過去編 母の日
母の日なんで、投稿します。
俺が2歳の頃、この国にも母の日があることを知った。
「サクラ王子、今日は母の日ですね。」
アイリスが俺の部屋を掃除しながら声を掛けて来た。
「え? 母の日ってこの世界にもあるんだね。」
俺は、前の世界でも母の日にはいつもプレゼントを贈っていた。
小さい頃はお金も無いので、肩叩き券やお手伝い券を渡していた。
お小遣いをもらってからは、赤いカーネーションを1本しか買えなかったが、プレゼントして日頃の感謝を伝えた。
高校生になった頃は、恥ずかしさからプレゼントを送らなかった。
勿論、感謝はしていた。
社会人になってからは、カーネーションの花束の他にも、バッグやハンカチなどをプレゼントした。
母さん元気にしてるかな? 親より先に死んじゃって、俺って親不孝者だよな。
「サクラ王子、サクラ王子? 聞いていますか?」
アイリスが俺に顔を近づけて覗き込んでいた。
「うぉ? ど、どうしたアイリス?」
考え事してたら、いきなり目の前にアイリスの顔があってびっくりした。
「いえ、サクラ王子が《この世界にも》と言われたので……。」
アイリスは、不思議そうな顔をしていた。
「あ〜。聞き間違いじゃない。それより母の日は、何をプレゼントするのが一般的なのかな?」
俺は適当に、苦笑いして話を逸らした。
「サクラ王子からのプレゼントなら、何でも王妃様は喜ばれると思いますよ。一般的には、花ですね。」
アイリスが笑顔で答えてくれた。
「う〜ん。やっぱり花か〜。カーネーションが人気なの?」
母の日は、世界共通で花が人気なんだな。
「よくご存知ですね。赤いカーネーションが人気ですよ。」
アイリスは、俺がカーネーションを知っていたことに驚いていた。
「でも、俺お金持ってない。」
流石に2歳の俺には、自由に使えるお金がない。
「そうですよね。花以外にされますか?」
アイリスも俺の年齢から、お金が無いことに納得し、どうするのか尋ねて来た。
俺は、しばらく何をプレゼントしようか考えて口を開いた。
「良し。決めたぞ!」
俺は目をキラキラさせて、目的の物をアイリスと一緒に調達しに行った。
「あの〜、サクラ王子? これで何をされるんですか?」
俺とアイリスの前には、ハサミとのりとペン、白色の紙と緑色の紙と赤い絵の具と水の入った瓶、安物の皿(城の中では)が置かれていた。
「お金が無ければ、作ればいいのだよアイリス!」
俺はドヤ顔を決めた。
「えっと? これで?」
アイリスは、分からないといった顔をしていた。
「アイリスも一緒にやろうぜ! まず、白色の紙を1枚目の前に置く、そして、赤い絵の具を皿に出して、水を少し垂らして溶かす。」
俺は手元で作業しながら説明し、アイリスも俺の説明を聞きながら真似していた。
「次に、両方の手のひらをこの溶かした絵の具に付ける。」
俺はそう言って、両方の手のひらに溶かした赤い絵の具を付けた。
「でもって、この白色の紙に手形を付ける。後は、緑色の紙をハサミで切り取って茎と葉を作り、のりで貼り付けて、文字を書けば、……出来た。」
白色の紙には、俺の手形で出来た2本のカーネーションが描かれていた。
文字は、《かあさんいつもありがとう》と書いた。
「……私も出来ました。」
アイリスの方には、《王妃様いつも気にかけてくださって、ありがとうございます》と書かれていた。
「おーー! アイリスの上手に出来てるね。」
俺のよりアイリスの方が手が大きいので、花びら部分の手形も大きく、茎や葉も綺麗に切れていてバランス良く貼り付けられていた。
「あ、ありがとうございます!」
アイリスは、顔を赤く染めて喜んでいた。
「直ぐに持っていかれますか?」
アイリスは、使った道具を片付けながら聞いて来た。
「う〜ん。ちょっとこれだけだと寂しいかな? 厨房をちょっと借りてみようか。」
俺の提案に、アイリスは首を傾げながらも付いて来た。
「すいませ〜ん。厨房をちょっと借りたいんですけど?」
俺は、厨房に居た若い料理人の女性に声を掛けた。
「厨房は遊ぶところじゃ無いよ! 帰りな……って、サクラ王子!? 失礼しました!」
料理人の女性は、俺に気が付いて慌てて謝罪し出した。
「お仕事中に申し訳ありません。……実は、母の日のプレゼントにスイーツを作りたいのですが、材料と厨房をちょっと借りてもいいですか?」
俺は料理人の女性にお願いしてみた。
「どうぞ、どうぞ! 王妃様はきっと喜んでくれますね! ……確認ですが、サクラ王子は料理が出来るんですか?」
料理人の女性は、快く食材と厨房を貸してくれた。
「あ、あの、サクラ王子! このレシピを使わせてもらってもいいですか?」
料理人の女性は、鼻息を荒くして興奮しながら俺に詰め寄って来た。
「ど、どうぞ! 手伝って頂きましたし、そのおれいです。」
俺は、若干引きながらも了承した。
「やっほーーい!」
料理人は、クルクル回りながら喜んでいた。
コンコン!
「サクラとアイリスです。」
「どうぞ〜。」
部屋の中から、母さんの返事がした。
「あら〜、二人揃ってどうかしたの?」
母さんが笑顔で迎え入れてくれた。
「今日は、母の日だからプレゼントを作って来たんだ。……はいこれ!」
俺とアイリスは、手形カーネーションをプレゼントした。
「わぁーー。凄く綺麗なカーネーションね。ありがとうサクラ、アイリスちゃん。」
母さんは、そう言って俺達を抱きしめた。
「まだ、プレゼントがあるんだ!」
俺はそう言って、部屋まで運んで来ていた台車の上に置かれた蓋を外した。
蓋を外すと、大きなフラワーバスケットケーキが姿を現した。
沢山の苺に、生クリームがふんだんに使われており、花の形があちこちに作られている。
「すごーーい! これどうしたの?」
母さんは、フラワーバスケットケーキに驚いていた。
「俺とアイリスと、少しだけ料理人に手伝ってもらったんだ。」
俺は母さんに料理状況を伝えた。
「サクラ、アイリスちゃん、凄いわね。本当にありがとう。」
母さんは目に涙を浮かべながら声を零した。
この後、父さんも部屋に呼んで、みんなで母さんへの日頃の感謝を伝えて、ケーキを食べたのだった。
カーネーションも色によって花言葉が変わります。
無難なのは、赤色ですね。
バラは、8本だと《あなたの思いやりや励ましに感謝します》になるそうです。




