ノイシュバンシュタイン城〜ゾンビ発生〜
今回は、ストックの兄弟であるスナップが登場となります!
サクラ達がバイエルン村に到着した頃、バイエルン村と隣接するユリウス家の領内の一箇所に、軍隊が集結していた。
軍隊は総勢100人近くおり、軍隊の前には不気味な古城が建っている。
「貴様ら準備はいいか!」
煌びやかな鎧に身を包んだ、何処かストックに面影のある少年が部隊の前に立っている。
「「はっ!」」
部隊の者達は声を揃え、姿勢を正して少年の声を聞く。
「我が領内に古くからある、ノイシュバンシュタイン城にゾンビが住み着き、好き勝手しているようだ。こんな事は断じて許されない!全てのゾンビを消し去るのだ!」
少年は声高々に、部隊に指示を飛ばす。
「「はっ!」」
「全軍突撃しろ!」
「「おおーー!!」」
少年の命令に従い、部隊の者達は次々にノイシュバンシュタイン城に突撃して行く。
「全く、なんで俺様がこんな所に来なければならないんだ。」
「スナップ様、これも当主になる為の大事なことでございます。ここで部隊を指揮してゾンビ共を殲滅すれば、スナップ様の力を領民に知らしめることが出来ます。」
「ムスカリ、そんな事は分かっている。」
スナップは、自身の護衛兵であるムスカリに今回の殲滅戦の指揮の重要性を説明されたが、そんな事は承知の上であると言葉を返す。
「……失礼しました。」
「何でこんな所にゾンビが溜まるんだよ!? 」
「……確かにゾンビが一箇所にこれだけ溜まるのはおかしいですね。上位種が混じっているかも知れませんね。」
当初は、数匹のゾンビがノイシュバンシュタイン城に住み着いているのを、城の外から目撃した者がいたのである。
しかし、スナップが軍隊を引き連れてノイシュバンシュタイン城を観察させると、数匹どころか数十匹はゾンビが確認されたのである。
このまま何もせずに帰れば、臆病者としてのレッテルを貼られてしまうと考えたスナップは、ムスカリや部隊長の声を一蹴し、突撃させたのだ。
部隊長らは、ゾンビだけなら大した敵ではないと思い、貰い勤務だとお気楽な雰囲気でここまで来たものの、ゾンビの数を見て、そんな気持ちは吹き飛んでいた。
何故なら、ゾンビがこれだけいるのであれば、それを指揮する上位種が居るはずだからである。
ゾンビの上位種となると、真剣に掛からなければ痛手を負う事になりかねない。
その思いから部隊長らは、スナップに慎重に行動したいと進言したのだが一蹴されてしまい、仕方がないと突撃を決めたのだった。
「仮に上位種が居ようと、これだけの人数が居るんだ。殲滅は容易いだろう。」
「……そうですね。」
スナップは自身がゾンビらと戦う訳ではないので、お気楽だったが、ムスカリは部隊長らと同じ考えだった為、直ぐに返事が出来なかった。
その頃、場内に突撃した部隊は人型のゾンビや猪型ゾンビ、魔物がゾンビ化したものと戦闘に突入していた。
ゾンビ化した魔物は、通常の魔物と違って肉が削げ落ち、骨が露わになっている。
そのため、生きている魔物より力は落ちるのだが、痛みを感じ難く、スタミナ切れも無い為、厄介なのだ。
しかし、そんなゾンビ達は、光属性の耐性が全く無いため、光属性による攻撃が有効とされていた。
「光魔法を多く使え!」
「数は多いが怯むな! コイツらは大した事は無い!」
突撃した部隊は光魔法を中心に、連携した攻撃で、次々とゾンビらを殲滅する。
しかし、暫くすると異変が起き始める。
「ど、どうなってるんだよ!?」
「光魔法が全く効いていないぞ!?」
「誰か手を貸してくれ!」
突撃した部隊は、光属性を主に攻撃していたのだが、途中からゾンビらは怯むことなく突き進み、部隊を包囲して行く。
「か、囲まれるぞ!?」
「だ、誰か助けてくれーー!」
「何でこんなに居るんだ!?」
部隊員達は、次々と戦闘不能にされて行く。
「……やはり無理があったか。」
「て、撤退しよう!」
「貴様らが攻めて来たのだ。逃すと思っているのか?」
部隊長らが撤退しようと話し合っていると、背後から冷たい声が響く。
「「ガハッ!?」」
部隊長らは背後から腹部を貫かれ、口から血を流し壁へと投げつけられる。
「ま、まさ、か!?」
辛うじて生きの残っていた部隊長は、自身を殺そうとしたモノを見て恐怖を顔を歪め、次の言葉を発する前にトドメを刺されてしまった。
「……全て俺様の物だ。」
部隊長を殺めたモノは、次の獲物を探しにその場を後にした。
部隊長が殺される瞬間を物陰から見ていた兵は、身体が恐怖で震えていたが、勇気を振り絞り、何とかノイシュバンシュタイン城の裏手から逃走することに成功した。
ノイシュバンシュタイン城から逃げ出す事も出来ず、殆どの兵が城の床の上で冷たくなる中、一人の兵が突撃した最初の入り口に辿り着き、扉を開く。
「やった!? たすかっ……。」
「一人出て来ました、ね? スナップ様! 逃げますよ!」
扉を開けて、外に出られたと安堵した瞬間に背後から腹部を手で貫かれた兵士はその場で生き絶え、その様子を目撃していたスナップとムスカリは、一目散に駆け出したのである。
「マルベリーに従う時代は終わった。俺様の時代が来たのだ!」
紫色の筋骨隆々な身体つきをし、鋭い犬歯をしたダンディーな男は、開け放たれた扉から外を眺める。
「な、何だアレは!? あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」
全速力で走りながら、スナップはムスカリへと悪態を吐いていた。
「私も聞いていません。アレは恐らく、吸血鬼かと。私も本で見ただけで、本物を見たことはありませんが、特徴が一致しています。吸血鬼の討伐ランクはSSです。直ぐに国王様に報告して対策を考えましょう。」
「SSだと!? やってられるか! 畜生畜生畜生!」
スナップ達は、開けてはいけない扉を開けてしまったのだった。
ノイシュバンシュタイン城の房の中に、一人の美しい女性の姿があった。
その姿は、人間で例えるなら20歳程であり、銀髪を靡かせ、血のような真っ赤な瞳に薄紫の皮膚をしていた。
「……封印が解かれましたか。」
女性は目を閉じ、静かに成り行きを見守っているように見えたのだった。
ノイシュバンシュタイン城に潜む吸血鬼、城の房にいる女性は一体!?




