死んでたまるか!?
ゲウムの魔法により、俺とカトレアに洞窟の天井が崩れ落ちて迫って来ていた。
「いやーー!」
カトレアは俺にしがみ付き、泣き叫んでいた。
……俺はここで死ぬのか?
俺は、頭上を見上げた。
死ぬ時に、周りがゆっくり感じるとか聞いたことがある。
今がまさにそんな感じだ。
俺は、ゆっくりと死が近づく中で、頭の中で自問自答を繰り返していた。
《こんなところで死んでいいのか?》
《……死にたくない。》
《今の俺に何が出来る?》
《……殆ど魔力は残ってない。》
《じゃぁ何も出来ず死ぬのか?》
《……今の魔力じゃ防げない。》
《……カトレアも死ぬぞ?》
《……カトレアだけでも守りたい。》
《俺が死んだらアイリスはどうする?》
《……アイリスは悲しむかな。》
《……死んだらアイリスは一人だぞ?》
《……。》
《……アイリス。》
《……アイリスを一人になんかさせない!》
俺の中で、アイリスとの出会いや城での出来事、俺を立ち上がらせてくれたこと、カトレアと出会ってからの修行や依頼をこなす日々、アイリスの笑顔が頭の中を駆け巡った。
……俺の中でアイリスは特別な存在だったのだと気が付いた。
「こんなところで死んでたまるかーー!」
俺は残った魔力を掻き集めた。
こんなちっぽけな魔力では足りないと、やったことはなかったが、生命エネルギーも魔力へ変換してみせた。
只々イメージした。
……アイリスの下へ帰るのだと。
アイリス。
アイリス。
アイリス!
俺は唱えた。
「“瞬間移動”!」
……俺とカトレアの姿が洞窟ないから消えた。
俺たちが居た場所には、無数の土砂が埋め尽くしていた。
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サクラとカトレアがオオバコや山賊と戦っていた頃
「もうすぐ山賊のアジトです。」
私はシルビア村から応援を連れて、再び山賊のアジトを見つけた地点に辿り着いた。
「サクラ? サクラ何処にいるの?」
私はサクラの姿が見つからず、名前を呼んでも返事が無いことに焦っていた。
「アイリスちゃん。サクラ君はここで待っている筈だったのか?」
キャトレイ辺境伯が周囲を見回しながら、アイリスに尋ねた。
「……はい。」
私は不安で一杯だった。
サクラは子供だけど物凄く強い。
だけど、連戦による疲れは絶対にある。
サクラにもしもの事があったらと、不安を募らせていった。
「おーーい。こっちに人が埋まってるぞ!」
応援で来ていた人から声が上がった。
「この人! 私とサクラが道案内させてた山賊です!」
私は生き埋めになっている山賊を指差した。
「ん? これは? 『ごめん先に入る』と書かれているね。」
キャトレイ辺境伯が近くの地面に書かれていた書き置きを見つけた。
「そんな!? サクラ?」
私は洞窟に向かって走り出そうとした。
「落ち着くんだ! 一人で突っ込んでどうする! 何のために皆を連れて来たんだ!」
キャトレイ辺境伯は、アイリスの腕を掴んで引き止めた。
「……は、はい。 そうですよね。」
私は直ぐにサクラの下へ行きたいと言う気持ちを何とか我慢して、キャトレイさんの言うことに従った。
「いい子だ。私も娘が心配だが、焦っては助けられるものも助けられなくなってしまうよ。……突入部隊の準備は出来たか!?」
キャトレイ辺境伯の指示により、突入部隊の代表者が答えていた。
「皆頼むぞ! 突撃ーー!」
キャトレイ辺境伯の号令で部隊が洞窟に足を踏み入れたその時……洞窟内に衝撃と轟音が鳴り響いた。
「退避だーー!」
突入部隊の代表者が洞窟崩落の危険を感じて部隊に退避を命じた。
「サクラーー!」
私はもうサクラに会えなくなるかも知れないと感じてしまった。
次の瞬間……
……私は自分の目を疑った。
……サクラ! カトレア!
二人がいきなり私の前に現れたのだ。
「……アイリス!」
サクラが私の名前を呼んだ。
私は二人が急に現れた理由など、気にすることなく二人に抱きついた。
「よかった。二人が無事で本当に良かった。」
私は泣きながら声を発した。
「心配掛けてごめんな。」
サクラが私に心配掛けたことを謝って来た。
「本当だよ! でも、行きててくれて良かった。二人ともおかえり!」
私は二人に笑顔を向けて心からそう言った。
「「ただいま!」」
サクラとカトレアも笑顔で答えた。




