哀しみを乗り越えて
小鳥のさえずりや木が風になびく音がする森の中に、サクラとアイリスはリュウオウによって転移された。
「……父さん……母さん……。」
サクラは、両親を魔人アネモネに殺されたショックから、地面にうずくまり動くことが出来なかった。
「……サクラ王子。」
アイリスは、サクラに寄り添い抱きしめた。
アイリスが声をかけるもサクラは返事をせず、ずっと俯いて目が虚ろな状態だった。
「……私がしっかりしないと。」
アイリスは、自分も泣きたい気待ちだったが、サクラよりも年上の自分がサクラを守らないといけない、との気持ちから何とか挫けずに動くことが出来た。
幸い、目の前には小さな洞窟や泉があった。
洞窟へサクラを連れて行き、サクラが見える範囲内でアイリスは食べ物を探すことにした。
近場の木には赤い果物等が実っており、泉の水も綺麗だったため食料の確保が出来た。
「サクラ王子。何か口に入れてください。」
アイリスが採ってきた果物をサクラに差し出すも、全く手を出さなかった。
サクラが食べないのに自分だけ食べるわけにはいかないと、アイリスも食事を摂らなかった。
アイリスは、両親が殺されたばかりだから仕方がないと思っていた。
しかし、流石に3日も飲み食いせず、衰弱していくサクラを見て行動を起こした。
「……サクラ王子。お願いだから食べて下さい。……このままじゃ……死んじゃうよ。」
アイリスの目からは、既に涙すら出なくなっていた。
サクラに声をかけるも、サクラは上を向いて寝たまま反応しなかった。
「んっ!」
アイリスは口に水を含んで、そのままサクラの口に流し込んだ
アイリスは何度も水や果物を口移しした。
「……ア、イ、リス。」
サクラの目がアイリスを捉えた。
「……やっと反応してくれた。」
アイリスは安堵した。
「……ここ、は?」
サクラは、目だけを動かして周りを見た。
「……分かりません。……サクラ王子……辛い気持ちは分かります。でも……。」
「ッ! 気持ちが分かるだと!? ふざけんな! 目の前で両親が殺されたんだぞ!」
サクラは自分の感情のままに、アイリスへ言葉をぶつけた。
「……ごめんなさい。……でも私も両親を殺されて、私を逃がすために目の前で殺された人がいます。……だから全然分からない訳じゃないです!」
アイリスは泣きそうな顔をしながら、サクラに言葉を返した。
「……ごめん。アイリスは俺を心配してくれて言ってるのは分かってるんだ。でも……。」
サクラはアイリスに頭を下げた。
「謝らないで下さい。……リュウオウ様やキク様は私のことを娘のように、気にかけて下さっていました。私も……。」
アイリスは、リュウオウとキクとの今までのことを思い出し、言葉が出なくなった。
「……そうだよな。父さんも母さんもアイリスを可愛がっていたね。」
サクラはアイリスの涙を拭ってあげた。
サクラも生まれてからの、両親との思い出を思い返していた。
父さんと母さんが生かしてくれたんだ。
いつまでも凹んでいられない。
魔人を倒して、魔神復活を阻止せないと。
「ありがとうアイリス。俺のこと世話してくれて。」
サクラはアイリスに頭を下げた。
「当たり前じゃないですか! 私もサクラ王子に救われたんですから! 今度は私が守る番です!」
アイリスはサクラに助けられ、その後の面倒までみてもらい、心の底から感謝していた。
「女の子にいつまでも守られてちゃ、父さんと母さんに笑われちゃうな。」
サクラは吹っ切れた顔をした。
「私の方が年上なんですから、頼っていいんですよ。」
アイリスは年上感を出すために手で胸を叩いた。
「じゃぁ、今日からはアイリス姉ちゃんって呼ぼうかな。俺のことは、サクラって呼んでよ。お、ね、え、ち、ゃ、ん。」
サクラもアイリスのおかげで気持ちを切り替えることが出来た。
「……お姉ちゃん。私が……いいですね。……でも、サクラ王子を呼び捨てには……。」
アイリスは、お姉ちゃん呼びに笑顔になるもサクラを呼び捨てにするのは躊躇った。
「徐々にでいいよ。それより、アイリス記憶が戻ったの?」
サクラは先程のやり取りで、アイリスに記憶が戻ったのではと感じていた。
「……はい。全部思い出しました。」
アイリスはキクが目の前で殺された時に記憶が戻ったこと。
今までの生活、メロヴィング国王の隠し子であることなどを話した。
「……そうだったのか。アイリスも大変な目に遭ってたんだな。」
「……似た者同士ですね。」
俺達は見つめ合い、2人とも苦笑いをしていた。
「とりあえず、しっかり食べたら……移動しようか。」
俺はそう言った後に、先程の口移しを思い出し顔を赤くした。
サクラは赤くなりアイリスの方を見れなかったが、アイリスも先程の自分の行為を思い出し、顔を赤くしていた。
その後、2人で食事をして洞窟を出た。




