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第七話 反撃の狼煙

男は、フェルナードと名乗った。


「私は、聖騎士です。正確には元聖騎士ですが」


フェルナードはそう言うと胸に下げていたペンダントを持ち上げてみせた。

聖騎士が身につける六芒星のペンダントだ。


「私はあの日、あなたの村の要請を受け魔物退治のために、二シュワーの街から大急ぎでイザカへと向かっていました」


あの日と言うのは、タナカが現れ、村が魔物に襲われ、俺の右手がなくなった日のことだろう。

たしかに、村長の指令で聖騎士を呼びに言った村の者がいたはずだ。

タナカが魔物を退治した為にその必要がなくなったので、みんなそのことを忘れて宴会を始めてしまったのだ。

それくらいに、あの時の村は浮かれていた。


そしてあの悲劇が起こった。



「私が村人の案内でイザカへ到着したのは、夜が明ける半刻ほど前の事でした。

大型の魔物の退治にやってきたはずの私が見たのは、逃げ惑う村人たちとそれを襲う魔物……ではなく一人の男の姿でした」



フェルナードが村へ到着したのは、俺が気を失ってしばらく経った後の事だったようだ。

フェルナードは、後からその場に居合わせた村人からの証言と合わせて、あの夜に起こったことを教えてくれた。


「あの日、酒に酔ったタナカは、お酌をしていたイザカ村村長の孫娘の体を執拗に触るようになったそうです。

はじめのうちは優しく静止していたようだが、それでもやめないしつこさに我慢ができなくなり、彼女はタナカのそばから離れました。

どうやら、それが引き金になったらしいのです」


俺はフェルナードの言葉を聞いて絶句した。

そのような些細なことで、タナカはあの行動に出たと言うのか?


「この半年の観察の結果、彼は極端なまでに自尊心が高く他人への攻撃性が強いことがわかっています。

それが彼自身の特性か、それとも異世界に住む人間に共通する特性かはわかりません。

が、私たちの常識で測ることは難しいと考えています」


フェルナードは、諦めた表情で首を横に振った。

それはきっと、半年という時間をかけて得た境地なのだろう。


「タナカはあの夜、村の若い女性を手当たり次第に襲いました。

守ろうと立ち向かった男性たちをことごとく倒しながら。

私が村に着いたのはちょうどそののタイミングだったのです。

私は暴れるタナカに立ち向かいました。しかし、奴の力は私を遥かに上回っており、負傷者を数名救助して逃げ帰ることしかできませんでした」


フェルナードの表情に悔しさが浮かぶ。

聖騎士が、魔物ではなく人間相手に敗北するというのは、俺たち常人には考えられないほどの屈辱なのだろう。


「ちょっと待ってください。

数名しか助けられなかったってことは……」


「ええ、殆どの村人は、今もなおイザカに取り残されています。

これは、何度か偵察を送って得た情報なのですが、男たちはタナカの指示の下奴隷のように働かされているようです。

村の周りには、タナカのものと見られる結界が貼られており、村の中から外へ逃げ出すことはもちろん、外から中へ干渉することさえできません。

なのでこれらの情報は、全て村の外の山上からの観察によって得られた情報です。

外から観察する限り、村の畑で働かされているのは男と年老いた女性ばかり、若い女性の姿は確認できていません。

我々は、タナカが自分の家に若い女性たちを監禁しているものと考えています」



淡々と語られる報告に、俺はもう驚くことすらやめていた。

ただ、体の奥から湧き上がる燃えるような怒りだけが全身を包み込んでいた。



「聖騎士団は?皇国軍は?何をしているんですか?」


自国の領内に独立国家のような場所ができたのだ。魔物退治を主な任務とする聖騎士団はともかく、皇国軍が黙っているはずがない。

だが、俺の希望はあっけなく散った。


「残念ながら、タナカがイザカ村に引きこもり周囲への侵略の野心を見せていないことから、皇国軍の本営は危険度を低く査定し対応が後回しにされているのです」


皇国軍が動かない。

イザカ村が神聖アルベア皇国に見放されたという事だ。

それはつまり、村に残された人は誰も助からないという意味だ。


「リーナ……助け出された人の中にリーナと言う女の子は居ませんでしたか?」


俺の問いに、フェルナードが力なく首を横に振った。


「そんな……」


リーナはまだイザカに居る。

そして恐らくはタナカに……。


「ゔぇ……」


想像しただけで、臓物がひっくり返りそうなほどの怒りが湧いてきた。

右肩が疼いて痛み出し、左手で抑える。


「心中お察しします。

私も同じように、腹わたが煮えくり返る思いです」


フェルナードが俺の右肩に手を置いて言った。


「タナカを倒したい……

あんた、俺に手を貸してくれないか?」


「もちろんです。私はそのために聖騎士団を抜けここに居るのですから」


俺は、右肩に置かれたフェルナードの手を力の限り握った。

フェルナードも、さらに答えて俺の左手を強く握った。












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