逃走劇③
「やっと見つけた! ……君達追われているの?」
声を掛けられ後ろを振り返ると先程パンをくれた、白と紫のショートカットの髪型の店員さんが立って居た。
「……はぃ。私は一人で森にいた時に捕まりました。」
アイリスが俯きながら答えた。
「……俺は寝てるうちに誘拐されて奴隷商に売られた。今はアイリスと逃走中だ。」
この店員さんには俺が普通に喋れるのがバレているだろうから俺も言葉を発して事情を説明した。
「……君達を探している奴らが居たから心配だったのよ。ここの兵士は碌な奴がいないから、良かったらギルドに来ない? こう見えて私は冒険者よ!」
と店員さんが手が笑顔で手を差し出して来た。
「……なんで冒険者がパン屋に?」
ギルドへ案内してくれるのはありがたいが俺は疑問をぶつけてみた。
「パン屋さんが人手不足で店員の臨時募集の依頼を出していたから、その依頼中だったのよ。店長に事情を話して抜け出して来たの。」
「分かりました。俺達もギルドに助けを求めようと考えていたので、お願い出来ますか?」
「お姉さんに任せなさい。私の名前はサイネリアよ。よろしくね。」
サイネリアさんを先頭に歩き始めた。
「ギルドまでは、五分くらいで着けると思うわ。ギルドに着いたらギルドマスターのところへ行きましょう。」
「……失礼だと思いますけど、サイネリアさんって冒険者なのに武器は持っていないんですか?」
「持っているわよ。」
と言って右手のブレスレットを指差した。
「……それはブレスレットですよね? アクセサリーじゃないですか!」
子供だからって馬鹿にしてるのか?
「見るのが初めてなのね。このブレスレットは、ネペンテスと言って、収納魔法が付与されているからこの中に武器を入れられるのよ。冒険者の殆どの人が持っているわ。」
「そうなんですか!? 凄いですね!」
俺も大きくなったらそのブレスレットを絶対買おう!
そんな話をしていると目の前に大きな建物が見えてきた。
「あれがギルドよ!」
サイネリアさんが大きな建物を指差した。
「奴らに見つからずに着けてよかったわ。」
「サイネリアさんのおかげで助かりました。ありがとうございます。」
俺達はサイネリアさんに頭を下げた。
「いいのよ。ちょっと気になることもあるし……早く中に入りましょうか。」
俺達がギルドに入るというところで、ギルドの前に奴隷商と奴の手下と思われる兵士数名が現れた。
「手間取らせやがって! ガキが! そこの女! そこのガキ二匹は俺が買ったものだ! 大人しく返せば痛い目に遭わないで済むぞ。」
奴隷商が顔を真っ赤にしながら怒鳴って来た。
「……お断りよ!買ったって言うけど、この子達は誘拐されたと言っていたわ!」
サイネリアは俺達の前に立ち堂々と言い放った。
「!! この女! ……お前らやっちまえ!」
兵士達が武器を構え距離を詰めて来た。
ギルドは目の前だって言うのに!! どうしたはいいんだ!
「……女だと思って舐めないでよね。ブロッサム!!」
サイネリアさんがブレスレットしている手を前に出し唱えるとサイネリアさんの手には槍が現れていた。
「!? この女、冒険者だったのか!!」
兵士達が狼狽え始めた。
「冒険者だろうが所詮は女一人だ! ギルドから余計な奴らが来る前に急ぐんだ! ビビってねぇでさっさと片付けろ!」
奴隷商が兵士達に怒鳴りつけた。
「そ、そうだな。やるぞ!」
兵士達がサイネリアさんに襲いかかった。
「ふっ! やぁー!」
サイネリアさんの槍は、流れるように兵士の剣を巻き上げて叩き落とし、突きを繰り出していた。
「ぐぇっ!」
突きを喰らった兵士は鎧を着ていたが数メートル吹き飛ばされた。
「……この女……お前ら迂闊に近寄るなよ!」
両者睨み合いになったその時、ギルドの扉が開かれた。
ブロッサム=開花です
ネペンテスはウツボカズラという、袋の形をした食虫植物です。
袋の形から、収納の便利グッズの名前にしました。
サイネリア→2月14日の他数日の誕生花
花言葉は、快活、喜びですが、日本では災いを連想させるらしく、お見舞いや祝いで渡すのはNGらしいですよ!




