みんなでトレーニング
みんなで鍛えましょう〜
「それじゃ、今日からみんなで頑張ろう!」
俺達は、動き易い服装に着替えて寮の前に集まっていた。
「訓練施設に行かないのかい?」
デイジーが、何故寮の前に集合したのか疑問に思い質問して来た。
「学校の敷地内を走るからだよ。」
俺は、デイジーの質問に答えた。
「えっ? 魔法のトレーニングするんじゃないの?」
アカンサスは、想像していたトレーニングと違ったため驚いていた。
「勿論魔法も使うよ。最初は、走りながら小指から順番に指先に魔法を発動するトレーニングだよ。走りながらやることで、止まって魔法を撃つより難易度が上がるし、魔法のイメージ力や魔法の精度なんかが上達し易いからね。」
俺は、走りながら魔法を使うトレーニングをずっとやって来たので慣れっこだが、初めてやるとこれが中々難しいのだ。
「成る程ッス! そんな訓練方法があったとは驚きッス!」
リンドウは、俺のトレーニング方法に感動していた。
「ところで、何でオロチさんがいるんだ?」
ストックが人型になっているオロチに視線を向けていた。
「何だよ? 俺様がいちゃ悪りぃのかよ?」
オロチはストックへ鋭い目を向けた。
「ひぃ! わ、悪くないです! 全然オッケーです!」
ストックは、蛇に睨まれた蛙のように体を萎縮させ、震えながら答えた。
「おいオロチ、そんな目を向けるなよ。……オロチも鍛えて貰わないと、今のまま魔人と戦うことになったらオロチでも敵わないからな。」
俺は、魔人ともオロチとも戦っているので、お互いの力をある程度理解しているつもりだ。
まぁ魔人も本気じゃないし、オロチも本調子の時では無かったが、恐らくオロチが本調子でも勝てないだろう。
「俺様の全力と戦ってもいない癖に偉そうに。調子に乗るな。」
オロチは、俺が魔人には勝てないと言ったことに機嫌を悪くして、そっぽを向いていた。
「確かに俺の全力を出しても、今のオロチには勝てないだろうな。だけど、直ぐに替えてやるからな。」
俺はオロチの力を低く見ているつもりはない。
今のオロチと俺がやり合ったら負けるだろう。
だから、もっともっと強くなるんだ。
「……んだよ。わぁてるじゃねぇか。」
オロチは照れているのか、頬が赤くなっていた。
「サクラ、そろそろ始めよっか。」
アイリスの声に周りを見ると、みんな早く始めたくてうずうずしていた。
「よし。始めよう!」
俺の掛け声で、俺達のデスマーチが始まった。
各々、俺が最初に説明したように、走りながら指先に魔法を発動していた。
これは、指先に意識を集中し過ぎると、走りが変になるし、注意力が散漫になって転び易くなるし、逆に走りに集中すると魔法を上手く発動出来なかったりと、かなり難しいのだ。
みんなは初めてやる訓練に、転んだり、手と足が同時に出たり、魔法が発動していなかったりと苦戦していたが、オロチは楽々こなしていた。
最初のトレーニングなので、俺とアイリスとカトレアはみんなにペースを合わせて走っていた。
オロチは、俺の命令に嫌々ながら従ってゆっくり走っていた。
所々で、みんなにアドバイスをしながら走り続け、みんなセンスがいいのか最後の方は、かなりスムーズに出来るようになっていた。
「ダァーー! 疲れたッスーー!」
リンドウは、寮の前で寝転がり大の字になっていた。
他のみんなも似たり寄ったりで、疲れ切っていた。
「みんなお疲れ! 今日の総仕上げは、何の属性でもいいから、魔法球を作り出して、魔法の上乗せをやるよ。魔法球が暴走しないように、コントロール出来る限界までだぞ。」
俺の言葉にみんなは驚愕していた。
「まだやるアルか!?」
「……鬼畜。」
俺の言葉に、ボタンとウメが抗議して来た。
……鬼畜て。
「かなり疲れているだろうけど、まだ余力はあるだろ? 最後までしっかりやる。」
俺の言葉に、みんなは項垂れながらも立ち上がり、最後までやりきった。
「はぁはぁはぁ。お疲れーー!」
続々とみんなが倒れていき、俺も粘ったが最後まで残ったのはオロチだった。
「……はぁ〜。俺様はこんな奴に負けたのか。」
オロチは深い溜息を吐いて魔法を解除した。
「……ちくしょーー。……次は勝つぞ。」
俺は仰向けのまま、天に向かって叫んだ。
「こんなところで寝てると風邪ひいちゃうぞ。」
寮母のペチュニアさんが、てこてこと俺達の下へ歩いて来た。
「……魔法使い過ぎました。」
俺の返事にペチュニアさんは、「そかそか。」と答えてみんなを見回した。
「しょうがないなぁ〜。“おへやにもどれ〜”」
俺達は、寮の自室のベッドの上に転移していた。
「マジか?」
あのふざけた呪文で俺達を一気に転移させたと理解した俺は、ペチュニアさんの力に驚愕した。
「あれ? オロチは?」
俺は周りを見回したがオロチの姿は無かった。
「貴女、八岐大蛇でいいのかしら?」
ペチュニアは、真剣な目でオロチを見据えた。
「そうだが?」
オロチは、ペチュニアに向き合い肯定した。
「……お酒は好きかしら?」
ペチュニアが、どこから出したか分からないが大きな酒瓶を取り出した。
「そ、それは!?」
オロチは目を見開き、口からは光沢を放つ液体が垂れていた。
「私の秘蔵コレクションの八塩折の酒です。いっしょにどうですか?」
ペチュニアは、オロチを呑み相手に誘っていた。
「い、いいのか!?」
オロチは、手をワナワナさせてペチュニアに確認した。
「このクラスのお酒になると付き合ってくれる人がいないんですよ。」
ペチュニアは、寂しげな表情を浮かべた。
「俺様で良ければ喜んで付き合うぞ!」
オロチは喜んで答えた。
「嬉しいわ。私の部屋で一緒に呑みましょ。」
ペチュニアとオロチは、並んで寮へと入って行った。
この日から、毎夜ペチュニアとオロチの呑み会が行われるようになった。
「オロチどこ行ったの?」
俺の声だけが虚しく部屋に響いていたのだ。
今回は、ペチュニアさんとオロチが仲良くなる話で終わりました!
あれ?訓練がメインの筈だったのに!




