。
「それでは……始めます」
「す-っ」と少女が息を吸う。
「みなさん、こんにちは! 自称大人気動画『幽囚中魔王物語』縮めて『幽囚中』のはっじまーりでーす!」
少女は明らかにテンションが異なる別人へと変貌した。目の前の記録晶石で彼女の魔力によってカメラのように機能し、撮影しているのだ。
少女の口は止まらない。
「『幽囚中』も今回でその317号です!
なんでそんなに中途半端な数字で盛り上がっているかですか? ………ふふふ、それはですねぇ」
記録晶石の前でニヤッと笑った。
「今回はあの『邪王龍』の回なんですよ!」
「イエーイ」と一人で盛大な拍手。
二度というが、この部屋に少女は一人。事情を知らない人が見たら近づいちゃいけない怪しい人扱いされるだろう。
しかし、彼女はこれまでの316回ずっとこのテンションで撮影してきた。
彼女はとうとう「傍目など関係ない!」と割りきれたらしい。
「今回もこんな感じでウェライズ王国最大の巨大地下監獄『魔王の牢獄』の中で頑張って働いている魔王さんたちをバンバン紹介していきたいと思います。
物語の読み手は私-カタリです!」
テレビ番組ならここで裏方の人が拍手するだろうが、彼女の他に手伝う人はいない。むなしい感じはするがカタリは自分で自分に拍手していた。
しかしベテランは笑顔を絶やさない。
「さて、皆さんは『邪王龍』をご存知ですか?
魔法学校の魔法史の教科書にも載ってくるあの古代の黒いドラゴンです。
しかし、詳しく知っている人はあんまりいないんじゃないかな?
あ、でも現役学生さんは知ってるかもしれない。まぁ、そういう子は後で自慢のお便りちょうだいね!」
ちゃっかりファンレターを強要するカタリ。これがゲスいベテランである。
「えーっと、まず『邪王龍』の簡単な説明ですね」
コホンと咳をこむ。
「『邪王龍』は昔の戦争で勝利を収めた英雄がそのまま亡くなった後に顕現した龍と言われています。それは英雄の負の感情が作った魔物だとか……。
その様子を目撃したという人が書いた記録によると『あの方が塵のように消え去ったと思われたら突然黒龍になり、人々を殺し、戦場を虐殺の場に変えた』ということです。
うぅ。ぞっとしますねぇ」
「その後も『邪王龍』は侵略を続け、分身を使って世界征服を始めました。王国騎士の報告によると異世界まで行っちゃったそうで大混乱!」
「そ・こ・で! 我らが勇者『ウェライズの巫女』の活躍で、見事邪王龍は牢獄行きになったというわけです!
それはつい2年前のこと。これは長年の人々の念願だったんですよ!」
話が一段落ついたところでちょっと一息。
「前置きが長くなりましたね。お待たせしました!
みなさんお楽しみのコーナー『魔王さんお邪魔します!』です!」
暗くなった雰囲気をひっくり返すような明るい声だ。さすがベテラン、このメリハリも人気の一つだ。
ちなみに『魔王さんお邪魔します!』とはこの動画の目玉コーナーだ。
抽選で選ばれた冒険者が魔王と様々な形でふれあうという企画。ふれあい方は戦闘はもちろん、穏和な魔王には面白いインタビューやボス部屋の紹介など、本当に多種多様だ。
「かなり危険な魔王さんですが、牢獄で力が制限されているのでなんとかなるでしょう!
『いざ戦闘になっても相手は手加減して冒険者をぶちのめしてくるんだ!』とおじ様も行ってましたし!」
「さぁて! 冒険者の声が聞こえますねぇ。今回はどんな冒険だったのかな? それではスタート!」
「ねぇカタリちゃん、アップルパイ焼けたけど食べる?」
「うん! 食べる! ……っておば様、い、今撮影中ですっ!!」
トラブル発生。
撮影中にカタリのおばさんが侵入。
その上、カタリのテンションが絶頂の時に他の人に見られてしまったため、カタリは顔を真っ赤にしてとても恥ずかしがっていた。
「やっぱり動画撮っている時のカタリちゃんは生き生きしてるわねぇ」
「そ、そんなことないです。ただ痛いだけです……」
「あらお腹痛いの? じゃあアップルパイはなしね」
「ち、ちがいます! 食べたいです。食べさせてください!」
カタリは撮影を中断して記録晶石をテーブルに置き、勘違いをして行ってしまったおばさんを追いかけた。
ありがとうございます!
誤字訂正お願いします。
感想もぜひよろしくお願いします。
次回はバトルシーンも⁉ ちょっぴり長めです。