アイリスの秘策
クロヴィス・ニベアの部屋には、ニベアと総司令官のルドベキア、ユウガオ隊長の他にも大臣数名が集まっていた。
「しっかり仕留めなさい! あの女、アイリスを生かしておいちゃ駄目なのよ!」
ニベアは、ルドベキア総司令官とユウガオ隊長に怒鳴り散らしていた。
「申し訳ありません。」
「次こそ必ず。」
ルドベキア総司令官とユウガオ隊長は、ニベアに頭を深く下げていた。
「一度ならず二度も失敗するとは。あんな女一人殺せんとは、役に立たん奴らだ。我が国の兵は、隊長クラスでもこの程度なのか?」
大臣達は、口々にユウガオ隊長を愚弄し始めた。
「……返す言葉もありません。」
ユウガオ隊長は、下を見つめ唇を噛み締めていた。
「全く、国王にも困ったものだ。死んでからも我々に迷惑を掛けるとは。あんな貧相な身分の女の子供を残していきおって。」
大臣がアポロ国王のことを思い出しながら、悪態をついた。
「全くその通りだわ。それより、イリスに代わって、あの女にこの国を奪われたらお終いよ! 貴方達もこの国に居られなくなるわよ。どれだけ甘い蜜を吸って来たと思っているの? 貴方達もあの女を殺す意見を出したらどうなの?」
ニベアは、大臣達にも怒鳴り散らした。
「うっ! それなら宿泊施設の食事に毒を持って、毒殺を!」
「人質を取って、殺しましょう!」
「犯罪者を使って、暗殺させましょう!」
「誘き出して、隊長格全員で掛かれば殺せる筈です!」
大臣達からは、次々とアイリスを殺す案が挙げられていった。
「どれも悪くないわね。早速取り掛かるように。」
ニベアが命令し、大臣達は部屋から出て行こうと扉へ目を向けた。
「何故お前がここにいる!?」
「イリス女王様!?」
「何故!?」
ニベアやルドベキア総司令官、ユウガオ隊長、大臣達は、突然現れたイリス女王に驚きの声を上げた。
「お母様、他の皆さんも、今のお話はどういうことですか? 」
イリス女王は怒った表情を浮かべながら、部屋中を見回した。
「聞かれてしまっては、仕方ないわね。イリス。今この国に来ている学生のアイリスと言う者は、貴女の腹違いの姉妹なのよ。イリスもあの女を見たから分かると思うけど、見た目は殆ど同じだわ。でも、あの女は汚い下民の子。女王の座を狙っているに違いないわ。早く手を打つ必要があるなよ。」
ニベアは、イリス女王に話を聞かれてしまったので、事情を話して納得させようと考えていたのである。
「アイリスが女王になると困ることでもあるのですか?」
イリス女王の発言に一同は驚愕した。
「何を言っているの!? あんな女に女王の座を奪われていいの!?」
周りの大臣達もざわついていたが、ニベアはイリス女王に問い掛けた。
「別に私は形だけの女王。何も変わらないわ。私が女王じゃないと困るの? だから、アイリスを殺そうとしたの? アイリスが女王になるなら、私は女王を辞めるわ!」
イリス女王は、周りを見回しながら力強く宣言した。
「何を馬鹿なことを! 貴女は女王なのよ! そんな勝手は許されないわ!」
ニベアは、怒りを表しにしていた。
「全く、傀儡の女王の分際で偉そうに!」
大臣達は、イリス女王を批判し始めたのである。
「イリス。ここから出て行きなさい!」
ニベアは、このまま話していても拉致があかないと思い、後でイリス女王を説得しようと考えていた。
「……出て行くのは貴方方です。この国から出て行きなさい!」
イリス女王は、力のこもった瞳でニベアを見据えた。
「ふん、何を言っているのよ!? 貴女が逆らったところで、何にも出来ないでしょ? 貴女は只の傀儡なのよ。調子に乗るんじゃないよ!」
ニベアは顔を赤くさせ、イリス女王には何も出来ないと馬鹿にしていたのである。
「もう貴方方の悪事は、王都中に知れ渡っています! もう聞こえて来ていますよ。王都の民達の怒りの声が!」
イリス女王の言葉の通り、外から怒声が聞こえて来たと思うと、勢いよく部屋の扉が開けられ、兵士が飛び込んで来た。
「ニベア様、大変です! 王都中の民が押し寄せて来ています! 先程の放送がきっかけかと!」
兵士の話で場は混乱と化した。
「どういうことなの!? 何故民が? 放送とはどういうことなの?」
ニベアは状況を理解することが出来ず、兵士を問い詰めた。
「ニベア様や大臣の皆様の声が王都中に響いていました。それを聞いた民達が押し寄せて来たのです!」
兵士の説明を聞いて、ニベアはイリス女王を睨み付けた。
「貴女がやったの!?」
ニベアは、イリス女王の能力を把握していたと思っていたので、どうやって今の状況を引き起こしたのか理解出来なかったのである。
「私にはそんな力ありません。協力してもらいました。」
イリスの言葉と共に、アイリスが姿を現した。
アイリスの思い付いた考えは、アイリスの音属性を使用して、王都中に部屋の中で行われた会話を流すというものだったのだ。
「貴様の仕業かーー! よくもやってくれたな! 絶対に許さん! コイツを殺せ!」
ニベアは、アイリスを射殺すような形相で睨み付け、ルドベキアや各隊長に殺すように命じた。
「させるかよ! 奥義“豆桜”!」
俺も姿を現し、身に付けていた結界属性を最大限で発動して、ルドベキアやユウガオなどの隊長格を結界内に閉じ込めたのだ。
「「!?」」
結界に閉じ込められたルドベキアらは、身動きを取ることも、魔法も発動することも出来ない状態となった。
「お前らの悪事もこれまでた!」
この後、ニベアらは捉えられて地下牢へと入れられた。
その後、ニベアに賛同していなかった大臣や貴族らを集めて、イリス女王が中心となって、新生メロヴィング王国が始動したのであった。




