イリスのお忍び
最初は、メロヴィング王国の王女イリス視点です。
私はクロヴィス・イリス、メロヴィング王国の女王をしています。
今日はビックリすることがありました。
何と、私そっくりの女性に出会ったのです。
まぁ、髪の毛の色は違ったけど。
名前もアイリスって言うみたいで、私と似ている。
もっと色々聞きたかったけど、お母様に注意されてしまったので、あまり話すことはできなかった。
確かに、大勢のお客様の前で個人的な話は失礼でしたね。
部屋に戻っても、アイリスのことが忘れられませんでした。
女王ともなると、自由がなくあまり自分の時間はありません。
魔人に襲撃されるまでは、私のお父様であるクロヴィス・アポロが国王として国を治めていましたが、お父様が殺され、国の大臣や権力者の方々のお陰で何とか復興し、難を逃れた私は直ぐに女王となりました。
女王と言っても、名前だけで私は何もしていない。
殆どのことは、お母様が大臣達に指示を出している。
「ひ〜ま〜だ〜よ〜。」
私はベッドの上で仰向けになり、足をバタバタと上下に動かしていた。
人前ではお淑やかに振舞っていますが、人の目が無くなると気が抜けてしまう。
「……アイリスとお話ししたいな。」
イリス女王は、悪戯を考え付いた子供の様な顔をしていた。
「女王にも自由が必要よ。 “透明人間”」
私は、色彩属性という特殊属性を有している。
イリス女王は色彩属性の透明人間を発動し、着衣諸共姿を透明に変えた。
(ちょっとだけ、お出かけしてきま〜す。)
イリス女王はそっと部屋の扉を開けて、王城から王都へと足を運んだ。
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「アイリスって、どこら辺に住んでいたんだ?」
サクラは横を歩くアイリスへと声を掛けた。
メロヴィング王国に来たのだから、アイリスの生まれ育った場所を見てみたかったのだ。
「私は、北地区にある宿屋で生活していたの。……育ての両親も魔物に殺されてしまったと、私を助けてくれた方に聞いてるから、今はどうなってるのかな。」
アイリスの返事を受けたサクラは、見に行ってみようと提案し、みんなで北地区へと向かったのである。
「確か、ここら辺だったと思うんだけど? あ!?」
サクラ達は北地区へと辿り着き、アイリスは周囲を見回して、面影が微かに残る宿屋を見つけたのだ。
アイリスの視線の方へサクラ達も目を向けると、宿屋の看板を掲げている建物があった。
「行ってみるか?」
サクラはアイリスへと声を掛けると、アイリスは頷いて応え、宿屋の中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃーーい!」
受付にいた40歳くらいの女性が、サクラ達へと声を掛けた。
「……。」
受付にいた女性は、入って来たサクラ達へと目を向けて言葉を失った。
俺は、受付の女性が目を見開いてアイリスを見ていることに気が付き、アイリスへと視線を向けたが、アイリスは首を傾げていた。
「あ、アイリスちゃん?」
受付の女性は、アイリスの名前を口にした。
「えっと、そうですけど、何処かでお会いしていますか?」
アイリスは初対面だと思われる女性に、突然名前を言われて困惑していたのである。
「本当にアイリスちゃんなのね!? 魔人に殺されてしまったのかと……無事だったのね。」
女性は涙を流しながら、アイリスが生きていることを喜んでいた。
「私はトロワよ。貴女の生みの親と育ての親の妹よ。私達三姉妹でね。貴女がまだ3歳の頃に一度会ったことがあるのよ。」
トロワは微笑みながら自身とアイリスの関係を打ち明けたのである。
「そうだったんですね! ごめんなさい、覚えていなくて。」
アイリスは覚えていなかったことを謝ったが、トロワは「まだ小さかったからね。」と答えた。
「まだ宿を決めてなかったし、ここに泊めさせてもらうか? トロワさん、部屋空いてますか?」
俺は、折角アイリスが身内と会えたので、長く一緒に居られるように、この宿屋に泊まることを提案した。
「ん? まだ泊まるとこ決まってないの? 全然オッケーよ! 」
こうして、俺達はトロワさんの宿屋に宿泊することになった。
「そういえば、アイリスちゃんは自分の父親のことは姉さんから聞いてるの?」
トロワは、アイリスが自身が国王の娘であることを聞いているのか尋ねた。
「魔人襲撃の際に、私を助けてくれた方から、国王様の娘と言われました。アンからは何も聞いていませんでした。」
アイリスは、自分を助けてくれたサイネリアから聞いたが、育ての親であるアンから直接聞いたことは無いと答えた。
「貴女は間違い無く、クロヴィス・アポロ国王様の娘よ。姉さんが宿屋で働いていたのを見た国王様が一目惚れしてね。二人は本当にお似合いのカップルだったわ。ただ、身分違いの相手に大臣や貴族からの反発が凄くてね。それで姉さんは身を引いたの。暫くして貴女が生まれた時に、姉さんは亡くなってしまったけど、アン姉さんがアイリスをうちの子として立派に育て上げるって、引き取ったのよ。」
トロワは、アイリスが国王の娘だと断言し、アイリスが宿屋で生活することになった経緯を口にした。
「そうだったんですね。」
アイリスは、自身の生まれの経緯を始めて知った。
「貴女には国王様の血が流れているし、国王の面影もあるんだから、王族として国に迎えてもらえるんじゃないかしら?」
トロワは、アイリスなら王族として生活できるのではないかと口にした。
「……私は今の生活に満足しています。」
アイリスはサクラへと目を向けて、直ぐにトロワへと視線を戻し、微笑んで答えた。
「そう。アイリスちゃんが幸せなら姉さん達も満足だろうね。」
トロワは温かみのある表情を浮かべていた。
「ご、ごめんなさい。盗み聞きするつもりは無かったんです。」
突如アイリスの横からイリス女王が姿を現し、その場に居合わせた者達は目や口を開けて驚いたのだった。




