逆転
オダマキの裏切りによりアイリス達はピンチとなった。
「何言ってるのよ! そこにいるローリエ国王は、ゲッゲイジュなのよ!」
アイリスは、ローリエ国王を指差して、ローリエ国王の正体がゲッゲイジュであると宣言した。
「何を馬鹿なことを、この無礼者が!」
親衛隊や大臣連中からアイリスに向けて、怒声がぶつけられた。
「馬鹿なことじゃない! 変化魔法で姿を変えているだけよ!」
カトレアもアイリス同様に声を上げた。
「変化魔法だと? ふざけたことを抜かすな! コイツらを拘束しろ!」
この場に居合わせた国に仕える者達は、誰一人アイリス達の言葉に耳を傾けなかった。
「まさかアンタもそっち側の人間だったとはね。失望したよ。」
サザンカは、オダマキを睨みつけていた。
「私はこの国の筆頭魔法使いですよ? 国王様に従うのは当たり前です。」
オダマキは、サザンカの言葉を嘲笑っていた。
「国王様を陥れようとは、国家転覆を企む輩は即刻死刑だ! 打ち取れ!」
総司令官キブシが声を張り上げ、親衛隊達はアイリス達に詰め寄った。
「やるしかないよね。」
アイリスは、戦う覚悟を決めてサザンカとカトレアに視線を向けた。
サザンカとカトレアもアイリスと同じ考えだった為、二人は直ぐに頷き、武器を取り出した。
「“消去する波”」
サクラの声が王の間に響き渡り、サクラの放った魔法を打ち消す波が王の間に広がった。
「「「「「?」」」」」
サクラの魔法を受けた者は、いきなり頭の中にあった靄がなくなったように、頭がクリアになったが、状況を理解できないでいた。
「ゲッゲイジュがいるぞ!」
「どうなっているんた?」
「ローリエ国王様は何処に?」
「父上!? 俺は一体どうなっていたんだ!?」
ローリエ国王の親衛隊や目を覚ました大臣達が、国王の衣服を纏い、玉座に座る禿げたおっさん、ゲッゲイジュの姿に驚いていた。
ザクロも自身に掛けられていた精神魔法が解除され、今までの自分の行動を思い返して頭が混乱していた。
「キサマぁーー!」
ゲッゲイジュは、魔法防止の拘束を受けていた筈のサクラが、拘束を逃れて魔法を発動したため、激昂した。
「残念だったな、ゲッゲイジュ伯父さん。」
サクラは変身魔法を解いて、本来の桜色の髪と瞳を晒した。
「「「「「え? 馬鹿な?」」」」」
「まさか、サクラ王子?」
親衛隊や大臣連中がサクラの容姿に驚きの声を漏らした。
「サクラが王子?」
「サクラ君が桜色の髪の毛に!」
ハルジオン先生とネモフィラ先生もサクラが王子と知り、驚いていた。
「俺が1歳半頃に、アンタに誘拐されたのが最後に見た時だったかな?」
俺はアイリス達に近付きながら、ゲッゲイジュに声を掛けた。
「やはり貴様だったか! どうやって魔法を発動したんだ!」
ゲッゲイジュは、サクラが何故魔法を発動出来たのか理解出来なかった。
「? 俺には状態異常は効かないぞ。拘束されてる間も変身魔法は解除されてなかったろ?」
サクラが説明したように、サクラは拘束されている間も、金髪に金の瞳のままだったのだ。
「リュウオウといい、貴様といい、何故俺様の邪魔ばかりするんだ! 」
ゲッゲイジュの言葉から周りの者達は、ハッとなりゲッゲイジュの側からサクラ側へ移動した。
「諦めるんだなゲッゲイジュ。アンタに倭国は任せられない。大人しく拘束されろ。」
「貴様のような小僧に何が出来るというのだ! ……殺れ!」
ゲッゲイジュの言葉を受けて、アイリスとカトレアの背後に移動していた、総司令官キブシと筆頭魔法使いオダマキが殺意を持って、アイリスとカトレアを襲おうと動き出した。
「「何!?」」
総司令官キブシと筆頭魔法使いオダマキの二人は、アイリスとカトレアが瞬時に振り返り迎撃されたことに驚愕した。
「詰めが甘いな。俺の眼は誤魔化せないぞ。そいつらはアンタの精神魔法無しでアンタに従っていた。見逃す訳無いだろ。」
俺は拘束されたフリのまま、王の間に連れてこられ、みんなの視線がオダマキに向いていた隙に、神眼を発動して、みんなの状態を確認していたのだ。
そして、アイリスとカトレアに信頼の絆を使って、状況を伝えていたのだ。
「サザンカさんとアイリスで総司令官を、カトレアとオロチで筆頭魔法使いを相手してくれ。俺がゲッゲイジュとやる。」
俺はアイリス達に指示を出して、ゲッゲイジュに近付いた。
「待ってくれ!」
俺とゲッゲイジュの間にザクロが割り込んで来た。
「なんだザクロ? お前は精神魔法を解いても父親の味方なのか?」
俺は、ザクロが出てきた理由を問いただした。
「違う! 昔の父上はとても優しかった。何故このようなことをしたのです!」
ザクロは俺の問いを否定し、ゲッゲイジュへと振り返った。
「我らは王族だ。王族はなんでも出来る! 民の物は全て我の物! 至高の存在である我が何をしようと勝手であろう!」
ゲッゲイジュは、自分勝手な言い分を喚き散らした。
「違います! 民あったの国です! そのような横暴が許される通りは無い!」
ザクロは力強く、自身の父親の意見を否定した。
「分からんか。やはり素のお前では役に立たんな。」
ゲッゲイジュは、ザクロの意見に受け入れることなく、自分の息子を役立たず呼ばわりした。
直後、背後から轟音が二つ鳴り響いた。
「サクラ捉えたよ。」
「サクラ終わったわよ。」
総司令官と筆頭魔法使いを倒し終えた、アイリス、カトレア、オロチ、サザンカがサクラの横へ並んだ。
総司令官と筆頭魔法使いは、親衛隊や駆けつけた兵士に拘束されていた。
「後はアンタだけだが?」
俺は、ゲッゲイジュへと視線を向け、どう出るのか様子を窺った。
「覚えていろ! いつか、か、な、ぁ、ああーー!」
ゲッゲイジュは、捨て台詞を吐いて逃走を図ろうと振り返ったところで、妻のスミレに腹部を短刀で刺された。
「ス、スミレ、な、何故だ!?」
ゲッゲイジュは、刺された腹部を抑えながら膝から崩れ落ち、妻のスミレを見上げた。
「もう終わりにしましょう。まさか息子のザクロにそのような事をしていたなんて。……貴方の妻として貴方の暴走を止められなかった私にも責任があります。一緒に死んであげますよ。“絶対零度”」
スミレ王妃は、膝をついて見上げていたゲッゲイジュに抱き着き、自身もろとも氷漬けにした。
そして、ゲッゲイジュとスミレの氷は直ぐに音を立てて粉々に砕け散った。
「父上、母上ーー!」
ザクロは、ゲッゲイジュとスミレ王妃に手を差し伸べたが、二人に届くことはなく、その手には粉々に砕け散ったカケラが握られていた。




