表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

第八話 フェルナードの秘策

「でも、聖騎士のアンタですら敵わなかった相手だろ?

俺もタナカが魔物を倒すところを見て知っている。あいつの力は桁違いだ。

自分で言い出しておいてこう言うのも変だが、あいつに勝てるイメージができない」


俺はフェルナードに手を貸してくれと頼んだ。

だがそれは、村の現状を聞いた直後の、反射的な反応に過ぎない。

もちろん、村を助けたいと言う思いに偽りはないが、それでも作戦や勝算があって口にした言葉ではない。


だが、フェルナードは違った。

フェルナードは、もちろんだ、と即答した。

まるで、俺がその願いを口にすると分かっていたかのように。

という事はつまり、フェルナードにはあると言うのか?あの圧倒的な力を持つタナカに対抗するすべが。


「そう不安そうな顔をしないで。

あなたは、私たちの希望なのだから」


フェルナードはそう言って笑った。




***




「実は、この世界ではない別の世界、異世界からやってきた人間と言うのは、タナカだけではないのです」


俺とフェルナードは、俺が寝ていた病院を後にして街外れの古い屋敷にいた。

数年前まで聖騎士団の駐留基地として使われていたこの建物は、今はフェルナードの本拠地になっていた。

聖騎士を抜けたらフェルナードは、タナカに対抗するために、助けられたイザカの村人たちを中心に力を蓄えていたのだという。


「過去にも、数人の異世界人がこの世界へやって来ては、世界の均衡を崩すほどの力で暴れまわっていました」


フェルナードは、屋敷の地下へと歩みを進める。

薄暗く急な階段を下りを降りると、そこには小さな部屋があった。

部屋の一番奥には、聖騎士の守り神の印である巨大な六芒星が燭台の火によって照らし出されている。


「協会?」


「まぁ、神の力の恩恵を受けるという点では近いかもしれないが、ここは教会ではありません」


フェルナードはそう言って部屋の奥へ歩みを進めると、自らの首に下げた六芒星のペンダントを掲げた。

フェルナードに掲げられたペンダントは、燭台が放つ光を受けて輝く。ペンダントは、燭台の光を吸収するかのように、不自然なまでにその輝きを増した。

眩しいほどに光輝くペンダントは、その光りを部屋の奥の大きな六芒星へと映し出した。


ガチャ


その瞬間、何かが外れる音がしたい。


「何をしたんだ?」


説明なく進む儀式に困惑していると、フェルナードが光りを失ったペンダントを胸にしまいながら優しく笑った。


「驚かせてしまって申し訳ありません。

言葉で説明したところで、理解はしていただけないと思いましたので」


部屋の奥の六芒星を向いていたフェルナードが振り返る。


「今、私は鍵を開けました」


「鍵?」


「ええ、ここが教会ではない、と先ほど申し上げましたよね?

ここは、聖騎士団があるものを封印するために作った儀式の間なのです」


フェルナードは壁に飾られた六芒星の前を開け、おれに前に進むように促す。

俺は、ゆっくりと地下の小部屋を奥へと進んだ。

燭台の火の実態が掴みづらい暖かさが頬に当たる。


「何を封印していたんだ?」


フェルナードは個々が封印のための部屋だと言った。

そして、さっき鍵を開けたと言った。

という事は、あの聖騎士団ですら封印せざるを得なかったほどの何が、いまこの瞬間解き放たれているという事になる。


「そんなに、怯えないでください」


フェルナードはまた優しい笑みを浮かべた。


「ここに封印されているのは、ある人物の力です。

協力ではありますが、危険なものではありません。

聖騎士団がそれを封印したのは、手に負えないからではなく、その力の意味を知らないものの手に渡らないようにするためなのです」


薄暗くて、さっきまで気が付かなかったが、燭台が乗った台の下に引き出しが一つあった。

何の変哲も無い、木でできた普通の引き出し。

直感で、そこに何かがあると分かった。


「開けていいか?」


「ええ、その為にここへ呼んだのですから」


俺は、ゆっくりと左手を引き出しにかけた。

長い間閉ざされていたであろう引き出しは、その時間を感じさせないくらいに軽い力で開いた。


そこにあったのは、細くて黒い棍棒のようなものだった。

それが、人の腕のミイラだと気がついた時、俺は無意識にそのミイラを持ち上げ、自分の何もない右肩にそれを押し付けていた。

一瞬で、ミイラと俺の肩は融合した。




そしてその直後、俺ではない誰かの意思が俺の頭の中に流れ込んで来た。









『殺ス……』





人のものではないような声が耳に届いた時には、既に目の前の光景が真っ赤に染まっていた。














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ